夢見がち令嬢と仮面の令息

うり北 うりこ

仮面の下は


 よく夢みがちだと笑われる。けどね、誰もが心の奥底に自分だけの王子様がいるって信じてるんじゃないかな。



 私は隣に立つ目元を仮面で隠した彼を見上げた。出会いはパーティー。壁の花だった私をダンスに誘ってくれたの。

 仮面の下には酷い傷があるって噂。けど、本当はすごくかっこいいんじゃないかな……。


 シュッと通った鼻筋に薄い唇。これは、イケメン要素でしょ? しかも、いっつも優しいの。今日だって私のことを世界一愛らしいって言ってくれた。中身までイケメンなんて最高だわ!

 カイン様は私の運命の王子様? うん、きっと王子様よ!


「ローラ、よそ見をしていると危ないよ」


 カイン様は私をエスコートしてくれる。もうすぐ婚約の申し込みだってくるはず! そう思ってたのに、半年経っても進展がなかった。



「ねぇ、カイン様。私って魅力がないのかしら」

「ローラは妖精のように可愛くて、誰よりも魅力溢れる女性だよ」

「じゃあ、どうして婚約の申し込みをしてくださらないの? 私、ずっと待ってるのに……」


 私とカイン様は子爵家同士。政敵でもなく、家同士の仲も良好。婚約も結婚も何の障害もないはずなのに。


「それは、私が醜いから……」

「そんなことないわ! カイン様は誰よりも素敵よ!」

「これを見たら、そんなこと言えなくなる」


 そう言ってカイン様は仮面をとった。確かに噂通り左の眉の少し上から目の下まで切り傷がある。

 けど、私にとっての問題はそこではなかった。


 ……あれ? 普通?


 本当に普通のごくありふれたお顔だったの。


 イケメンじゃない。顔に傷があるから迫力はあるけど、何か普通。思ったのと違う。



「すまない。やはり、気持ち悪いよな」


 カイン様の言葉にハッとする。今は普通とか言っている場合じゃなかった。


「気持ち悪いだなんて! 傷は痛みますか?」


 仮面を付け直したカイン様はやっぱりイケメンで、残念な気持ちでいっぱいになった。けど、その気持ちを押し隠して私は聞いた。

 痛みもなく、視力に問題がないことを知り、ホッとしながらも頭のなかは普通だった……と言葉が巡る。


 失礼なのは分かってる。でも、普通だったの。思ってたのと違う。



「ローラ、こんな醜い私でも一緒にいてくれるだろうか?」


 夢にまで見た告白。けれど、思ったのと違う。


 そう思いながらも私は頷いた。普通だから嫌だなんて口が避けても言えない。こうして私はカイン様と婚約し、トントン拍子で結婚した。


 まぁ、結局は幸せになったからいいんだけどね。

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