第4話 初収穫

 普通に爆睡した翌朝。

 今日も良い天気だ。空気がおいしいね!

 朝のルーティンをこなして朝食を食べる。

 今日はジジ様が兄様たちに、稽古をつけるとお話ししていた。

 がんばってね~。

 幼児な僕は、自由時間とお昼寝をがんばるからね。 

 そんなことを、のほほんと考えている僕の横で、大人たちのお話は続く。


 九月にはレン兄が王都の学園に入学する。そのための準備や日程のお話だよ。

 参考までに、レン兄は四月、僕が五月、リオル兄が七月生まれね。

 貴族の子弟は王都の学園に入学する決まりがあるんだって。

 長子は必須だけど、次子以降はその家の財政によって免除されることもあるそうだ。我が家みたいな底辺の貧乏貴族では、金銭面で厳しいところがあるよね。


 レン兄の場合は早めに辺境伯領に行って、マナーや社交ダンスや一般教養の補習を受けるそうだ。我が家でもマーサやバートンから指導を受けているけれど、マナーなどは上位貴族に相対するにはいささか心許ない。

「ダンスって何?」と、レン兄は蒼ざめていたけど。


 王都の学園では、基礎学科を早期に履修すれば、修了証書がもらえて、ほかの専門学科を受講できるようになるんだって。

 ダラダラ基礎学科に時間を費やさないように、早めに仕上げて入学するほうがよいのだとか。

 レン兄の場合は、騎士科と領地経営学を学ぶそうだよ。

 長男って大変だね。


 一箇月くらい辺境伯家で過ごしたら、そこから在学中の従兄弟と一緒に、王都へ向かう手筈だ。王都までは馬車旅で、余裕を持って三週間前後かかるみたい。

 到着後は辺境伯家のタウンハウスから学園に通うんだって。

 今が五月後半だから、六月いっぱいは辺境伯領で過ごして、七月は王都への長旅。八月は入学試験(基礎学科の学力試験で、基本は全員合格)など入学準備に充てる。

 そして九月から学園生活スタートとなるんだって。


 七月の移動旅には父様も同行して、王城にいろいろと報告にゆく。

 下級貴族だから王様に謁見えっけんとかはないみたいだけど、領の税務やら諸々の報告が必要なのだそうだ。

 確定申告みたいなものかな?

 がんばってね、パパン。

 なので往復の二箇月近く、父様は不在になる。それでもお馬さんでパッパカ帰って来るから、行きよりもずっと早く着くんだって。

 とはいえ、パパンがいないのは寂しいねぇ。

 しょんぼりさんだよ。



 大人たちのお話はまだまだ続くみたいだから、幼児な僕はこの辺で退席するね。

 おじゃまになるだけなので、トットコお部屋に戻るよ~。

 テッテッテ~と。


 自室に戻って、定位置の椅子にちょこんと座る。

 昨日の続きをやってみよう!

 早速ステータス画面を開いて、昨日植えつけたジャガイモのようすを確認してみる。

 あ、ジャガイモって、こっちでもジャガイモというんだよ。

 植物や動物の名前はだいたい同じ感じかな。違うものもあるけどね。

 こっちの神様は地球をパクッたのかな?


 さて、画面上では九マス全部で、いい具合に葉っぱが枯れていた。

 ここら辺はゲームよりリアルな感じだね。


『収穫しますか? YES / NO』


 画面に文字が出たので、YESをタップすると、ジャガイモの絵が倉庫へ飛んでいった。この辺はゲームっぽいね。

 でもその次は、マジでリアルだった。


『葉や茎を堆肥にしますか? 時間二十四時間』


 え? 消えずに堆肥にしてくれるの?善し

 何それ、家庭菜園的には超親切設計じゃない? 僕は迷わず了承した。

 現実世界では堆肥は土壌改良材として超大事なんだよ。堆肥の善し悪しで、土の質が変わってくるんだから。

 できた堆肥は、実際の畑で使えたらいいな。


 ちなみに異空間庭園は農園ゲーム仕様なので、連作障害がないみたい。

 連作障害っていうのは、同じ場所で同じ科目の植物を何度も育てると、病害虫が出やすくなって生育不良を引き起こしちゃうの。

 これは狭い家庭菜園で起こりやすいといわれているんだよ。

 連作障害にならないように輪作を取り入れて、良い堆肥を使って土壌を健康に保つことが大事なんだ。

 

 連作障害を考えなくていいなんて、至れり尽くせりだね!

