濡れた瞳に映る想い出

コウ

濡れた瞳に映る想い出

 大量の水滴が勢いよくアスファルトを打ちつける。


「うわっ、水溜まり踏んだ!!」


 土曜日の部活帰り、学校で待機していても全然止む気配がないとわかった俺は、遅くなる前に学校を飛び出して全力疾走中である。


「あっ!ビニール傘を買えば!」


 確か、セ○ンやロー○ンのビニール傘は600から700円程度だったはず、最近、散財したが足りるぞ!


 と、名案を思いついたところで、俺の右に握られているココアの空き缶の存在に気づく。


 あっ…、このココアで俺の財布の金はビニール傘ラインを下回った。


 俺、佐藤さとう祐介ゆうすけ17歳。絶対絶命である。


「なにやってんだ、俺!ココア買わなきゃ買えただろぅ!」


 そんな虚しい俺の嘆きも雨の音によって掻き消されるだけだ。


 俺は腕を振り上げる。そのまま、ココアの空き缶を地面に叩きつけようとした。が、そこで、公園の一人の少女に目が止まる。


「ん?天音あまね…?」


 なんで、こんな雨の中一人で傘も差さずに黄昏ているんだ…?


 如月きさらぎ天音。俺の小さい時からの幼なじみだ。黒髪のショートカットの美少女だ。頭も良く、テスト前になると俺と美優みゆで教えを乞いに行くことも少なくない。


 美優というのは…


 日向ひなた美優。二人いるうちのもう一人の幼なじみだ。少し茶髪のミディアムロングでこれまた美少女。性格も明るくクラスでは結構人気がある。


 この二人は相当仲が良く、いつも一緒に登校する時なんかは俺は二人を温かい目で眺めている。


 別に、百合が好きという訳では無い。幼なじみ二人が幸せそうにしているのが好きなんだ。


「フッ、部活帰りのこの俺を待っていた……訳では絶対ないな。うん。」


 俺はそんなくだらない冗談を一人で呟きながら、天音の方へと向かう。


「天音?こんな雨の中、一人で黄昏ているとか、なんかあったか?」


 さっきまで、泣いていたかのように目は赤く腫れていた。それに表情はいつもより暗い。


「…祐介か、…あなたのせいで……」


 そう言って、天音は俺を睨みつけるかのように見てくる。


「怖ぃ、お、俺、なんかしたか、しましたか?(早口)」


「…」


 美優となにかあったなこれは恐らく。それにしてもなんて顔しているんだ。


 なにかしてやりたいが、俺の服は濡れてて被せれないし、傘はないし、右手の空き缶はゴミだし、ハンカチも使用済みしかない。


「風邪ひくから、とりあえず俺の家こい。」


「…嫌だ。」


「は?いやいや、何もしないから。それに、風邪ひくと、み……、おじさんとおばさんも悲しむから。」


「…」


 いつもより頑固だな。っていうより、俺になにか恨みでもある感じか?


「あー、クソッ。無理やり連れていくからな!!…って肌冷た。」


「離して!」


「嫌だね。お前の気持ちなんか知るか。お前に死んで欲しくない。その俺のエゴだけで連れて帰るぜ!」


(うお、軽っ)


 俺は天音を持ち上げ、濡れてて申し上げないが俺の上着を天音の顔に被せる。知り合いにバレて恥ずかしめを受けるよりいいだろ。


 そして俺は自分の家に向かって走る。走ってる途中、セクハラセクハラと文句を言ってくるが気にしない。


「あれ、男が力で無理やり女の子を家に連れて帰ろうとしてるとか、普通に犯罪じゃね。」


「気づいてるなら早く離して!今日に限って、あんたの手を借りるのが一番嫌っ!」


 今日…?


 ◆


 俺の家到着!


