第5話 ユニークスキル

俺は「ステータス」と呟く。

一回出せば念じるだけで開くようになるらしいが、一回目は口に出す必要があるらしい。


ちょっと恥ずかしかった。


目の前に透明な板が出現する。これが、ステータスウインドウというやつだろう。



若槻

レベル0

HP 20/20

MP 0/0

SP 0

筋力 10

魔力 9

敏捷 7

耐久 9

器用 7


まあ、RPGの初期値といった数字だ。

……ってあれ?


「スキル欄なんてありませんけど」

「ああ、スキル欄は2ページ目にあります」


2ページ目?


俺は試しにウインドウ全体を横にフリックしてみる。

すると、すっと別の情報が表示された。



ユニークスキル

能力奪取Ⅰ



「ありました」

「ほう、ユニークスキルがですか?」

「はい。『能力奪取』というのが」


多分、Ⅰというのはレベルのことだろう。


「私もあった。『紫電』」

「ほうほう」


苦川は素早くメモを取る。


「それで、どんな能力なんですか?」

「…………え?」


俺はステータス欄に目を走らせる。

……どこにも書いてない。


「あ」


ひょっとして。


俺は予感に従って能力奪取Ⅰというステータスの文言をタップしてみる。


能力奪取Ⅰ

敵を倒した場合、または敵を倒すのに貢献した場合、敵の強さ等に応じてステータスの一部を恒久的に奪い取る。

ただし、スキルポイントは全てステータスに変換され、またスキルの習得が不可能になる。


…………うん?


俺は再度一読する。


スキルポイントは全てステータスに変換され、またスキルの習得が不可能になる––––


……スキルの習得が不可能になる。


「能力奪取」という字面からは想像もできない、ものすごいデメリットが書いてある。


……これ、致命的なのでは?


と、俺がそんなことを考えていると、隣の星野が自分のスキルの説明を読む。


「『紫電』。紫の電撃を操れる……だそうです」


かっこいいスキルだ。

苦川はうんうんと頷いてこう口にする。


「ほう。往々にして、短い文のスキルほど極めれば強力になるものです、頑張ってくださいね……それで、そちらの……若槻さんはいかがです?」

「『能力奪取』、敵を倒した場合、または敵を倒すのに貢献した場合、敵の強さ等に応じてステータスの一部を奪い取る。ただし、スキルポイントは全てステータスに変換され、またスキルの習得が不可能になる––––って書いてます」


俺はステータスの文言をそのまま読む。


苦川は、スラスラとすごいスピードで俺の言葉を書き取っていた。

ひょっとしたら、その行為にもステータス能力が反映されているのかもしれない。


「それは……また、ピーキーですね」


全くだ。

だが、スキルが得られないとは言え、ステータスが恒久的に伸びるという能力はかなり強力だ。

どれだけ伸びるかは実際に試してみないとわからないが。


と、どうやらこれでダンジョンでの用事は終了なのか、苦川がまとめに入った。


「では、これより、資格発行のため日本ダンジョン探索者協会へと向かいます。帰りは遅くなりますので、必要な連絡は済ませておいてくだ……む?」


苦川がさっとダンジョンの方を向く。


「…………?どうしたんです?」


苦川は答えず、目を閉じる。


一瞬の後、かっと目を開くとダンジョンの外に飛び出て、目立たないように設置されていた電話の受話器をつかんだ。

まだレベル0の俺では捉えるのも難しいスピードだ。


「もしもし、スタンピードの予兆だ!もういくばくもないぞ!」

「………………っ」


電話口からここまで叫び声が聞こえきて、そして……隔壁がガシャンと閉まった。


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