第2話 求められる

美恵の策により動き出した村上義清軍···その頃、ターゲットである武田方の横田 高松は···


「村上義清は、強敵だ···だが、今回はこちらが出し抜いたようだな。目的はあくまで村上屋敷の制圧、分かっているな?」


「おぉ!」


兵が一斉に士気を高める。さすがは戦場慣れした将。鎧が傷だらけでそして気迫が違う。


「伝令!」


「どうした? 義清が動いたか?」


「それが···」


伝令兵は冷や汗を流す。


「早く言え!」


「はっ···村上義清軍団を我が屋敷近くに確認したのですが···」


「それがどうした? ならば、策は成功ではないか」


「我が屋敷にいる軍勢が旗印を確認したところいても百程かと···」


「なんだと!?」


兵達も動揺で士気が下がる。



その頃、横田の屋敷では···


「驚いた···佐川殿は策士であったか」


「それほどでも」


そう、横田の屋敷を制圧するのではなく包囲のみにとどめ、ほとんどの軍団を夜襲組にまわしたのだ。


横田の屋敷に残っているのは、佐川 美恵率いる切田 美依の一人。


市川信綱率いる百のみでその軍勢で包囲している。一見、敵の三百の栗田 表太郎だけで制圧可能な数だが、無理だ。


何故なら、市川信綱様の兵を五人ずつ2分ごとに送り込むことで屋敷内を犠牲少なく少しずつ攻撃しているので相手を防戦状態にしているのだ。


そして、五十人のタイミングで私と美代、信綱様と残りの兵で総攻撃という算段だ。


表太郎は、私と美依に任せて貰えた。信綱様は、反対してきたが勝つという自信を声に出すと笑いだし兵の制圧側にまわってくれると言ってくれた。



その頃、義清軍···


「見えたぞ、横田軍の夜営の明かりだ···」


義清は小声で呟き、後ろに伝言ゲームのように伝えていく。


義清·重成·政国の三将は六百を率いて横田軍の夜営場所の上の位置に待機していた。


勿論、気付かれぬように、暗闇に紛れて。


「では、美恵の言った通り、重成は逃げ道となる我が屋敷への道を防ぎ私と政国でお主らの叫びをサインに夜襲する」


「はっ!」


そして、重成は位置についた。


「ぉぉぉぉ!」


次の瞬間、凄まじい雄叫びが横田軍に響き渡る。


「な···なんだ!?」


横田軍の兵は混乱に陥った。


「て、敵襲!?」


そして、村上義清·屋代 政国の軍勢が斜面を馬で駆け降り夜襲は大成功、横田 高松以外の兵は逃げたり殺られたりで半壊だ。


「村上義清殿···お主にここまでの知略があったとは驚きましたぞ」


長い槍を構えながら高松は、義清にそう告げる。


後ろでは、政国が兵をほとんど制圧している···逃げ道は重成が防いでいる。


「私ではない···私には神から授かったような女将がいるのでね」


「ほう···女将に我は討たれるか。これほど悔しいことはないな」


高松は嫌みっぽく笑うと義清に斬りかかる。


「だが、横田 高松を討つのはこの村上義清だということをお知らせしよう!」


義清は高松の槍を自分の刀で受け止めると高松の槍を削るように剣先を高松の首筋まで迫らせる。


「我は信玄公の誇り高き将であることを忘れるな!」


高松は、義清を馬鹿力で押し返しお互いに退き剣と槍を構えて警戒し合う。これが将の戦いなのだ。お互いに命を懸けてるからこそお互いの生き様を争いで表現しているのだ。



その頃、横田の屋敷では美恵、美依、信綱が遂に屋敷に進撃し、形勢は一気に村上軍が優勢になり栗田軍の兵士は逃げ出すものも現れる。


「もはや、私がやるしかないか···我は栗田 表太郎! 高松様の忠実な将なり!」


「良いか? 危なくなったら私の兵士制圧と変わるからな? 死ぬんじゃないぞ···」


「信綱様、大丈夫! ヤンキー、なめてもらったら困りますんで」


私は信綱様に笑いながらほぼ無い胸をはる。


「それに、私が美恵様を必ずお守りするので!」


「じゃぁ、やりますか···信繁を討ち取るには実力が足りないから修行がてらサンドバッグになって貰いますよ」


私は悪い笑みを浮かべながら表太郎のもとにじりじりと歩きながら距離をつめる。


「女二人でも、我は容赦せぬぞ!!」


表太郎は、長い槍を自分の頭上で回転させる。


「先手必勝!」


私より先に美依が驚異の身体能力で高いジャンプで飛びかかり回転する槍を自らの剣で停止させ、表太郎に追撃の腹パンを決めようとしていたが手強い。 読まれて避けられていた。