 だいたい両親は出張で家にいないから、誤解はされない。


「シャワー浴びろ。服は俺のジャージくらいしかないから我慢してくれ。」


「私はかえ、クシュンッ。」


「とりあえずシャワー浴びてこい。そこから、どうするか話し合おう。」


 俺はタンスからジャージを取り出し、天音に渡す。サイズは勿論大きいけど、胸大きいしちょうどいいだろ。本人にはこんなこと言わないけど…。


 天音は諦めたようで、お風呂場に向かった。シャワーの音を確認したあと、俺はびしょびしょに濡れた服を脱いで、着替えることにする。


「あー、寒い。天音が帰った後にゆっくり入ろう。」


 そして、天音が上がってくる前に、ホットココアを二人分準備する。


 しばらくすれば、大きめのジャージを着た天音を出てくる。ジャージなのになんだか色気を感じる。


 今になって気づいたが、母さんの服出せば良かったな。え、わざわざ自分の服を着せる変態とか思われてないかな。


「さすがに服も、ズボンも大きいな。ホットココア作っておいたから飲めよ。」


 天音はテーブルでココアを飲み始める。俺もそれに続いて飲み始める。


「…」


「…」


 き、気まずい…。なんだかんだいつも楽しく話してるからなおさら気まずい。


「ごちそうさま。じゃあ、帰るね。」


「はーい、って、ちょっ、待って!まだ、雨降ってるから、まだステイしよう!」


 帰ろうとした天音は自分が来ているジャージを見てから、「わかった。」と言ってくれる。


「おじさん、おばさんに連絡していいか?」


「お父さんとお母さん、今日は家に帰ってこないから、迎えも来れない。」


 うわぁー、まじか。泊めるしかないか。


「…じゃあ、家に泊まっていくか?まだ、雨も止まなそうだし。母さんの部屋を使っていいよ。天音の服は洗濯して乾かせば明日の朝には乾くから、着て帰れる。」


「自分でやる。」


 それは勿論、そうしてくれ。


 ◆


 side.如月天音


 私は今、祐介のお母さんの部屋に泊まっている。


 私は今日、美優に振られちゃって雨の中泣いていたところを祐介に発見され家に連れてこられた。


 はぁ、「そんな対象には見れない。」か…。


「ぐずっ、ぅ…」


 何故だろうか、泣き止んだはずなのに、また涙が流れてくる。


 いつも抱きしめてくれたのに…

 大好きっていつも言ってくれたのに…


「全部、うそだったのぉ…?」


 違う。嘘なんかじゃない。そんなことは分かってる。分かってるけど…、私が悪いけど…。今日、一緒に遊んで、我慢できなくて。この気持ちを抑えたままなのも嫌だったんだ…。


