第6話 絵画盗難

「さっ、私たちの時間だ。カスミ、行くよ」

「OKです!」


と言ったものの、まだ警察も来ておらず、さすがに関係者以外は美術館内には入れそうにない。


「館長さん、絵画って空調管理が大変なんですよね」


「そうなんです。運ぶのも気を使うので、ほんと無事であればよいのですが・・・、今でも美術館の中のどこかで見つかってくれないかと願っているのですが。」


「そうですよね。出てくるといいですね。」

クロは何かヒントがないか探っているが、犯人しか知らない情報は犯人を特定する際にも重要な手がかりになるため、どんな絵、どこにあった絵、扉が開いていたとか、周辺の様子や、昨日の状況など、話すわけもない。


クロは少し考え、絵画の管理についてわからないことも多く、近くの画廊で話を聴くことにした。


一点解ったことがある。

絵画は戻ってくる可能性がある、つまり、現場で絵画や周辺が破壊されたり、荒らされたりしていないということ。絵画だけがなくなっている状態と感じた。このことから丁寧に運ばれたものと考えている。知識がある人によるものか?


「こんにちは」

クロとカスミは近くにある画廊を訪れた。そこには風景画、断崖、写真のような絵が並んでいる。


「ゆっくり見て行ってください。 期間限定で出店させてもらっていて今日までなんです。」

店舗の奥から女性が声をかけてきた。


「そうなんですね。今晩か、明日にはここにある絵は運び出すんですか?。運ぶときどうやって運ぶのですか」


「運ぶときは傷がつかないようにと温度や湿度も気を使いますよ。絵具って乾いたり、温度によってはヒビが入ったり、欠けたりしやすいので。観てもらうときも光が当たることは本当は控えたいんですけど、真っ暗じゃ見えないですよね。」

と女性は笑顔で応えてくれ、親切な方でよかったとクロはホッとした。


「そこの美術館には行くのです?」

横でカスミが顔を出してきた。


「昨日は行ってないですね。ときどき行きますよ」

女性は上の方を見ながら思い出しているようだ。


「クロ、見えているんじゃないです?」


クロは女性の時間が短いのが見えていた。丁寧な応対から普段から時間が短いとも思えず、昨日何かあったのではないかと考えていた。


カスミはクロの表情から感じるところがあり、そこに、聞いていないのにの言葉。


「美術館の絵、知っていますよね。何か必要な理由があるんじゃないんですか?」

クロが女性に問いかけると、女性は大きく息をつくとサッパリしていて


「やっぱり無理だったか〜。しかたない」


「実は母が入院していて、あまり長くないみたいで。この断崖の絵、母の故郷がモデルで、母のお気に入りだったので、後一回だけ見せたかったんよね。悪いことは出来んよね」

と持ち出したことを認めた。


事件は解決したが、事後調査もあって結局美術館には入ることはできなかった。絵画観賞は見送りになり残念に思いながら、ふとカバンの中をみるとレーズンサンドを買っていたことを思い出した。 


「レーズンサンド、食べよっか?」

クロがカバンからおもむろに取りだして、ちょっと一息つく。


「ぶどうの味が濃厚です!」

カスミが感動している。


「ところで、クロ、いつも2本の棒で掴んで食べているけど、それ何です?」


「これ、箸っていうみたい。私の母親が使っていたんだけど、他に使っている人いないんよね。」


「ふーん、使いにくそうです。」


このときがゆらぐ国には箸は存在しない。クロ自身も箸がどこからきたものかわからないため、気になっていた。



…後日、美術館館長の計らいで、夜に断崖の絵画が病院に運ばれ、女性の母に観賞してもらうイベントが催された。

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