第二章 スローライフで毎日忙しいのだが?

第1話 アリア、たまごサンドにはまる

最近のアリアのマイブームはタマゴサンドだ。

ゆでた卵をつぶしたものに、卵黄と油、少量のビネガーを混ぜたソースをあえたものを、決して高級とは言えないボソボソのパンにはさんだそれが特にお気に入りらしい。


「今日の夕食は何にしようか?」


そう尋ねれば


「タマゴサンドがいい!!」


間髪入れずそう返って来たので、夕飯にタマゴサンドかぁとは思いつつ、まぁいいかとそれに決めた。


「じゃあ、帰りに卵を買って来てくれないか?」


アリアにそう頼めば、


「分かった!」


嬉しそうなアリアの返事が返ってきた……のだが?





夕方、ルンルンで帰ってきたアリアは、大人の頭程の大きさの卵を抱えていた。


「……うん、分かった。『ニワトリの』って付けなかった俺が悪かったな。悪いけど、それは返して『ニワトリの』玉子を買って来てくれないか?」


俺がそう言えば


「えー!!!」


アリアが不満そうに唇を尖らせた。


「……いい子だから、元あった場所に返して来なさい」


何だあの、溶岩色をした巨大な卵は?

絶対、碌な物じゃないだろう??


アリア達が魔王を倒してくれたおかげでこの辺りで魔物を見ることは殆どなくなったが、恐らく何らかの魔物の卵に違いない。


うん?

そうなると、村の近くに捨てるのは危険か??



そんな風に考え毎に気を取られて油断していたときだった。


「えーい!」


アリアが、湯を沸かしていた鍋に卵を放り込んだ。



えー。

何で。

何で、得体のしれない卵を見て食欲に直結するかなぁ?


……はっ!

もしかして。

魔王討伐の旅は魔物を食すまでに過酷を極めたのだろうか??!


アリアが超えて来たのであろう過酷な旅の道のりを想像し、思わず溢れそうになった涙をこらえる為、俺がグッと眉間を強く抑えた時だった。


ピキッツ!

ピキピキ!!


そんな堅い音を立てて、卵の殻にヒビが入った。


一瞬、湯の熱に耐えきれず亀裂が走ったのかとも思ったが、よく見れば中で何かが動いている。

湯の熱に反応して孵化が始まったのだ!!


凶悪な魔物の雛だった場合、このまま殺してしまうのが正しいのではと思わないでもなかったが……。

そうする事も変に良心が咎めて、湯の中から四苦八苦しながら取り出しタオルで包んだ。


そうするうちに、パキン!という堅いガラスを割ったような高い音がすると同時に、殻がテーブルの上に飛び散った。

その音につられ、思わず音のした方を見れば、意図せず中の何かと目が合う。



「なんだか大変そう。こっちから殻を割るの手伝ってあげようか?」


そう言いながら心配そうに手を伸ばしたアリアを慌てて止める。

卵の殻と雛の血管がまだ繋がっていた場合、無理に割れば雛が死んでしまう事があると、ウズラを飼っていた友人から聞いたことがあった。



そうして――

長い時間をかけて、卵から出てきたのは火竜の雛だった。


「キュアーーー」


俺の方を向いて、火竜の雛がまるで猫の子の様に大きく口を開いて懸命に鳴いた。

どうやら、最初に目が合った俺の事を親だと思ってしまったらしい。


「かわいい!!」


抱っこしたそうに手を伸ばすアリアの手を避けて、俺の方に寄ってこようと、よちよち歩きの雛がテーブルの上を右往左往している。


「ねぇ、この子飼っていいでしょう?!」


目をキラキラさせたアリアにそんな事を言われて返事に窮した。


火竜は大きいものだと城位の大きさがあって、見つけ次第即討伐隊が組まれる程危険とされている。

その一方で火竜から取れる素材は熱に強く、丈夫なため高値でやり取りもされる。

故に犬や猫のように堂々この村で飼う事は許されないだろうし、かと言ってその辺に捨ててれば一晩で素材に解体されてしまうだろう。



悩みに悩んだ末、


「……いいか? 村の皆には絶対に内緒だからな??」


そう言ってオレは火竜を飼う覚悟を決めた。

まさかいい歳して、親に隠れて捨て犬を育てる事に決めた子供のようなセリフを言う羽目になろうとは思わなかった。


さてさて、こいつをどうしたものかと頭を抱えるオレに向かい


「分かった!!」


アリアが嬉しそうに敬礼してみせた。


……まぁ、アリアが嬉しそうだからいいか。



火竜が何を食べるのかは検討もつかなかったから、とりあえず家にある物を片っ端しからやってみた。

火竜は鶏肉を少し食べたが、それ以外ではアリアが差し出したタマゴサンドが気にいったようだった。

野菜くずには見向きもしない。


どうやら火竜の好みはアリアと同じらしい。

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