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誰かを傷つけないうちに、ここを出ていくと決めた。それからというもの、僕は絶対にバレないように、しかし着実に出発の準備を進めていった。 父さんやプナキアの目をうまく誤魔化すことにも成功したように思えた。リュックサックの中には、以前貰い受けた、剣に変化するカプセルや金貨を入れた。

 ここを出たら、まず港へと向かう。その存在は以前本で読んだ。 道はわからないが、探すしかない。もし到着できたら、金貨で別の大陸へいける船を探し、乗船する。全ての事柄について、計画通りにいく可能性は極めて低い。しかしその不安をかき消せるほどには、僕の中で覚悟が定まっていた。ここでの生活は最高に楽しかった。僕がその日常を壊してしまった。僕なんていない方がいいのだ。

 父さんが僕にバレないように厳重の注意を払っている洞窟の入り口なら、とっくの昔に知っていた。

 二人が寝静まった夜、僕は起きてリュックを手にした。 二人ともぐっすりと眠っていて、起きる気配はなかった。 その入り口は、普段は布で覆われていて、すっかり擬態している。僕は布を1枚めくった。 振り返り、最後の挨拶をした。

「今まで育ててくれてありがとうございました」

 目に涙がにじんでいることに気付き、腕で拭った。藍色の闇を含んだ外の世界に初めて降り立つ。

目に入るすべてのものに圧倒された。初めての森の空気の匂いを鼻で思いきり吸うと、肺の奥に酸素が染み渡っていくような感じがした。 何もかもが深緑の世界だった。風にそよぐ木々も、苔の生えた地を横切っていくトカゲも。 真夜中だというのに、こんなにも鮮やかな色あいに感動して、体を柔らかい苔の上に投げ出した。 興奮がおさまらない。 なぜ父さんはこんなに素晴らしい世界に出ることを禁止したのだろう。一瞬そう思ったけれど、すぐに気づいた。 それは僕の気が狂っていると父さんも知っていたからではないのか。怒りの衝動が抑えられないような、父親を刺そうとするような悪い人間が、こんなに美しい世界を見ていい訳がないと、父さんは考えていたのではないだろうか。胃のあたりに、ギュッと締めあげられたような痛みを感じた。僕は一体何者なんだろう。

 このまま僕はどうなってしまうのか?そう考えてみたらゾッとした。誰かを傷つけても何とも思わない人間になったりして。

「まさかね」

 そんなわけない。毎日お祈りだってしてるんだ。僕は身を起こして再び歩き出した。早くも洞窟が恋しくなったが、もう二人に迷惑はかけないと決めたのだ。 なるべく早く、どこか船のある所へたどり着けますように・・・そもそも、あの本に書いてあることが全て正しければの話だけど。

 時々、白い光が浮かんでいる夜空を見上げた。 色とりどりの星たちが、僕の行き先を教えてくれると信じた。

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