第5話 気まぐれではなかった

 風太に誘われ、デザート豊富なカフェ『LE デセール』で、待ち合わせする芽生めい

 10分前に着いた風太ふうたは、緊張きんちょうしながら窓際まどぎわに着席した。

 数分後、芽生の姿を見付け手を振ったが、その時、芽生が一人ではない事に気付いた。


 混み合ったカフェの狭い通路を芽生の右手を引きエスコートする裕貴ゆうきは、風太のテーブルで立ち止まり、芽生の椅子いすを引き座らせた。


「芽生、なんだ、そいつは?」


 その風貌ふうぼうから、そうが話していた人物とさとった風太。


富沢とみざわ君は、私のか」


って、まだ言いにくそうだね、芽生」


 監視役かんしやくと言いかけた芽生をさえぎった裕貴。


(……富沢君が本当に彼だったら、それはそれで、大変そう! カムフラージュ中の今も、けっこう大変だし……)


「彼!? マジで付き合っているのか?」


「まあ、一応……」


「いつからだ?」


「最近……」


 裕貴の方をチラッと見ながら、無難ぶなんに済ませようとした芽生。

 芽生の返答に、衝撃しょうげきかくせない風太。

 

「風太は、もう注文したの?」


「まだだ。一番人気の『クレーム ブリュレ ヴァニーユ』にする」


 芽生と二人分の支払いとなると、財布の中身から、自分だけでも安価なデザートを選んだ風太。


「どうしよう? どれも美味しそうで、ひとつに決められない」


 メニューから目を離せない芽生。


「ひとつに決めないで、芽生が食べたいだけ注文していいよ」


 太っ腹な裕貴の態度が、芽生におごるつもりでいた風太のかんさわった。


「そんなに注文したら、食べきれないだろ?」


 仏頂面ぶっちょうづらで言った風太。


「そうだね。残すともったいないし」


「それなら、芽生が食べたいの2つ選んで、僕と2人でシェアしよう」


 裕貴の提案に、うれしそうな様子の芽生。


「それ名案! ありがとう富沢君! じゃあ、『こんもりフルーツタルト』と『洋梨ようなしのパルフェ』にしようっと!」


 高価な二つのデザートを選び、支払いは裕貴と決めているような芽生に、自分が部外者のように感じられた風太。


(ゴメンね、風太。だって、風太のお小遣いこづかから、私の分も払わせるの気が引けて……お金持ちの富沢君という特権を利用すべきって思ったの)


 風太へのもうわけ無い思いと同時に、裕貴の監視かんしに協力している利点を上手く活用したい気持ちが有った。


「どうして、芽生は、そいつを苗字みょうじで君付けなんだ?」


 呼び捨てし合っている自分と芽生の方が親密に感じられたり、裕貴に対する芽生の態度もぎこちなく思え、まだ自分にが有ると思えてきた風太。


「それは……」


「僕は、呼び捨てでかまわないけど、付き合い出したばかりで、芽生はすごくシャイだから」


 言葉にまる芽生に代わり、裕貴が返答した。


「シャイね……」


 風太が芽生の方を見て、首をかしげた。


(風太、疑っている……? 富沢君呼びしているせい? だって、知り合ってすぐなのに、呼び捨て出来ない……)


「なんか、付き合っているにしてはあやしい感じだし、今のうちに宣戦布告せんせんふこくする! 俺は、芽生の事が好きだ! お前が芽生を利用しているなら、俺はいつでも奪い取るからな!」


「風太……!?」


 言い切った後、芽生の驚きの眼差まなざしが視界に入った。

 途端とたんに、恥ずかしさが込み上げ、席を立った風太。


「風太、まだデザート来てないけど」


「お前らで食べろよ! 会計もそっち持ちで!」


 一刻も早く、その場から退散たいさんしたかった風太。

 そんな風太の後ろ姿を呆然ぼうぜんと目で追った芽生。


(風太が、私の事を好き……それに、風太は、富沢君といる私の不自然さとか感じ取っていた。ちゃんと私の事を見てるから、気付いてくれたんだね……)

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