閑話 はじまりの街

 はじまりの街、そこはまだ街と言うにはちっぽけな雑然とした街であった。


「しっかし、掘っ立て小屋みたいな露天ばっかりだな」

いわゆる、剣と魔法の世界で想像されるようなレンガ造りの中世の街並みはなく、木材と布で作ったテントのような小屋でプレイヤー達がバザーを開いていた。

まともな建物と言えば、探索者シーカーギルドだけだ。

「クラフト系のゲームだからってホントに何にもないのはどうかと思うよ。ここいらの小屋もプレイヤーの自作だろ」

「その上、木材も布も足りてないからなぁ、布は蜘蛛を倒せば稀にドロップするけど、今のとこ木材は森まで行って木を切るしかないらしい」

「あー、それで初期装備が斧の戦士系が勝ち組扱いだったのか」

「しかし、森は遠いし、斧の耐久値も減るしであんまり儲けは無いようだぞ」

耐久値が減った場合、鍛冶屋で修復してもらう必要がある。

そして、鍛冶屋の数も人数に対して数えるほどしか無い。

はじまりの街とは言うものの、どちらかと言えばはじまってさえいない街では無いだろうか。


「ところで、このイベントどう思う?」

探索者シーカーギルドに貼られた、運営イベントの案内だ。


『花見イベント 桜日和 開催決定』


実にオンラインゲームっぽい謳い文句のイベントだ。

ベータプレイヤー応援キャンペーンともあるが、はじまりの街のこの惨状でなんの応援だろうか。

「花見って、この街には桜どころか街路樹もないだろうに」

「だよなー、運営もなn……」


―― プレーヤーによる初めての建国が確認されました。

  以降、特定の条件下において建国を行うことができます。


「はぁ! 建国?」

突然のワールドアナウンスだ。

おそらく、プレイヤー全員に通知されたのだろう。

あたりが騒然とする。


「プレイヤーによる建国? だれだよ、攻略クランじゃないよな」

「情報クランの連中なら知ってるかな」

「特定の条件ってなんだよ」

国どころか村でさえも怪しいのに建国なんて爆弾を放り込むとは。


「建国ねぇ、俺らも建国するか?」

「いやいや、はじまりの街ですらこの有様だぞ、建国って言うからにはそれなりの建物っていうか、ちゃんとした街ぐらいいるだろ」

「だよなー、木材も何もないもんな。どこに建国されたんだろ、ここから移住するのもよいんじゃね?」

「それもありか、じゃぁ、まだ見ぬ国に旅立つとするか」


 人知れず行われてしまった建国宣言は、はじまりの街に集うベータプレイヤーに様々な波紋を呼ぶのであった。

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