『天音ちゃん…、ごめんね。そんな風には見れないの。天音ちゃんが私をそんな風に思ってたなんて思わなかった。でも、これからも友達として仲良くして欲しいな。』


『あ、う、うん。ごめんね。』


『それに、好きな人もいて…。』


『…え、ゆ、祐介…?』


『う、うん…。』


 そう言って、顔を赤らめて笑う美優の表情は胸が苦しくなるくらい可愛くて。綺麗で。でも、今まで私に見せたことがないもので。


 私にその笑顔が向くことはないんだなって…


「はぁ、何も知らない祐介に冷たくしちゃったな…」


 あー、いっつもいっつも優しくして。原因も何も聞いてこないし。本当にムカつく。


「うぅ、そんなところも好きになったんだろうな…。美優…」


 祐介は悪くない。私が冷たくするなんて間違っている。けれど、誰かに当たらないと…整理できなくて…。


「こんな、私に振り向いてくれるわけないよね…。」


 そして、意識はまどろみへと沈んでいく…


 夕方に私の身体を冷やした雨音が今はただ心地よかった…。


 ◆


「なんだ…?身体が熱い。重たい。」


 どうやら俺は昨日の雨の影響か風邪をひいてしまったらしい。風邪なんて久しぶりにひいたきついな〜。


「あ、今何時だ…?あと少しで昼じゃねぇか…。多分、天音は既に帰ってるだろうな。」


 あいつも風邪ひいてないか心配だな…。


 飯は…、食わなきゃなんだけどやる気起きねぇわ。


 そこで、俺の部屋がノックされ、扉が開かれる。そこからは天音が入ってくる。服はしっかり乾いたようで昨日外で会った時の服を着ている。


「天音…?」


「熱があったから一応…。お粥作ったんだけど食べれる?」


「あ、あぁ。うん。ありがとう。」


 俺は天音からお粥を受け取る。お粥なんていつぶりだろうか。子供とき以来なんじゃないか。


 俺はスプーンで掬って、口に運ぶ。


「あ、あつっ!」


 アッチー、ぼーっとしてた。頭、回らねぇ。


「祐介。貸して、食べさせてあげる。」


「え、いや大丈夫。」


 と言ってもスプーンは奪われる。


「ふぅふぅ…、はい。」


「いや、恥ずかしいし、自分で食べれるよ。」


「嫌よ。あんたの気持ちなんか知らない。なにかあったら困るし。」


「クソ、昨日の俺のようなこと言いやがって……。あーん…、うん、美味い。」


 まだ、笑顔って訳では無いけど、昨日より表情は柔らかくなった感じがして…


「可愛いな…」


「は!?」


「ありがとな、天音。やっぱりお前は優しいな!」


 その口を防げと言わんばかりに、お粥を口に運んでくる。ちょっ、ペース速いよ。しっかり、冷ましてから運んでくれるから火傷はしないけれど…。


「……どういたしまして。」


 そう言って、天音は少し微笑んでくれた気がする。食事を取れば、まだ眠気が襲ってきた。頭も重たい。


「ごちそうさま…。俺、また寝る…。食器はそこに置いて…おいてくれ…。気をつけて帰れよ…。鍵は掛けたら、ポストにでも…」


「ハイハイ、おやすみ。」


 そこで、俺は枕に頭を落とす。ゆっくりとゆっくりと眠りに落ちていく。


 ◆


 夜、俺は目を覚ます。


「ん、んー。えーと、時間は20時くらいか。ふぁあ、少し楽になったかな。だるいけど、飯は少し食べておこうかな。菓子パンとかなかったっけ…」


 そう言って、俺はベットから身を起こし、リビングの方へ向かう。


「寝汗、すごいな。……ん?」


 リビングに行けばテーブルの上におにぎりとポカリが置いてある。天音が用意してくれたものだろうか。


「わざわざ作って、わざわざ買ってきたのか?なんていい幼なじみなんだ…。」


 また今度、何か奢ってあげよう。まぁ、それよりも先に仲直りさせてあげたいな。


 夕食を取ったあと俺は、軽く身体を拭いて、着替えることにする。


「あ、あぁ〜、食器も結局洗ってくれたのか…。鍵は……ポストに入ってるな。うん。」


 天音にLINEで礼を送り、再びベットに向かう。この調子なら明日には治って学校に行けそうかな。スマホをベットの横の机に置き、布団を被る。




 翌朝。


 スマホのアラームで目を覚ます。


「ふぁああ…。少し、だるい感じはするけど、問題ないな。朝練は…休むか。部長に連絡入れて、っと。」


 ベットから降り、制服に着替える。朝食や洗顔、歯磨きを済ませたところでインターホンがなる。


 確認すれば、美優だ。毎朝、俺は美優と天音と一緒に登校している。けれど、今日は天音と一緒じゃないのか…。


 扉を開ければ、


「おはよう!祐くん!」


「おう、おはよ。美優。今日は天音と一緒じゃないんだな?」


「ま、まぁね〜。あ!寝癖ついてる!なおしてあげる!低くしてー。」


 そう言って、美優は俺の髪を触ってくる。女の子らしい良い匂いがする。それに、美優は俺の正面から髪をいじってくるので、腰をかがめる俺と少し背伸びをした美優で、美優の胸が俺の前に来て気まずい。


