第5話 絵画盗難

≪事件発生≫

美術館の閉館は早い。

もっと夜に開いている美術館が多いといいのにと思いながら日が沈むと館長は扉を閉め、戸締りをして美術館を出た。


閉館後、誰もいなくなり静かな館内に足音が響く。


「断崖」を描いた絵を抱えた女性が、美術館から出ていく。そして、美術館からは1枚の絵画がなくなっていた。



≪事件発生の少し前≫

「やっと着いた! もう暗くなってしまった。」

クロは電車から降りた。辺りは薄暗くなっていた。改札は会社帰り、学校帰りの人々で行き来も多い。歩いていると女性が走って追いかけてきた。


「待ってです!!」


カスミが追いかけてくるのをみて、クロは頭をかきながら待っている。そそっかしすぎるカスミは、帽子を落としていて部活帰りの女子学生に拾ってもらっていた。


『親切にすると翌日の時間が増えるため優しい行いを見かけることは多い。いや、朝の急いでいるタイミングだったら違う結果かも・・・』

とクロは遠めに見ながら帽子を拾ってくれた学生に会釈をしていた。


「クロ、今日はどこに行くのです?」

追いついたカスミが唐突に聞いてきた。


「明日、この近くの美術館に行こうと思っていて。今日は駅前のホテルで前泊だね。チェックインしたら、お菓子を買いに出よっか」

チェックイン後、部屋に荷物を置いてからロビーで待ち合わせすることとなった。クロは荷物を部屋に置き、特にすることもないので、ロビーでカスミを待つことにした。


ロビーには多くの宿泊予定客がおり、美術館に行ってきた人や、クロたちと同様に明日美術館に向かう人も言うようだ。美術館のガイドブックを見ながら話をしている人たち、その人たちを眺める人などがいる。また、ロビーには美術館で展示されている絵のレプリカが飾ってあり、美術館の街とも感じられた。


ときが見える能力を使って、通りすぎる人に変なところがないかを見ることが癖になっている。ただ、元々、日々の心がけの積み重ねで時間を多く持っている人や、良くない行いが続いて時間が短い人もいて、見ただけで変な部分がわかることは少ない。


カスミと合流して近くの洋菓子屋さんに向かう。美術館のグッズを持って駅に向かう人ともすれ違うことが多い。髪型、服装もこだわりがある人も多く見かけ、美術に興味がある

人が多いようだ。


「あっ、ありました。レーズンサンド屋さんです!」

とカスミが目的の洋菓子店を発見した。閉店間際にも関わらず人も多く、さっきロビーで見かけた人も来ていた。


クロは観察しながら、ふと感じるところがあった。

遠方から泊まって美術館を見に来ている人は服装や髪型に想いが入っているものと思い見ていたが、地元の方のほうが凝っているとも思うところもあり、美術に興味がある人が近くに住むのかもしれないと。


この街は葡萄も有名で、レーズンサンドは他の場所とは異なり、大粒の葡萄が使われており、買う前からカスミは商品を凝視している。


「このレーズンサンドは、絵画を見たあとに食べたいです!」

カスミが絵画鑑賞の後に落ち着いてみることを提案してきた。絵画を頭に描きながら、落ち着きたいとのことで、クロはカスミのこの発想が気に入っていた。


翌朝、レーズンサンドを持って美術館に向かった。開館のタイミングに合わせて美術館に付いたとき、美術館では絵画が1枚無くなっていた。


朝、開館前に絵画の確認をしている際に1枚絵がなくなっていることが発覚した。開館時間が近かったため、開館が遅れることのお詫びをするために館長が入口に出てきたところ、クロとカスミがいた。


まだ、他に誰もいなかったこともあり、館長は絵画が無くなったことを話してくれた。


「さっ、私たちの時間だ。カスミ、行くよ」

「OKです!」


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