第八話 理由の住む丘 final

「ふざけてるの。ふたりで何をしてたのよ!!」


「何もしてません。大地震があったから支えてもらっていただけですよ」


 アリア王女は、いやらしく笑いながら、俺に抱かれているカノン王女をじっと舐めるように見つめた。


「へえ、殿方に支えてもらうと言うのは抱かれて、男の身体の中で寝ることを言うのね」


「いや、亀裂に飲み込まれたけども、カノン王女が空飛ぶ魔法で助けてくれたんだ」


 嫉妬で我を忘れていたようだが、魔法と聞いてハッと真顔になった。


「空飛ぶ魔法……!? そう言えば……、カノン。あなたその能力ちからは?」


 リミッター解除までしているカノン王女は、凄まじい魔力を身体中に溢れさせていた。ここまで魔法力が強ければ、魔力がなくても気づくだろう。


 アリア王女の能力がどれくらいあるのか分からないが、仮にも魔法学園に通ってるんだ。気づかないわけがない。


わたしの能力ですが、それがどうかしましたか?」


「どうかしたかって、あなた魔法の力なんてなかったはずじゃ……!?」


「だって、そうでも言わないと、政略結婚の道具にさせられてしまいますから……」


「あなた、何を言ってるのよ。じゃあ、さっきの隕石は?」


「メテオスウォームですか?」


「あんな、……魔法、……神話の時代の魔法のはず……」


わたしは古代魔法も使えますよ」


「なぜ、……古代魔法なんて封印されているはずですのに……おかしいですわ」


「気味が悪い……ですか?」


「ありえない、……ありえないですわ……神話の時代の魔法を使える魔法使いなんて……、いるわけがない」


 カノン王女とアリア王女が言い争う中、ゴゴゴと言う音が近づいてきた。


「そうか、あれくらいで魔王が死ぬわけないですよね」


 カノン王女は、じっと空を向き直った。アリア王女は、そのあまりにも強い魔法力に怯えた。


「な、あなた、その力……本当にカノンですの……人が使える……魔法じゃない……ですわ」


 魔法学園で二年も過ごしたアリア王女だから、知っているだろう。古代魔法は、禁忌に触れる魔法なのだ。神話の話では、魔王を倒した後、誰にも触れないように王国の地下深くに封印されたと書かれていた。


