『色×恋』

chomocho@処女作執筆中

第xx章 少女、10歳~

幸せのカタチ

第xxx話 色に溢れた世界




「やぁ、セインス。今日は良い天気だね」




あ、また、彼から話し掛けられた。


彼は、学園長のお孫さん。

……だったと思う。


「こんにちは。良いお天気ですね?」


だったと思うけど、自信は無い。

この学園に入ってから未だ日が浅いし、覚えきれていないから。


彼は……『蒼』ね。


パパやママの『色』とは、だいぶ違う。


それより、彼は私に何か用でも有るのかな?


「──?何か、ご用ですか?」


「い、いや、そういう訳じゃ、無いんだ」


……?


不思議な、人ですね。


「そう、ですか。では、私は行きますね?次の授業が有るので」


彼は様子がおかしいというか、何かモジモジして……。

おトイレでも我慢していたのでしょうか。


あ……でも。


この学園に入学してから、彼の様な人が多い気もします。


何故か私に、用も無く話し掛けてくる人が多いんですよね。


中途半端な時期に入学した私に、皆さん気を遣ってくれているのかもしれません。


学園には基本的に裕福な人しかいませんし、裕福な家庭ですと普通は6歳から通いますしね。


でも、私は10歳になってから。


先日、10歳の誕生日を迎えた私に、養父であるヴィスエさんが誕生日プレゼントとして、学園への入学という話を持ってきて下さった事には感謝しなければなりませんね。


私の様な孤児が学園に通えるなんて、普通は有り得ませんし。


パパとママは……。


もし、パパとママが今も生きていたとしても……きっと、学園には通えなかったと思いますし、ヴィスエさんには本当に感謝しようと思います。


パパとママ……事故で死んでしまったけど、家は決して裕福では無かったけど、学園には通えなかったかもしれないけど、それでも、叶う事ならまたパパとママと三人揃って生活をしたい。


でも……それは叶わない夢。


ヴィスエさんに私が引き取られてから、約一年。


もう、涙は流し尽くした。


パパもママも、きっと天国から私を見ていてくれる筈。


だから私は、笑顔でいようと思う。


折角、ヴィスエさんが私の為を思って入学させてくれたんです。


私は一生懸命、この学園でお勉強しようと思います。




──コーン、コーン、コーン……。




ふぅ。


今日の授業は、これで全て終わりですね。


「ふむ……時間か。では、また明日にな」


導士が教室から出て行くと、途端に教室には喧騒が溢れますね。


皆は、放課後を楽しみにしている様です。

思い思いに仲の良い者同士で集まり、楽しそうにお喋りをし始めるクラスメイト達の姿は、少し羨ましいですね。


私には、未だ友達がいませんし。


でも私は放課後よりも、授業の方が楽しいです。


放課後は嫌ではないけど、お城に帰ってお手伝いをしなければならないから。


私の養父、ヴィスエさんが、この伯爵領の領主様、ボンペス・メヂオ伯爵様に仕える家令を務めている関係で、私は下女としてお手伝いの日々。


決して、嫌では無い。


行く宛の無かった私を引き取り、育ててくれるヴィスエさんと、そんな私の事情を知った伯爵様は、私にとても良くして下さる。


感謝こそしても、嫌な筈が無い。


だけど、少しだけ。

楽しそうな皆の事が羨ましい。


だからかな?


私は放課後よりも、授業の方が好き。


知らない事を覚えるのは、不思議と、結構楽しいもの。


……友達がいないから、放課後が嫌な訳じゃ無い。


そんな筈は無い。


「うぇ~い!セインススキアリ!」


「きゃっ!?……え、ぇえっ?」


か、彼は……確か大きな商会の、次男?……か、三男だっけ?