 ありがとうございます! と、スキルさんにお礼を言ってみた。



 さて、もうひとつ検証したいのは、できた作物を取り出せるかってこと。

 倉庫のアイコンをタップすると、ジャガイモの絵の上に数字の九が表示される。

 そこをさらにタップする。

 それにしても、いちいち画面タップは面倒だよね。

 脳内変換できないかな?


『取り出しますか? 数量を指定してください』


 一瞬どうしようかと思ったけど、頭の中で『一』と唱えてみる。

 すると椅子の前の床に魔法陣が出現して、そこから立派なジャガイモの山が出現したよ!

「おおっ!?」

 瞬時に対応してくれるなんて、スキルさんは優秀だね!


 丸々と肥った大きなジャガイモさんが、ゴロゴロと転がり出たよ!

 大人の拳くらいはあるんじゃないかな? 

 僕はしゃがんで、ひとつつかんでみる。小さな子どもの手では、両手でひとつ持つのがやっとだった。

 おっきいねぇ~。

 ニヤケてマジマジ見ていると、(ジャガイモ 品質 最良 / 非常に美味)と、頭の中にアナウンスされた。

 品質鑑定までしてくれるなんて、素晴らしい!

 思わずジャガイモさんを掲げて、その場でくるくる踊ってしまったよ。

 


 ちょっと落ち着こう、僕。

 あらためて床の上のお芋さんを見る。

 一マスから収穫できるジャガイモの量はざっと五十個くらいかな? 小芋は混ざってないし、結構な収量だよね。

 今後レベルが上がっていけば、さらなる時短と収量を見込めるかもしれない。

 差し当たって、当面のあいだは在庫を増やすことに専念しよう。

 そして今はまだ、スキルの内容は僕だけの秘密にしておこうね。


 いったんジャガイモを倉庫に戻そう。

 うん、念じたらすんなり戻ったよ。


 スキル画面に戻って、茶色い畑マスにお芋さんを植える。植えてと念じただけでオッケーだった。作業が楽になったね。

 収穫はまた一日後だ。

 しかし、植えられる植物はまだ増えないよね。

 まぁ、まだ二日目だもんね。



 植物栽培のスキルを使うと、わずかな魔力が消費される感じがするけど、微々たるものなので特に苦にはならない。

 もともと魔力は多い家系で、リオル兄と僕は特に多かったりする。子どものうちからそうなので、大人になったらもっと増えると思う。


 僕の髪が長いのは、そのせいなんだって。

 この世界では、魔力は髪にマジで宿るんだよ。

 うっかりワザとハサミで切ったことがあって、切った次の日には元の長さに戻っていたんだ!!

 僕は呪いの人形かッ!?  って、マジでビビッたもん! 


 そしてパパンに叱られて、マーサに大泣きされてしまったんだよね……。

 幼き日の苦い思い出だよ。

 といっても去年の夏のことですが、何か?

 単に暑かっただけだもん。

 あのときはごめんね、マーサ。



 ***


 堆肥と連作障害について、コメントをいただきました。

 いろいろ考えて、本文に連作障害の内容を追記しました。

 なお、堆肥と連作障害をご存じない可能性もあるので、簡単に書いておきます。


●堆肥は土壌改良材です。植物質堆肥には肥料分はほぼ無いと思ってください。

 土をフカフカにし保水性と通気性を高め、微生物バランスを改善したり、土の環境を整える目的で使用します。マルチングにも使います。


●連作障害は、本文に追記しました。

 連作障害が起きてしまったあとの対処法は、ここでは必要ないと思うので書きません。

 農家さんは広い農地で計画的に輪作しているので、起きにくいと聞いています。


 連作障害を起こさないためにも、輪作のほかに、堆肥の使用が不可欠です。

 ちなみに、実際に連作障害用の堆肥も市販されています。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る