「ねぇ、昨日お風呂入った?いつもより匂い強いと思う。」


「あ、あー、昨日は熱で寝込んでたから軽く身体を拭いたくらいだな。やっぱ、臭うか?」


「ううん。好きな匂い。いつもより強くて…。」


「お、おっ。そ、そうか。」


 まじか、美優が匂いフェチだったなんて…。


「よし!もう大丈夫!」


「じゃあ、行くか。」


 LINEでさっき確認すると天音は今日は一人で行くようだ。


「でも、その前に…」


 美優は俺の家の中を覗き込む。


「なんで、天音ちゃんの匂いがするの?」


「え、あ〜、昨日うちに来たんだよ。」


「つまり看病してくれたってこと?えー、私も呼んでほしかった!」


 一晩一緒に過ごして、飯も作ってもらったなんて言ったら勘違いされそうだから言わない。


「ふふ、別にな〜んにも疑ってないけどね!さ、学校にレッツゴー!」


 美優は俺の手を引っ張り歩みを進める。俺とは違い白くてスベスベの手が俺の手を握る。正直、恥ずかしい。そんな俺をよそに美優は楽しそうに歩いている。


 そして、美優は俺の手に指を絡ませてくる。


「な、なんで、恋人繋ぎなんスかー…?」


 つい、この状況に語尾が変になっちまった。


「えー!私と繋ぐの嫌…?それに、もう我慢しなくて良くなったからかな。」


「いや、嫌ではないけど、なんか恥ずいし…。それに、今日の美優、距離近くね?もしかして、天音となんかあった?」


 文脈はおかしいかもしれないが、美優に聞きたかったことをここら辺で聞いておく。


「…なにも、なかったよ?」


「そ、そうか。喧嘩でもしたのかと思って。」


「喧嘩ではないよ。今は時間が欲しいだけだと思う…。私と天音ちゃんはずっとずっとだから!安心して!また、三人で登校して、ご飯食べて、遊んだりできるよ!」


 すっごい笑顔で、答えてくれる。また仲良くなれるって言うのなら安心だ。現状を掴みきれていない俺に出来るのは話を聞くことくらいだからな。


「…まぁ、とりあえず。学校が近くなったら手を離せよ!」


「え〜!!いいじゃんいいじゃん!」


 おいおい…こりゃ、いくらイケメンでモテ男の俺でも、「こいつ…俺のこと好きなんじゃないか…?」って勘違いしちゃうZe✨️


 まぁ、嘘なんだけど…


 いや、てゆーかなんで実際、学校で俺ってモテないんだ?イケメンで部活では副部長してるし、ちょっと勉強ができないというギャップもあって可愛いというのに…。


 は!そうか!


(幼なじみの美少女二人がいつも近くにいるからだ!それで、みんな遠慮して…。)


 よし、理由がわかればもう大丈夫だ。これで、ついに彼女ができるぞ!!


 ――瞬間、俺の手に激痛が走る。


「い、いいいいいいっつぅ!!」


 爪!爪!爪がくい込んでるから!


「み、美優!?な、何故に!?」


「……勘。」


 ◆


 side.日向美優


 私には小学生の頃からずっと好きな人がいる。


 小学生の低学年の頃、両親を早くに亡くしてしまって、周りから何か言われる度にその人は庇ってくれた。


『大丈夫、みゆちゃん。僕が絶対守ってあげるから!』


 かっこよかったぁ♥


 ずっと小さい頃から仲は良かったけれど、両親が亡くなってしまってからはより引っ付くように一緒にいるようになってしまった。年齢も上がるにつれて友達も増えてきたんだけどね。


 まだ幼かった私には分からなかったけど、それから恋愛感情を持ち始めたんだと思う。いや、これは依存なのかもしれない…。


 もうその人が、祐くんがいない生活なんて考えられない。おじいちゃんとおばあちゃんが近くに住んでいて良かった…。転校で離れ離れにならなくて良かった。


 もちろん、天音ちゃんとも仲は良い。いつも三人で遊んだり、ご飯を食べたり、勉強したり!天音ちゃんならひとつ上の高校も狙えたはずなのに私たちと一緒の高校に来てくれたとても可愛い子!


 ずっとずっと祐くんとは付き合いたかったし、そういった関係にもなりたかったけど…。祐くんと天音ちゃんと私のこの三人の関係を崩したくなかったのも事実だ。


 それに天音ちゃんも祐くんのこと好きだと思ってたから…。だってね、天音ちゃんの近くにいる男の子なんて祐くんだけだからね!