そんな事より……さ、触られちゃった。

……お尻を。


「ど、どうして……やめて……下さい……」


彼から見える『色』は……『翠』ね。


やっぱり、パパともママとも違う色。


「へへっ!じゃあなっ!」


あ……。


あっと言う間に、沢山の子達を引き連れて行ってしまった。


どうして、こんな意地悪をするんでしょうか。

彼には昨日もイタズラをされてしまいました。


どうやら私には『スキ』が有るみたいで……。

『スキ有り!』と言っては、私にイタズラをしてきます。


彼を取り巻く子達は、ニヤニヤとその様子を眺めるばかりで、彼の行動を止めようとはしてくれません。


『スキ』の有る、私が悪いんでしょうか。

クラスの男の子達に、私は嫌われているのかもしれない。


こんな状態で、いつか私には、お友達が出来るんでしょうか。

自信が有りません。


「せ、セインスさん、……大丈夫?」


えっと……この人は……確か……駄目です、思い出せません。


でも、この『色』には見覚えが有りますし、顔も覚えているのですが……名前が……出てきません。


それにしても、濃い『藍』ですね。


「え、ええ。大丈夫です。ありがとうございます」


「あの、あ、あいつら、酷い、よね?──また何か……」


……?


後半が、何を言っているのか聞き取れません。

困りました。


それに今朝の彼と同じく、やはりモジモジしています。

おトイレを我慢するのは体に良くありませんよ?


でも、人からおトイレを指摘されるのは恥ずかしいですよね。

ここは、私の方から立ち去ってあげるのが優しさでしょう。


「あの、私は家のお手伝いが有るので失礼しますね?」


「え、あ……そ、そっか……うん。またね」


我慢のし過ぎでしょうか。

彼は顔まで紅くなっている気がします。


早く、おトイレに行って下さいませ。


私も、早く帰ってお手伝いをしなければ。







──ぱちゅん、ぱちゅん……。




「何なのよ!あのオンナ!ちょっと可愛いからって!」


許せない!

男子は全て、私のモノなの!


あんなオンナのドコが良いってのよ!


ほ、ほんの少し……ほんの少~しだけ!

他の女子より胸の発育が良いってダケじゃない!


あのオンナが現れるまで私が一番モテモテだったのに!


──ぱちゅん、ぱちゅん、ぱちゅん、ぱちゅん……。


「あはは、ビンボ。そう怒るなって。ほらっ!」


う、うっさいわね!


「あっ……ま、まさか、アンタまで……あのオンナに惚れてるんじゃないでしょうっ……ね!?」


って、そんな事、有り得る筈が無いわね。

この男子は……私にメロメロの筈だもの!


今まで私が、コイツにどれだけイイ思いをさせてやったか。


──ぱちゅん、ぱちゅん、ぱちゅん……。


「え~そうだなぁ……思い出すだけでも胸がトキメクよ。嗚呼、なんて彼女は可愛いんだろうか。どうにか僕のモノにしたい。考えただけでも……はぁっ……嗚呼っ!」


きゅ、急に一回り……っ!


──ぱちゅん、ぱちゅん、ぱちゅん……ぱちゅん、ぱちゅん。


そ、それに……い、今、何て……?嘘よね?


「じょ、冗談、よ……ね?」


「ははっ。どうっ……だろう、な?」


──ぱちゅん、ぱちゅん、ぱちゅん、ぱちゅん、ぱちゅん!


嘘だ!嘘だ嘘だ!嘘だ!!!


あのオンナ、あのオンナが憎い!


私の……私の男子達を、私から奪おうとしているのね!?


「ゆ、許……さない!あっ……嗚呼っ!」


「はぁっ……セイ……ンス……くはっ!!!」


──ぱぢゅぐっ!がっしぃ!


こ、コイツ……まさか、あのオンナを想像しながら……。


嘘よ……そんなの……こんなの、嘘に決まってる!


「ふぅ……お疲れ。ほら、コレ。じゃ、俺は帰るわ」


──チャリん。


あ……き、金貨……。


そ、そうよ。


……私……私には……金貨以上の価値が有るの!


金貨よ!?金貨!!!


有象無象の馬鹿な大人達が汗水垂らして一生懸命働いたって、一ヶ月に稼げるのは精々が大銀貨3枚。


ウチのクソオヤジもクソババアも、一ヶ月で金貨なんて稼げないんだから。


だけど、私は違うの!


私には価値が有る!

全ての男子は私のモノ!