「良くやった! これで私の得意の拳に持ち込める!」


「なっ!? 武器なしで拳で戦うと言うのか···しかも女将だぞ?」


「おらぁ! 隙だらけだぜ!」


私は表太郎に本気の腹パンを決め、揺らいだ表太郎に馬乗りになる。


「後は任せます!」


美代が表太郎の槍を奪取してくれ無防備となった表太郎を私は殴り続け顔がパンパンになるまで殴ったら降伏した。


「ふふっ···何て奴だ···」


信綱様が兵を制圧してくれていたらしく私を見て驚きながらも笑っていた。



横田屋敷が制圧された頃、村上義清軍も決着がついていた。


「ガハッ···」


横田高松が、血を吐き倒れる。義清の剣に心臓を貫かれたのだ。


「横田高松···敵ながら手強かった。失うには辛い人材だが上杉家のため」


「良いのだ、後悔···などない。最期にお主のような強き将と戦えて光栄だ」


そして義清は暗い顔で、横田高松の首を斬り落とし、横田軍は壊滅した。その後、村上軍は自らの屋敷にてそれぞれ休み翌日、戦後評価が始まった。



村上の屋敷···


「まずは、皆の者ご苦労であった」


「義清様こそ高松討ち取り、見事でしたぞ」


義清の将、政国が義清を褒める。


「美恵は戦後評価は存じているか?」


「えぇ、確か戦闘の活躍により褒美を貰えたり反省点があれば話し合う場でしょう?」


「その通り、よく知ってるな。まず、いつもの政国を始めとする家臣には横田屋敷より発見された金の山分けとする。分配はこちらでして後日送る」


「ははっ!」


「そして、佐川 美恵···お主にも褒美がある。この度の勝ちへの貢献、そして栗田表太郎の降伏の二つの栄光により家来から政国らと同じ今日から、


村上家 家臣 佐川 美恵とする」


「へ···?」


私が家臣?


「ということで、これからはお主は立派な一人の将である。私から祝いとして小さいが屋敷と鍛冶屋自信作の新品の名刀···


名刀 狂華(きょうか)を与えようと思う。美代はこれが褒美ということで良いか?」


「勿論! (これからしばらくは、美恵様の屋敷で二人暮らし···嬉しいなぁ!)」


「家臣への昇進に刀に屋敷まで···義清様!この一生を貴方様に捧げようと思います!」


私は、決めた。尽くしたら尽くすほどきちんと返してくれる。いろんなものを与えていただけるほどに求めてくれている。私の強さを磨く理由がやっと見つかった!


