第2話 馴れ初めは、忘れ物から
裕貴は、男女問わず在校生から注目を浴びる存在。
芽生が通う公立中学校では、車で送迎される生徒などいなかった。
それも、親ではなく、お抱え運転手付きベンツでの送迎は、
友人達との登校時にも、ベンツに乗って
成金を連想させそうな彼の名より、『王子』呼びの方が、芽生には共感できた。
彼のサラサラ髪、気品や
しかも、文武両道で、体育大会では記録を塗り替え、毎年優勝の実績を誇る英語スピーチ大会では、ネイティブのような
非の打ちどころがない、
その裕貴が、近辺の
恋人いない歴は年齢と同じ、少女漫画のような恋に
あくまでも妄想の中限定で、現実では、とりえの無い自分には手の届かない存在と割り切っていたが……
そんなある日、女子達の憧れの王子である裕貴と、急接近するきっかけとなった出来事が起こった。
その日は例により、母親は早朝から出勤し、目覚まし時計のセットをし忘れた為に、あわや遅刻という状態で家を飛び出した芽生。
丁度その頃、近所に住んでいる
「芽生、そんなノロいと、遅刻するぞ! リュック持ってやるから、しっかり走れ!」
体育会系男子で、幼い時から芽生を
「ありがとう、風太!」
(風太って、こんないい人だったんだ! さすがは、ハードで有名な野球部男子! リュック2つでも速い! わっ、背中が一気に軽くなった! これなら、余裕で走れそう!)
リュックの重みが無くなった分、走りやすくなった芽生。
運動神経は下から数えて指折りに入る芽生だが、それでも、数分の余裕が有る状態で三ツ星中学校に到着した。
校門の前には、いつも裕貴が乗っているベンツが停車していた。
(富沢君も、今、登校?)
ベンツの中は空で、オロオロと門の辺りを行ったり来たりしている黒スーツの初老男性に気付いた芽生。
(あれは、富沢君の運転手さん。困ってるような感じだけど……)
急いでいたが、見過ごせずに声をかけた。
「あの、どうしたんですか?」
「坊ちゃんが忘れ物をしましたので、お届けに参りましたが、私は学校内に入る事が出来ないので。申し訳ありませんが、この書類を坊ちゃんに渡して
運転手が、芽生に書類の入った茶封筒を手渡した。
「分かりました。じゃあ、急ぐので」
駆け足するような手足の
「お嬢さん、ご親切にありがとうございます。
芽生に深々と頭を下げ、運転手は安心しながら車に戻った。
(二つ返事で引き受けたけど、富沢君って、何組?)
三ツ星中学校は、各学年8クラスずつ有る。
芽生のクラスである3年D組には、裕貴はいない。
他の7クラスを回っていると、遅刻確定になる。
高校受験を控えている芽生は、帰宅部という事も有り、
幸い、書類の入った茶封筒に封がしてない事に気付いた芽生。
(封してないんだから、中の書類、見て確かめよう! クラスだけ見るのは、この
少しの罪意識と、早く済ませて教室に入りたい気持ちで、芽生は、茶封筒から書類を出した。
中に入っていたのは、芽生は提出済みの家族構成など情報が書かれた書類だった。
(富沢君は、A組なんだ……)
既に他の生徒達は教室内に入っていて、この時間帯に階段を上っているのは芽生だけだった。
そんな状況下、その紙に書かれた内容が気になり、つい下の部分まで視線を動かした。
(富沢君のお父さんって、噂で聞いてたけど、富沢グループの社長さん! ベンツ送迎が出来るわけだ! お母さんは、専業主婦? あれっ、
ほんの好奇心から知ってしまった裕貴の重大な秘密により、自身の生活まで180度変わろうとは、その時はまだ想像すらしていなかった芽生。
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