全員、一人だってあのオンナにはやらないんだから!


今に……今に見てなさいよ?


絶対、あのオンナには痛い目に遭わせてやるんだから!







「只今、戻りました」


「おやセインス、帰ってきましたか。さ、直ぐに準備なさい」


私は、ヴィスエさんが好きだ。


ヴィスエさんは血の繋がりの無い養父だけど、不思議と、パパとママの『色』に似ているから。


ヴィスエさんは、とても濃い『臙脂』色をしている。


大好きだった、パパとママ。

私は、パパとママの『色』も大好きだった。

パパとママは、とても濃い『朱』だった。


記憶の中のパパとママは、いつも笑顔で、いつも優しい。


私の眼は、ちょっと不思議。


人が私に対して思っている感情を、『色』として私は見分ける事が出来るから。


その事を知っているのは、パパとママだけだった。

だけど、私はそれを、ヴィスエさんにも話した。

パパとママに、似た『色』の持ち主だったから。


そしたら、ヴィスエさんが教えてくれた。


『それは、愛情を見抜ける能力だね』と。


大好きだった、パパとママ。


その二人が、私に見せてくれていた『色』は、愛情の色だった。

だから私は、濃い『朱』が好き。


その『色』に似た、『臙脂』のヴィスエさんの事も。


私は、愛されたい。


愛が、欲しい。


学園には、様々な『色』が溢れている。


だけど、私に『朱』を見せてくれる人は居ない。


『朱』とは全然違う、蒼っぽい人ばかり。


だから、私は皆から嫌われているのかもしれません。


それは私の思い過ごしかもしれないけど……怖くて、確認する事なんて出来ません。


でも、大丈夫。


私にはヴィスエさんが居てくれるから。


養父として、私に優しくしてくれるヴィスエさん。

私は、ヴィスエさんが居てくれればきっと大丈夫だから。


「はい。直ぐに準備してきます」


さ、いつものお仕事の時間です。


帰って来たら先ずは、ヴィスエさんに帰宅の報告。

そして、いつも通り、短く指示を出して下さるヴィスエさん。


特に詳しい内容を言われない限りは、いつも通りのお仕事です。


だから先ずは、お風呂に入らなきゃ。

私みたいな孤児が帰宅早々お風呂だなんて贅沢な気もしますが、日中に掻いた汗で、お客様に不快な思いをさせてしまう訳にはいきませんからね。


ここは伯爵様のお城。


来客されるお客様は、みんな高貴な方ばかりですから。




「ほらっ!さっさと運べ!そっちは準備出来たか!?」




お風呂から上がり、いつもの職場へ訪れると、そこは戦場の様でした。

怒号が飛び交い、人が所狭しと動き回っています。


怒号を飛ばしているのは、料理長さん。


この一年で、この怒号には大分慣れてきました。

最初は怖かったですが、どうやら、怒っている訳では無いらしいのです。


暇な時には、私にはとても優しくして下さいます。


今日みたいに怒っている様に見える時は、大事なお客様が来ている時だというのも、最近気付きました。


料理人としての、気合の現れなんでしょうね。


「おっ?セインスちゃん、今日もお手伝いか。こいつを出来た端からどんどん運んでくれ。ん……?」


──ぺろり。


私は言われた通りに、料理を運ぼうとしたのですが。


「おい!このソースを作ったのは誰だ!?」


「は、はいっ!自分です!」


「巫山戯るなっ!素材が台無しだ!作り直すぞ!」


料理長さんはお皿から直接、指を使ってソースを舐めました。

どうやら、ソースの味が気に入らなかったみたいです。


でも、不思議ですね。

私みたいに、特殊な眼を持っているのでしょうか。

料理のお皿を見ただけで、これでは駄目だと、気付いたという事ですから。


ともかく、料理長さんは凄い形相で、ソースを作った見習いの料理人さんを怒鳴り始めてしまいました。


普段はとても優しい人なんですが、料理の事となると、一切の妥協が出来ないみたいです。


「で、ですが、作り直すには人手が足りません!」


怒鳴られた料理人さんとは別の人が、料理長に訴えました。


「くそっ!だがこんな料理を出す訳には……」


私が厨坊を見る限り、暇そうにしている人は、一人も居ません。

どうするのでしょうか。


「ん……?よし!セインスちゃん、ちょっと手伝え!」


えっ!?

