第12話 ずっと一緒② 【side アリア】

飛び込んだハクタカの腕の中、真っ赤になってしまっていたのが分かっていたから。

私は、しばらく顔を上げることが出来なかった。


そうしているうちに、回りが気を利かせてくれたのだろう。

気づけば甲板の上には私とハクタカだけになっていた。



長い事ハクタカは黙ったままだった。

酔いが回って眠ってしまったのかと思って、ゆっくり顔を上げれば。

思いがけず真っすぐこちらを見ていたトパーズの瞳と至近距離から目が合った。



「ハクタカ?」


どうしたのかと思い名前を呼ぶが、ハクタカは堅く口元を引き結ぶばかりで何も答えない。


「……酔ってる?」


思わず投げかけた問いに


「酔ってない」


そうキッパリ返されて困惑する。

じゃあどうしたと言うのだろう?


そう思って首を傾げた時だった。

ハクタカがゆっくり私の頬に触れた。


「アリア……」


ハクタカがいつもより少し低く掠れるような声で、唇が額に触れてしまいそうな至近距離で優しく、でも彼がくれた星型の蜂蜜の飴のように甘く甘く私の名前を呼ぶ。


「アリア……好きだよ。俺、アリアを守れるようもっと強くなるって誓うから。絶対もう逃げないって誓うから。だから……これからもずっと俺の傍に居てよ」


ハクタカの言葉が嬉し過ぎて。

声を出してしまえば泣いてしまいそうだったから、代わりに思いが届くよう必死になって何度も何度も頷けば。


ハクタカはそんな私の反応が可笑しかったのだろう。

また優しく目を細めてクスッと笑い声を漏らした。





……しばらく経ってふと考える。


ハクタカの言った『好き』と、私のハクタカに感じている『好き』は果たして同じものなのだろうか?


ハクタカの言葉に思わず舞い上がってしまったが。

ハクタカの言う『好き』と『傍に居て』欲しい気持ちは、私の抱くものとは違って、これまでと何ら変わらない、飼っている犬に向けるようなものではないのだろうか??


そう思って勝手にまた落ち込みそうになった時だった。

ハクタカが頬に触れていた右手の親指で、そっと私の唇に触れた。


優しく顔を上げさせられ、やさしく視線を合わせられる。


『いい?』


声に出さず唇の動きだけでそう問われて、改めてハクタカの『好き』の言葉の意味を知った。



「……うん」


消え入るような声でようやくそれだけ答えれば、その瞬間強く抱き寄せられ唇が重なる。


触れるだけ、吐息が重なるだけのキスなのにどうしていいのか全然分からなくて……。

私もずっとハクタカと一緒にいたいと思っているこの気持ちの、千分の一でも彼に伝わればいいなと思って、彷徨わせていた手で鏡の様にハクタカの左の頬に触れた。


すると、その思いが伝わったのか。

ハクタカが初めて、いつもの大人びた表情を崩して子どもみたいに無邪気そうに笑った。


そんなハクタカ本来の笑顔が見れたことがどうしようもなく嬉しくて。

その胸に頬を寄せ


「ずっとずっと一緒にいてね」


そう言い、幸せが零れてしまわないように目を閉じれば


「あぁ、約束する」


ハクタカはそう言って。

まるで二度と離れてしまわないようにとでも言うように、強く強く私の背中を抱きしめてくれたのだった。

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