「ほう···それは百人力だなぁ! そうだ···お主は家族はどうなっておるのだ? 良ければ、家族にも良き立場を与えるぞ?」



家族···私は養子かつホームレスの身で迎えてくれた家族は支援金目当てで、愛など欠片もくれなかった。


「家族は···その、私は独り身なのです」


もう、私はあの家族の元に帰るつもりはない。そしたら支援金も止まる。せめてもの仕返しである。


「そうか、なら私の養子になる気はないか?」


「へ!?」


周りの家臣や美代もざわめく。


「お主の名は、村上 美恵···どうだ?」


私は、涙をこぼす。私にもやっと暖かい家族が手に入るのかと思うと嬉しさを越えてもう分からないのだ。


私の夢がいきなり叶ったから、誰かに求めてほしいという夢が。


「ほんとに、わたじ···でも良いですか?」


「普段は私達、男の武将よりも気の強いお前でも泣くのだな」


義清様は私の側に来て泣き止むまで抱き締めてくれた。義清様の温もりに安心して眠かった。


そして、私はこの日より村上 美恵となった。



私は、村上義清の義理娘として独立して屋敷を持つことになった。


「美恵様、最近は毎日が楽しそうですね?」


「そりゃぁね!」


もう、求められてもいなかった佐野家の名前を捨てれたのだ。辛い過去をやっと乗り越えて村上 美恵として前に進めるのだ。


私はまだ、なぜ戦国時代にタイムスリップしてしまったのかも分かっていない。


でも、とりあえずこの世界の村上 美恵として今は生きていようと思う。そしたら、いつか理由も分かるかもしれないから。



私には家臣が二人いる。


一人は、ご存じの通り「切田 美代」


彼女は私の護衛役である。


もう一人新たに家臣となったのが、横田戦にてぼこった結果降伏した栗田表太郎である。


ついでに表太郎の兵 百に義清様が私に与えてくれた百を合わせて兵は二百人いる。


何故、栗田表太郎が家臣になったのかって?それは···



戦後評価の終わり時···


「横田屋敷にて捕らえた栗田をどうしましょう?」


「私に従うつもりは?」


義清は表太郎に問う。


「ない! 私は、高松様の者なり!」


「こいつは、高松の方へ送ってやった方が本望だろう」


栗田表太郎は、切腹となりその直前彼は、庭にて雲ひとつ無き青空を眺めていた。


「あんた、ほんとに死ぬ気?」


「そなたは、私を降伏させた女将···何の用だ?」


「お前、後悔はないのか?」


「···私は、物心ついた時から高松様しかおらぬ。もうどうしようもないのだ。上杉に寝返るなど死んだ高松様に怒られてしまう」


表太郎はくすっと笑う。


「あんた、私の家臣になる気はない? 私は上杉方の義清様に仕えてるけど謙信様に仕えてはいない複雑で貴重なポジションなの」


「···お前は優しいな」


「じゃぁ、決まり! 今から、お父様に直談判してくるから!」


「ふっ···私はこれからこき使われるのだろうな。だが、私は嬉しい。


あの者は、大物になる。そんなオーラを感じる」



その後、許可を貰い切腹は、取り止めとなり表太郎は私の家臣となった。ちなみに表太郎は、私の館の近くの村に兵と共に暮らしている。



しばらくは、屋敷内の掃除や自分の軍の管理などで時を過ごし一週間が経った頃···


「美恵様、お客様です!」


「こっちに連れてきてくれる? 美代」


「お任せください!」


誰だろう?お父様の関係者かな?



何やら、小さな包みを持った笠を被った武士らしき人と二人きりになりふすまの前では呼んでおいた表太郎と美代に見張らせている。


「初めまして、村上 美恵と申します」


「これはご丁寧に··· 私は、風魔小太郎と申します」


風魔小太郎!?


風魔小太郎···確か大名、北条家の将で噂によるとゲームのキャラにもなるほど有名だという。


「私は、北条氏政様の使いで訪ねました」


「そうですか、私に用があるのですか?」


「北条とそちらの上杉が同盟を組んでいるのはご存じですか?」


「そうなんですか? 私は、謙信様の将ではないので」


「義清様の義理の娘さんでしょう? しかし横田戦での活躍は周りの大名に広がり噂となっております」


まじか···


「そこで北条氏政様より、同盟の一環として貴女にこれから攻める予定の武田の将。


真田 昌之との交戦に援軍として来て欲しいのです」


真田昌之!? これはまずい···昌之は良いがあの人がいたら戦闘慣れしていない私は足手まといなだけだ。


「っ···義清様にはこの話は?」


「ここに来る前にしました。すると、娘の成長のためならと許可してくださいました。


ちなみに、市川 信綱様も貴女と共に来てくださるそうです」


ここで断ったら、武士じゃないよなぁ!


「分かりました。援軍の件、お受けいたします。しかしこちらは私と切田美代、兵百···これが限界です。後はここの留守にまわしたいので」


「その数だと、貴女が心配ですがそちらの判断なら構いません。では、準備ができしだい、氏政様の居城、信綱様と共に、小田原城にお越しください」


そして、風魔小太郎さんは帰っていった。援軍か···また、一つ大きな戦いの予感がする。


まぁ、やってやるよ!新しいお父様のために強くなるためにもな。


勿論、美代は連れてって貰うことに大喜び。表太郎は役に立てないと悔しがっていたが留守を褒めると任せてくださいと胸を張っていた。



北条家と合同で、真田戦···これからは、武田との戦いで忙しくなりそうだ。


ちなみに、風魔小太郎が持ってきた小さな包みは金だった。


きっと、援軍中止をしにくくするための賄賂兼前払いの礼って感じかな?




[人物紹介]


*風魔小太郎···北条家の有名な将


*真田昌之···武田家の家臣でかの有名な徳川家康をも警戒させる強者

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