わ、私が作るんですか?


「で、でも私、作った事なんて……」


「わはは──!なぁに難しい事は無い!ほれ、手伝ってくれ!」


どうやら、やってみるしかなさそうです。


いつもは優しいけど、お料理を手伝うとなると……不安です。

怒られないと良いのですが。


「この材料を3:3:2:1くらいの割合で混ぜて鍋にブチ込め!ゆっくり火に掛けて、ココだ!ってとこで火を止めれば完成だ!」


確かに、言葉通りで良いなら難しくは無いのかもしれません。


でも、『くらい』『ココだ!』というのが、お料理が拙い者にとっては……恐ろしく難しい訳で……。


「で、出来るでしょうか……その、頑張ってみますが……」


「なぁに、セインスちゃんなら出来る!それじゃ頼んだぞ!」


あ、ああ……料理長さんは行ってしまいました。

もう、やるしかありませんね!


ええと……3:3:2:1、む、難しくは無い筈ですっ!


きっちり測ってお鍋に入れて……弱火で……。


少し、とろみが出て来ましたか?


さっきのお皿は、見たことの有る料理でしたが……食べた事は無い料理です。

だから味も知りませんし、正解が判りません。


ですが、ちょっと味見を……。


──ぺろり。


これは……美味しく、ありませんね?


何か足りない様な。


お肉に掛けるソースの様ですが……う~ん、私なら、ほんのりと柑橘系の風味が欲しいでしょうか。


むむ……誰も見ていない所に、丁度良くシトンの実が置いて有りますね。


どうしましょう。

勝手に味を足すのはマズイでしょうか。


でも、言われた通りのこのソース、全然美味しくないです。


ほんのりと甘みと風味を足せば、化けると思うのですが……。

ええい、やっちゃいましょう!


先ずシトンの果汁を絞ってお鍋に入れて……コトコトゆっくり煮詰める間に……と。

余った皮の方を摺り落ろしてパラパラっと少し加えれば……。


──ぺろり。


「ココ、です!」


うふふ、上手く出来た気がします!

とっても美味しくなりましたよ!?


お料理って、中々面白いですね?


