第6話 行こう

扉は半ば落下するようなスピードで閉まったので、俺たちは反応すらできなかった。

……いや、反応したとしても、隔壁に潰されていたのがオチだろう。


閉まったのは、ダンジョンのすぐ近くにある隔壁。

つまり……俺と星野は、ダンジョンの中に閉じ込められたということだ。


来た時に見た限りだと、隔壁の厚さは1.5mほどはあった。

さっきの動きをみた限りだと、苦川には突破するのは難しいと思われる。


そして、レベル0の俺たちにも、もちろん突破なんてできそうにない。


つまり、出る手段がない。


俺は星野の方を向く。

星野は落ち着いている……というより、諦めたような様子だった。


まるで、人間なんてこんなもんだよ……とでもいうような。

そんな、諦観が感じられる。


「星野?」

「……ん?」


星野がこちらを向く。


「大丈夫か?」

「……ん。今のところは。死体になってないから」


そんなブラックジョークを言う星野。


星野のジョークのセンスは壊滅的だったようで、俺は全く笑えなかった。


「……ひとまず、生き残るぞ。多分、周辺の冒険者が集まってくるはずだ。そうしたら、おそらく駆除作業に入るはず」

「……だと良いね」


星野は否定的だった。

確かに、人に裏切られた……あるいは切り捨てられた直後に人を信じるというのはだいぶ矛盾した行動だ。それでも、信じるしかない。

多分、俺たちの存在は一部の者によって隠されているような気がするが……それでも、探索者なら気づき、そして救助に来てくれるはずだ。


……っていうか、来てくれないと困る。


「スタンピード……苦川はそう言っていた。多分、ダンジョン災害のことだ」

「ダンジョン災害……苦川さんの行動から考えて、魔物が溢れ出してくるケースかな?」


ダンジョンに関係して起きる災害は、ダンジョン災害と総称される。


その様態はケースバイケースだが、中でも最もポピュラーなものが、トラウマビデオの中でも出てきた、魔物が迷宮から溢れ出してくる……というやつである。


「多分な。そして、そうだとしたら、対策のしようがある。理論上は、低階層の弱い魔物から順番に出てくるはず」


強い魔物に追い立てられるようにして弱い魔物が出口へ殺到し、それが連鎖することによってスタンピードが発生するはずだからだ。


そして、この法則が成り立つのであれば。


「順々に狩ってレベルを上げ続ければいい」

「……そうだね」


星野の目に力が宿り、バチリと周囲に紫色の電光が走った。


俺は周囲を見渡す。武器になるようなものは何もない。どうやら、武器の類も敵から奪っていく必要がありそうだ。


「紫電は、MPを消費する感じか?」

「ん。威力によって変わるけど」

「MPの回復は?」

「10秒で一割ってとこ」


割と厳しめのレートだ。

多分、レベルが上がれば改善していくと思うが……最初の方はキツそうである。


「できるだけ温存して進もう。そんなことを言ってられないかもしれないけど」

「……どうやら、そんなことを言ってられない事態みたいだよ」


星野はダンジョンの奥を指差す。


洞窟の暗がりから、赤色の小さい人形のモンスターが、軽く30匹以上出てきた。


目が狂気に染まっていて、何かに追い立てられるように前進してくる。……俺たちの後ろにある障壁にも、下手すれば突撃してきそうだ。


「星野」

「……ん。行こう」

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