 そうだと思ったのに、私の方なんて…。驚いちゃった。でも、つまり、もう我慢しなくていいってことだよね。


 ◆


「美優、そろそろ学校だから、離そう。」


「むー、まぁ、いいよ…。」


 美優は渋々といったように、手を離し、美優は朝練の為に部活へと向かう。


「じゃあ!また後でね〜!」


「はいよー」


 美優と別れた俺は朝練は休んだので、いつもより早い教室へ向かう。


 教室へ入れば、一人の男子生徒が席に着いて読書をしている。


「おー、おはよー、アダム。こんな時間なのにもういるのか。」


「おー、祐介か。っておいおい、人がいないからいいけど、人前ではその名前で呼ぶなよ。田中と呼べ。OK?」


「OKOK。ごめんな。俺、友達のことは名前で呼びたいんだわ。」


「まぁ、別にいいけど…。人前では、田中だし…」


 いやー、田中は良い奴だなぁ。名前で苦労しているだろうが、クラスの奴とは結構打ち解けている。


「お前こそ早いじゃないか?朝練は休みか?休みなのにこの時間に来たってことは幼なじみか?」


「その通りだ。うんうん、それでな、田中。聞いてくれよ。なんで彼女ができないかわかったんだ!原因がわかった今、ようやく俺も彼女ができる!」


「へいへい、いつものね〜。てゆうか、大事な幼なじみに告ればいいだろ。」


「はぁ〜、なにいってんだ。チッチッチッ、これだから童貞は困るぜ…。」


「いや、お前もだろ。」


 実際、美優と天音を女として見ていないかと言われれば嘘になる。それどころか、正直ばりばりにみている。


 一昨日の天音のお風呂上がりなんかは、冷静に振舞っていたが、下半身はやばかった。俺も健全な男子高校生だ。仕方ないだろう。


「ま、まぁ、お前ならきっと彼女も出来るだろうさ。」


 そうやって話していると、教室に入ってくる生徒も増えてきた。今登校してきたものや、朝練が終わって来たものだ。


「あ!てか、今日一限体育じゃん。朝練あったやつは大変だなぁ。」


「あ〜、さっさと着替えるか。」


 そうして、俺は制服を脱ぎジャージに着替える。そういえば、このジャージ前、天音が着てたやつ…。なんで他のを持ってこなかったんだ俺…


(なんか意識しちまうな…。こんだけ意識するのっておかしいのかな…?)


 なんか風邪明けからずっと天音のことを意識してしちまう!こんなん初めてだ。


 パチンと自分の頬を軽く叩き、


「よしっ!行くぞ、田中!」


「お、おう…?いきなりどした…?」


 何故か少し困惑している田中と共に俺はグラウンドへと向かう。


 病み上がりとか関係ない!俺は全力で体育を楽しむぜ!


 と、思っていた時期が俺にもありました…。


「よーし、お前ら集まったな!今日はお待ちかね長距離走だ!」


 と、体育教師が話した瞬間、俺はまっすぐと空へ手を伸ばす。


 そして、クラスのみんなが先生に対して不満を口にする前に俺はドヤ顔でこう言う。


「先生、俺…、昨日まで風邪で病み上がりなので見学します✨」


 俺がそう言えば…


「おいおいおいおい!ずるいぞ!」

「逃げるな逃げるな!仮病だ、ゴラァ!」

「祐介!おい、カス!裏切り者ォ!」


「フッ、HAHAHA!勝手に言っておけ!俺はあそこの木陰で君たちを見守ることにするよ!」


「まぁ、いいだろう佐藤。無理も良くないしな。」


「ありがとうございます、先生。」


 クラスメイトたちに見送られながら、俺は軽快な足取りで木陰へと向かった。


 クラスメイトたちの罵倒しょうさんを耳にベンチへと腰をかけた。


(なんて、気持ちいいんだろうか!きつい授業を正当な理由で休むことができるこの快感!)