「お~い!ソースは出来たか?持って来い!」


今出来たばかりだと言うのに、もう呼ばれてしまいました。

料理長さんは、厨坊全てをお見通しなんでしょうか。


味見は当然されるでしょうし、緊張……しますね。


「こ、これで、どうでしょうか?」


勝手に味を変えたので、怒られるかもしれません。

でも。


「ん……?香りが……」


持ってきただけで、もう匂いでバレそうです。


──ぺろり。


「んん!?こ、これは……セインスちゃん!?」


あ、ああ……凄く激しい、『山吹』色だ。

怒られるかもしれない。


「この風味……そう、か。シトンか!そうだろ!?」


す、凄い剣幕です。


それに、あっさりとバレてしまいました。

素直に謝って、赦して貰うしかありませんね。


「ご、ごめんなさい……。私は……コレだ!って、思っ──


「いやいや!良くやってくれた!良いぞ、コレで行こう!」


──って、え?……そ、その……怒ってないのですか?」


「わはははは──っ!何を謝る必要がある!これは素晴らしい。味、風味、どちらも申し分無い。良くやってくれた!」


よ、良かった。


どうやら、怒られずに済みそうです。

揺らぐ程の激しい色が見えたので……てっきり、怒られるものだとばかり思いました。


とにかく、お料理の手伝いは済んだので、いつも通り、お料理をどんどん運んじゃいましょう。







多くの者が既に寝静まった、静かな夜。


伯爵城の一室。


そこには、男が二人。


「ヴィスエ、抜かりは無いか?」


セインスの養父、伯爵の家令であるヴィスエへと、高圧的に話し掛ける男。


男は、醜悪な見た目をしていた。


その肌は脂ぎっており、贅肉を蓄え、弛みきった体つき。

さぞ、普段から贅沢なものばかりをたらふく食べて、酒も好きなだけ飲んでいるのであろう。


今も、高級そうな酒を、その手にしている。


「はい。伯爵の動きは抜かり無く、全てを把握して御座います」


その様な男に対し、慇懃に振る舞うヴィスエ。


ヴィスエは家令であるからして、伯爵城に訪れる客人に対しては礼節を尽くすのが当然では有るが……。


どうやら、その男に丁寧な態度を取るのは、それだけが理由では無い様だった。


「そうか。後は……時が満ちるのを待つばかりだな。ぶははっ、楽しみでならぬわ。それはそうと、ヴィスエよ」


「はい」


「良いメス猫を拾った様だな。アレは極上品になるぞ?」


「偶然、アレの両親が事故に遭いましてね」


「ぶはは──。偶然、か。そうだな?偶然でなければならない」


「しかしお目が高い。流石はラーシュ様。アレには、未だ料理を運ばせる程度の事しかしていないのですが。よくぞお気付きに」


「馬鹿にするな。アレ程の逸材ならば直ぐに気付くぞ」


「本当に、良きモノを拾いました。必ずや役に立つでしょう」


「うむ。……仕込みの方は済んでおるのか?」


「……いえ、本当に、未だ拾ったばかりですので」


「そうか……残念だな。味見をしてやろうかと思ったのだが」


「仕込みが終わりました、その暁には、是非」


「まぁ良い。今夜は気分も良いしな。楽しみに取っておこう」


「お心遣いに感謝致します。して、今夜は如何されますか?」


「そうさな……3人程寄越せ。年増は要らぬ」


「畏まりました。では直ぐに手配します。私は伯爵から離れ過ぎる訳にもいきませんので、そろそろ失礼します」


「うむ。引き続き、頼むぞ?」


「お任せ下さい。全ては、あの御方の為に……」


静かに、ヴィスエはラーシュの居る客室を後にした。


醜悪な肥満男、ラーシュ。


当然、ラーシュはこの伯爵城の城主では無い。


ここ、メヂオ伯爵領を治めるのはボンペス・メヂオ伯爵であり、この男が治めている訳では無いのだから。


しかし、領主に仕える筈のヴィスエに対し、当然の如く高圧的に振る舞ったラーシュ。


ラーシュは、伯爵領から南方に在る、小さな男爵領を治める男爵でしかない。


それなのにも関わらず、伯爵の城で、領主であり城主であるメヂオ伯爵よりも偉そうにしてヴィスエに応じるのだ。


そう、ラーシュ男爵とヴィスエの間には、黒い繋がりが有った。


その黒い意図が今後、どの様に、セインスの運命へと絡み付くのかは……今の段階では、誰にも判る事では無かった。


……ヴィスエが客室から出て暫く。


ラーシュの待つ客室には、三人の少女が、うつろな目で……歩み向かっていた。







「やぁ、セインス、おはよう。今日も相変わらず美しいね」

「セインス殿、吾輩と遠乗りに出掛けないか?」

「ようセインス!そんな奴より俺とデートしようぜ!?」

「せ、セインスちゃん、その、嫌でなかったら、その……」