「魔王を倒すには、神話の時代の魔法を使うしかありません。それでも……やはり勇者がいないと倒せない……のですね」


「はははっ、カノン王女。凄まじい能力だった。流石にわしも死ぬかと思ったよ」


 嬉しそうに魔王が空から顔を出して笑った。


「魔王って、何よ。あれは? わたくしは聞いてませんわよ」


 アリア王女は、後退りする。魔王の姿がかなり近くまで近づいて来ていた。


「そんな、魔王なんているはずが。あれは神話の話よ……。ありえないですわ。誰か、……誰か……助けくださいませんか」


 慌てて逃げるアリア王女の身体に何本かの氷の矢が突き刺さった。いつの間に飛ばされたのか。


「ギャアアアアっ!!」


 血飛沫ちしぶきをあげて、目の前から崩れていく。身体のバランスを失って、そのまま壊れた人形のように顔から落ちた。


「お姉様!!!!」


 俺はすぐに近づいた。顔から打ったのか、顔の形が無惨に崩れていた。慌てて首の鼓動を確かめる。鼓動をしていない。ダメだ、死んでいる。


「よくも……、よくもお姉様を!!」


 カノン王女の身体が眩いばかりに光を放たれた。


「カムイ、ごめんね」


 俺は数メートル飛ばされて倒れた。黒い魔法の壁が俺の周りを包み込む。


「その魔法は、私が解除しなければ数日はどんな攻撃も効きません。魔王が数日も待つことはないでしょう。カムイ、あなただけでも生きて……」


「カノン王女! 俺も戦うよ。女の子の君が戦って俺が守られてるなんて、おかしい。ここから出してくれ」


「ありがとう。その気持ちだけで充分……」


 カノン王女は、空を飛ぶ。魔王から放たれる氷の矢。カノン王女の目の前に来ると勝手に崩壊していく。カノン王女からも、光の矢が何本も形作られ、魔王に放たれる。


 何度も攻撃しては回避し、またも攻撃する。


「カノン王女、それだけの能力があるのに実に惜しい。わしと違って人であるお前は疲れていくのだ。もう、わしを倒す力は残ってはおらんだろう」


 ダメだ。魔王には、魔法が効かない。カノン王女は、この戦いに勝てない……。


「馬鹿にしないでください!」


 カノン王女は、大天使ミカエルを召喚した。天使を召喚するなんて聞いたことがない。ミカエルは魔王に剣で突き刺す。何本もの神のいかずちを魔王に落とした。


「だから、わしには魔法で呼び出されたものは効かないって言ってるだろ!」


「勝てないと分かってても、引くことなんてできません!」


 なんとかならないか。俺は魔力も平凡で、力もない。でも……、それでもなんとか助けたい。


「最後に教えておいてやろう。お前が古代魔法を丘で使わなければ、後3年は蘇るのにかかったのだ。ここまで覚醒できたのはお前のおかげだ」


「やはり、そうですよね。魔法の力を使うことによって、あなたの覚醒を早めさせてしまった」


「こんなこと知っても、もう遅いがな」


 魔王がカノン王女に向かって、魔法を唱えた。何百本ものマジックミサイルが放たれる。空中で、寸前のところで避けた。


「カノン王女、危ない!」


 反対の方向から、魔王の手がカノン王女を捕らえた。手なんて今までなかったのに……。


「これでお前も終わりだな。ちょこまかと逃げやがって」


「ぐっ、い、痛い……」


「このまま殺すのも良いのだが、それよりも……絶望を感じさせた方が楽しいよな」


 魔王が魔法の言葉を唱えていた。不気味な顔が嬉しそうに歪む。


「これが本物のメテオスウォームだ!」


 巨大な隕石が城に向かってに落ちてくる。いや、これは隕石なんてレベルじゃない。星だ。これが落ちたら、ハインリッヒ王国だけじゃない、全ての王国、いや人々は全て……、滅ぶ。


 目の前に大きな星が一つ。ザイン公国に向かって落下してくる。もう、助からない。


「カムイ……あなただけでも生きて………く……だ……さ……」


 そのまま、声が途切れた。魔法の力が弱くなっていく。これはカノン王女の死ぬことを意味していた。


 何故だか分からなかった。俺の心の中にもの凄い苦しさが襲ってきた。カノン王女と会ったのは数日前だ。


 しかし、今の想いはそんなものじゃなかった。この想いは人が数年愛したレベルじゃない。何百年もずっと愛していた想い……、そんな強い想いだった。気がつくと俺の身体全体が光を帯びていた。これは……なんだ。


 俺はカノン王女をただ、心の底から助けたいと祈った。


 目を思い切り瞑る。世界が滅んだって良い。俺の命なんかどうでもいいから……、お願い……。カノン王女をどうか、助けてください。一回でいいから、奇跡を起こして……ください。



◇◇◇



わたくし、婚約者がいるのにどうしましょう。そうだわ、あなたをわたくしの二番目の夫にしてさしあげるわよ」


 突然、轟音ごうおんが止んだ。代わりに少し前に聞いたアリア王女の声が聞こえた。これはどう言うことだ……。


「時をかける魔法ですか……。わたしも初めて見ました。カムイ、助けてくれてありがとう」


 隣に立つカノン王女は俺を見て、そっと微笑んだ。俺は時間を飛んだのか。




―――――――



ここで一章の最終ポイントまで来ました。

次回から、カノン王妃の視点になります。


みなさん、よろしくお願いします。


良かったと思ってくれたらフォロー、星よろしくお願いします。


読んでいただきありがとうございました。

 

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