 グラウンドの空は太陽がサンサンと輝いている。最近も少しずつだが暖かくなってきた。夏も近い…。


 ◆


 青春真っ只中の男子高校生に授業の描写なんて必要ない。そう、つまり…


 放課後。


 放課後は約束通り美優と帰る。


「よ、美優。じゃあ、帰るか。」


「うん!」


 美優はまた朝と同じように俺の手を引き歩き出す。


「あ!そうだ、祐くん公園寄ろうよ。」


「ん、いいよ。」


 スズラン公園。この公園で小学生の頃、よく美優と天音と遊んだなぁ。


 昔と違うところは、撤去されてしまった遊具が沢山あることだろうか。撤去されていなくても老朽化で危険と判断されたものは使えなくなっている。時代…なんだろうなぁ。


 俺と美優はブランコの前に備え付けられている柵に腰をかえる。


「なんだかんだ、ここに来るのは久しぶりだなぁ。登下校や休みの日に視界には入るけど…」


「私もそうだね〜。小さい頃、祐くんとよくここで遊んだことは今でも覚えてるんだぁ〜。小学校の帰りとかよく遊んだもん。」


「あぁ、そうだな…。」


 美優が俺の手を握ってくる。


「ね、ねぇ、祐くん。私ね、小さい頃から祐くんがずっと一緒にいてくれて嬉しかったんだ。両親が亡くなっちゃった時、毎日辛くて、でも祐くんがいてくれて嬉しかった…。」


「み、美優…?」


 美優の握る手が強くなる。美優の綺麗な目が俺を見つめる。


「私…。私…、ずっと、ずーっと祐くんのことが好きでした。勿論今も好きです!付き合って…ください!」


 美優は顔を真っ赤にしながら下を向く。


 そんな唐突な、日常のふとした瞬間に告げられた告白は俺の思考を止めるには十分だ。


 ど、どうすれば…!美優が俺の事を…。いや、思い返せば、そうか…。あ、クソ、生まれて初めてだぞ、告白されたのは。今この瞬間も、俺の返事を待ってくれている。


(早く、早く答えないと。)


 俺も美優のことは好きだし、彼女が欲しいのもそうだ。答えは決まっているじゃないか…。でも…。


 あの日、この公園で、泣いていた天音の顔が脳裏にチラつく。


 そうか…天音。お前はあの日、振られたのか。だから、俺のせい、か…。


 天音は、美優の幸せを一番に考えるんだろうな。でも、そんなの知らない。


 幼なじみ二人が勇気をだして本音を口にしたのに俺だけだんまりなんて情けない。


 これが誰も幸せにならないとしても、


「俺は…、美優とは付き合えない。」


「え?な、なんで…?」


 美優は泣きそうな、いや、涙を溜めた目で俺を見る。


「ごめん、俺は…天音が好きだ。それに、俺も美優のことは大事だ。だからこそこんな気持ちでは付き合えない。」


 ◆


 side.美優


「あ、あ…。天音ちゃん…?なんで…?私がずっと好きでずっと思っているのに…。」


 ダメ、ダメだよ…。


 だって、天音ちゃん…吹っ切れたような…切り替えたような…そして、諦めたような…そんな顔してたもん。きっかけは絶対祐くんだ。


 恋と諦めの…そんな表情…。


 天音ちゃんのことは好きだけど、今回はダメだよ…。


 私は恋人が欲しい。家族が欲しい。失われた幸せが欲しい。家族のが欲しい。そして、それは絶対祐くんがいい…!


「ご、ごめん…。美優。俺がもっと早く気づいてあげれていれば…。」


 私は祐くんに抱きつく。


「お願い…置いてかないで…。また、私を一人にしないで…。守ってくれるんでしょ…?」


 濡れた瞳に映る祐くんの顔を見て私は思う。


 私は祐くんとの、祐くんへのは捨てられない。


 この思い出と想いに依存するしか生きられない。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「祐介→天音→美優→祐介·····」の地獄の三角形だぁ。

天音の好意は祐介くんに向いてるかもだが。


とりあえずはここで「~完~」です。

中途半端のような終わりかもしれないですが、キャラの性格考えると結構分岐ありそうだから、この後の展開はもしかしたらifルートとして書くかもしれないですね。


ラブコメ書いてみたいけど、書き続けれる気がしないと思ったので短編で書きました。最近書いていなかったリハビリがてら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

濡れた瞳に映る想い出 コウ @KakuymWriteRead

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