「ふっ、有象無象は散りたまえ。僕こそが彼女に相応しい」


モテ期、でしょうか。


あれから……あっと言う間に一年が経ちました。

私が10歳の時に、この学園へと入学してからです。


最近は、あのイタズラばかりしてきていた男の子も、あまり変なイタズラをしてこなくなりました。


それに、オドオドしていて私が変に思っていた男の子達ですが、どうやら私の事が好きだから、緊張していただけみたいです。


良かった。


私は、皆から嫌われてなんかいなかったんだ。


嬉しい。


って、心底思います。


パパとママが居なくなってから、私を好きになってくれる人なんて居ないと思っていたから。


「皆ありがとう。嬉しいけど、そろそろ授業が始まるよ?」


ちょっと、自慢したくもなりますね。


でも毎朝こんな感じなので、慣れちゃったと言うか。

最初、始めて告白された時はドキドキして、どうしていいのかが判らなくって、逃げちゃいました。


あの時は、あの男の子に悪い事をしたと思います。


でも、その男の子は今でも、私と仲良くしてくれます。

嫌われなくて良かった。


ともかく、最初はドキドキしたものなんですが……最近は、これが普通になってしまったと言うか。

ちっとも、ドキドキしません。


贅沢な、悩みなんでしょうね。


でも嫌な気分は全くしませんし、とても嬉しいとは思ってます。




──コーン、コーン、コーン……。




楽しい、学園の時間も終わりですね。

学園の日々は本当に楽しくて、一日一日があっと言う間。


以前は、私は放課後があまり好きではありませんでしたが……。


「うぇ~い!セインス、帰りにイモ串でも食いに行かね?」


お尻を触ってくる事は無くなりましたが、彼は頻繁に、放課後に私を誘ってきます。


「待て待て、待て~い!セインス殿、今日は吾輩と!」


彼は騎士様の息子さんで、乗馬が本当に上手。


「み、皆……そんなに無理に誘ったら、め、迷惑だよ……」


いつもオドオドしてるけど、いつも私に気遣って優しい彼。


「やぁ、偶然なんだが舞台のチケットが余っていてね……」


学園長のお孫さんの彼は、いつもプレゼントを私にくれる。


「ふっ。貧乏人共が。セインス、車を用意した。行くぞ?」


やる事がいつもとんでもない、だけどとんでもないお金持ちの彼は、他領の貴族様の御子息。


皆、本当に……皆が、私を求めてくれる。


こんな嬉しい事が、他に有るだろうか。


だから、一年前とは変わって、私は放課後も好きになった。


元から授業は好きでしたし、学園に通うのは本当に楽しいです。


でも……。


「皆、ごめんね?私は、家のお手伝いが有るから」


嬉しくて、楽しい思いに後ろ髪を引かれる思いだけど……。

私は学園が終わったら、直ぐに帰らなくちゃいけない。


今でも伯爵城でのお仕事は嫌じゃないけど、前より少しだけ、ほんの少しだけ働くのが嫌になった。


だからたまに、お仕事に遅刻しちゃう時も有ります。

男の子達からの誘いを断りきれなくって。


パパ、ママ、これって私の我儘なのかな?


私、悪い子になっちゃったのかな?







「な、何よあのオンナ!調子ノリすぎじゃないの!?」


「あ~確かに。前はビンボの嫉妬かと思ってたけど、アレはちょっちウザいわ」


「わかりみが深い」


「あ~しも最近そう思ってたんだよねぇ~」


「ヤっちゃうにゃ?」


ほんと、許せない。


アイツ……あんなに私が……初めてを捧げてまで尽くしてヤったってのに、私を捨ててあのオンナに擦り寄るなんて!


子爵様の息子だからって、だから……私は……。


私から奪い取ったコト、あのオンナには後悔させてやらなくちゃ気が済まない!


「……ヤる……ヤるわ!私がヤる!私が作戦を考える!皆はちょっとだけ手伝ってくれたらそれで良いからっ!」


「にゃははっ!流っ石ビンボ!お任せするにゃ~」


「あ~それはイイけど、本当に大丈夫か?」


「イジメたのバレたら、ウチらがヤバい」


「ま、何とかなるっしょ、ビンボなら平気平気!応援するよ!」


ふふっ、やっぱり、あのオンナにはクラスの他の女子達だって、思うところが有るのね。


私の事を応援してくれるみたいだし、私が何とかしてみせるわ!


お金だって、いっぱい有る。


あの子爵の息子から私自身が稼いだ金貨がいっぱい!


……そうね、そうよね。


アイツも一緒に、痛めつけてやろう。

あんなオンナに現を抜かすアイツにも!


ふふっ……ふふふっ……あはははは!!!


絶対。


許さないんだから。




「コンバンワ?ちょっと、イイかしら?」




落ち着くのよ、ビンボ、私なら……私なら出来る!


