第5話 ふざけないでよ

「上手くいったね。」

「はい・・・!」

私もソフィアも大きく力を使って、疲れを感じているけれど、

小さく笑い合い、それでも油断なく魔族の長を見つめる。


「おおおお・・・!!」

「やった・・・やったのか・・・!?」

しかし、動く様子を見せない敵の様子に、

私達よりも早く、騎士団の人達が声を上げた。


・・・いや、後に聞こえたほうは、

この場面で言っちゃいけない台詞のような気がするけれど。


まあ、私とソフィアだけの秘密にしていた大技だから、

見ていた人達が盛り上がっちゃうのも仕方ないか。



「ゆる・・・さん・・・」

「!!」

その時、倒れた魔族の長から言葉が漏れ、

全員が警戒を向ける。


「許さんぞおおおおお・・・!!!」

その身体から黒いもやと茨が溢れ出し、

荒れ狂いながら辺りを蹂躙し始めた。


「ぐああっ!」

「け、結界を・・・ごふっ!」

その勢いと凶悪な威力に、騎士団は瞬く間に薙ぎ倒され、

神官も結界を突き破られて倒れてゆく。


「アカリ様!」

「ソフィア、無理はしないで・・・!」

まだ先程の技の疲れが残っているだろうソフィアが、

一際強力な結界で、私達二人の周りを覆った。



「壊れろ、壊れろ!

 我に盾突き、あまつさえ深手を負わせる者など壊れてしまえええっ!!」

魔族の長の怒りに同調するように、

黒いもやと茨はますます荒れ狂いながら、結界を打ち付けてゆく。


「う・・・あ・・・ああっ・・・・・・!」

「ソフィア! 私が全力でイグニを召喚すれば、

 何とかなるかもしれない。だから、これ以上は・・・!」

あちこちにひびが入り、今にも壊れそうな結界を、

何度も立て直そうとするソフィアは、もう息も絶え絶えという様子だ。


「いいえ・・・アカリ様も、本当は分かっていらっしゃるのでは・・・

 今は、私が・・・・・・」

「う・・・・・・」

悔しいけど、ソフィアの言う通りだ。

魔族の力に最も対抗できるのは、神官が得意とする聖なる光。

今の私がどんな精霊を召喚しても、結界には及ばない。

だけど、このままじゃ、このままじゃソフィアが・・・!



「ああ・・・あああっ・・・!」

「ふん・・・我を傷つけた召喚士と・・・よく分からん召喚された者よ・・・

 まとめて、消え去るがいいっ!!!」

「!!!」

いけない、直感的に分かってしまった。

優先順位があるとすれば、狙われるのはソフィアだ!


止めを狙うように、魔族の長の攻撃は激しさを増してゆく。

こうなったら私が・・・!


「アカリ様、申し訳ありません。」

「え・・・・・・」

「どうかご無事で、元の世界へ・・・」

ソフィアが私に微笑みかける。

そして、最後の力を振り絞るような結界で私を包み、後方へと転移させた。


ああ、私と同じことに気付いてしまったんだろう。

ふざけないでよ・・・!


「ソフィアあああああっ!!!」

私が見つめる先で、結界は砕け散り、

ソフィアの身体は黒い茨に貫かれた。

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