「ひゅ~っ!ガキがこんな所にどうした?オレらに用か?」


さ、酒クサイ。


私の、大ッ嫌いな臭い。

ウチのクソオヤジとクソババアが、何時も漂わせている臭い。


だけど今は我慢よ、ビンボ。


「あ、あのっ、……ちょっと、お願いが有って」


私だって、本当はこんな奴らに頼りたくは無い。


だけど……11歳の私じゃ、冒険者ギルドに直接依頼を出す事なんて出来ないし……。

って、まぁ、頼みたい内容が内容なだけに、大人だったとしてもギルドを通す訳にはいかないわよね。


だから冒険者に直接、私の願い通りにヤってくれそうな人にお願いするしか無い。


「オレらに頼みだぁ?お前みたいなガキがか?」


ガキガキ言わないでよ!

私はもう、ガキなんかじゃ無いんだから!


「私はガキじゃないわ!お金なら有る!だからちょっとしたお願いを聞いて欲しいの!……どう?コレだけ有るわ!」


──ちゃりっ。


ふふっ、どうよ。

ウチのクソ親はまともに食事も食べさせてくれないし、贅沢したくて大分使っちゃったけど……。

それでも、金貨が5枚も有るのよ!?


袋を開けて見せてやったら黙っちゃって。

ガキだと思って舐めないで貰いたいわね。


お仲間同士で顔を見合ってるけど……。

依頼、受けてくれるかしら。


「へへっ、何だ。ちゃんとした依頼なら最初からそう言ってクレよな?冒険者に依頼がしたいって事なんダロ?」


あっちの話しは纏まった様ね?


「え、ええ。お願い、聞いてくれるのね?」


「ああ、イイぜ?何でも、オレらに話してみろヨ?」


やったわ!

これで……あの憎いオンナと、アイツに天罰を下せるわね!




「……って、感じでお願いしたいの」




私の作戦は完璧な筈。

学園の導士にバレる訳にはいかないし、勿論親にも、街の衛兵達にもバレる訳にはいかない。


信用して話せるのは私の女友達くらい。

それと、お金で雇ったコイツらだけ。


「ソコまでの誘導は私が何とかするから。待ち伏せて貰える?」


私と女友達とで、あのオンナを誘い出して路地裏に誘い込む。

後はコイツらの好きにさせて、私はアイツを呼び出す。


あのオンナが、アンタに大事な話しが有るらしい。

とか言ってやれば、ほいほい付いてくるに違いない。


そこまですれば……冒険者には子供が敵う訳も無いんだから。


「へへへ、しっかり聞き届けたぜ。交渉、成立って事でイイのか?ガキのクセして、大胆な事を考えやがるゼ」


作戦に……抜かりは無い筈。


「ええ、それでお願い。報酬は全部終わったら──


──ダンッ!!!!


「あぁ!?駄目に決まってんだろ!?今、だ。今出せ!」


──って、あ、あぶっ……危ないじゃない!」


私の、顔の直ぐ横にナイフを突き立てないでよ!


「おいおい、ガキが怖がってるじゃねぇか。漏らしちまうぞ?」


さ、最低ね!もう、漏れてるわよ!


「ケハハ!可哀想に。お~ヨチヨチ、怖がらなくていいゾ?だがな、お嬢ちゃん。オレら冒険者にも色々と流儀が有ってナ?こういう仕事ってのは、前金が当たり前なんだワ?」


そ、そそそ、そう、なのね?


「あ~……すまんな、つい、普段大人と仕事してる時と同じくマジになっちまった。判るだろ?こりゃあ犯罪だ。その手伝いをオレらにさせようってんだからな。例えガキが相手でも、そんなヤツの言葉は信用出来ないんだわ。だからな、先払いでなきゃ受けねぇよ。判ったか?」


た、確かに、逆の立場なら、そうかもしれないわね?


「は、払うから、その、ナイフを仕舞いなさいよ!」


──ちゃくっ。


こんな所で、私が殺されてしまったら話しにならない。

惜しい気もするけど、金貨5枚が入った小袋を放り投げて渡したのは正解だと思うしかない。


「へへへっ!確かに、受け取った。じゃ、商談は終わりだな。おいガキ、さっさと帰れ」


えっ……はぁ!?


いや、未だ細かい日程とかそういう……。


「ど、どういう意味?交渉成立って……未だ相手の特徴とか決行日とかだって──


──ヒュッ!!!


「うるせぇ、黙れ。オレらは、聞いてやる、って言ったろ?お前も、聞いてくれと言った。だからオレらは聞いてやった。その時点で交渉は成立してるだろうが」


ま、またナイフを……私に突き付けて……。

そ、それに、そんな、それじゃぁ……わ、私の金貨、は……。


「そ、そんなの、詐欺じゃない!」


「ああ!?人聞きの悪い事言ってんじゃ無ぇゾ?こんなハシタ金で、そんな危ねぇ橋が渡れる訳無ぇダロ!子爵の息子なんだろ?そもそもさっき言った通り、お前の願いはしっかりと聞いてやったし、嘘なんかドコにも無い。気に入らないなら衛兵にでも訴え出てみろや?お前の話しをすれば、捕まるのはお前じゃね?」


そ……んな……。


「それとも、もっと大金が用意出来るってなら、話しは変わってくるがな?無理なんダロ?」


「用意……出来……ない。判った、判ったから、ナイフを仕舞ってよ。……もう、帰るから」


どうして、どうしてこんな事に……。


全部、そう、全部、あのオンナの所為よ!

あのオンナさえ私の前に現れなければ、こんな事には!


アイツだって、私をもっと必要としてくれた筈!


悔しい……。


……何て、惨めなんだろう……。


「ケハハ!おい、金が無いならイイ方法が有るゾ?」


イイ、方法……?

……何?

やっぱり、私のお願いを聞いてくれるの?


「っかぁ~!お前、ほんとスキモノだな!?こんなガキでもお前はイけるのかよ!?」


「スキモノとか言うなって~。俺は紳士なダケだゾ?」


「いやぁ、紳士っていうかお前ヤベぇわ。漏らしたガキだぞ?って……お前はだからこそ、か。ははっ、まぁ好きにしろや」


「へへっ、確かにコイツらしっちゃらしいか。んじゃオレら二人は何時もの場所で飲んで待ってるわ。じゃ、また後でな?」


……や、ヤバいんじゃ……コレって……つまり、そういう……。


「ちょ、ちょっと、待って、待ちなさいって!お、お金はもう要らないから、返せとも言わないから!コイツに変なコトさせないでよ!置いていかないで!」


あ、ああ……振り向きもせず、行っちゃった……。


わ、私が悪い……の?

私が……私があのオンナとアイツに天罰を下そうとしたのが?


それって悪いコトなの?


「ケハハ、そう、怖がるな。俺は紳士だ、直ぐに済む」


だ、駄目、足が震えて言う事を聞いてくれない。


「ひ……や、ヤメ……!」




~1時間後~




──ぱちゅん、ぱちゅん、ぱちゅん……。


って、私、なんか場の空気で悲劇のヒロイン気分だったけど、考えてみたら、このくらいどってコト無かったわ。


こんなコトで私のお願いを聞いて貰えるなら、安いモノね!


あははっ、楽勝じゃないのよ!


ヤツらは、金貨5枚じゃ足りないって言った。

相場なんて知らないけど、もっと高額なのよね、きっと。


それって、さ。


つまり、私には金貨5枚以上の価値が有るってコトじゃない!


そうよ私には価値が有るの!


嬉しい、こんな、嬉しいコトが他に有るのかしら?


……無いわ!


気持ちよくて、自分の価値を感じれて!


幸せ、私幸せだわ!?


「あはっ!あははっ!あはははははは──!!!」







価値観。


それは、人によって異なる。


恋愛観においても、当然異なるであろう。


まるで違う価値観を持つ者。


策略を張り巡らせる者。


数多の人々が集い、物語は紡がれる。


セインスの運命は。


ビンボの運命は。


ヴィスエの真実は……。


……全ての真相は、どうなるのか。


それは本編にて、乞うご期待。

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『色×恋』 chomocho@処女作執筆中 @chomocho

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