第三話 街の人々の手助け、そしてアリア王女との出会い。

 エンシェントドラゴンに助けられた日から、数ヶ月かけて書庫にあった沢山の文献を読み漁ったが、エンシェントドラゴンを召喚するほどの魔導士の記述はどこにも書かれていなかった。


 今から千年も昔の神話の時代までさかのぼれば、魔王と戦った魔導士がエンシェントドラゴンを召喚した、と言う記述があるが、こう言う記述は誇張されていたり、そもそもお話の中だけの可能性の方が高い。


 エンシェントドラゴンを遠隔地から召喚して使役出来るような魔導士がいるなんて、全く現実味がなかった。


「どうしたんだい。暗い顔をして……」


「白龍を召喚した魔導士のことなんだけれど、誰がとなると全く思い浮かばなくてな」


「王国の魔導士様が辺境のザイン公国の現状を憂いて、きっと助けてくれたんだよ」


「警備兵すら出さないのに?」


「そこは王国の事情があるんだよ。カムイ様、そんなこと考えても仕方がないですって。それよりも、今はお城のことですよ」


「手伝ってくれるか?」


「当たり前だよ。みんな、カムイ様の頼みなら断れないよ」


「本当、みんなありがとうな」


「何年、カムイ様を支えてきたと思ってるんだよ」


 街の人々はお互いの顔を見て頷いた。いつも、そう言ってくれるなら、その言葉を信じたくもなるのだが……。


「頼んでもいつもは腰が痛いだの、足が痛いだの言って来てくれなくないか」


「あら、そんなこと言ったっけ」


「そうだよ、俺たちがそんな理由で断るわけねえだろ」


「確か……、リュークはこの前の訓練の時は、ばあちゃんが危篤とか言ってなかったか?」


「それそれ、……大変だったよ」


「お前のばあちゃん、二年前に死んでなかったか?」


「えとさ……、細かいこと気にすんなよ」


 目の前のリュークが笑いながら俺の背中を叩いた。全く揃いも揃って現金なやつだ。


 まあ、久しぶりに笑顔を見れたから、俺も嬉しいけどな。相手が地雷姫でなければ、もっと良かったんだけれども。それでも……。


 いつ襲ってくるか分からない魔物達の恐怖や肉親を殺され、やり切れない思いなど、この国に漂う負の感情をどこかで断ち切りたい。


 そんな人たちにとって、この婚約は唯一の救いなんだ。その想いに水を差すことだけはしたくはなかった。


 街の人たちは総出で来てくれ、各部屋の掃除から、放置されていた大食堂の整備や飾り付け、足りない食器の用意などをしてくれた。


「料理は俺たちに任せてくれよ」


「悪いな。この埋め合わせは、きっとするからさ」


 公国の料理人だけでは足りないため、街のコックが総出で、食事の準備をしてくれ配膳するだけになった。


「本当にみんなありがとう」


「気にするなって、それより王女の心をものにしろよ」


「俺は正直言うと断られたい」


「ははははっ、凄い分かるわ。俺なら絶対断るけどな。さすが王子様だ」


「ふざけんなよ、お前たちのためだろうが……。」


 俺と料理人は肩を叩きあう。お互いに死地を乗り越えたんだ。お互い何も言わなくても言いたいことはわかる。そうだ、結婚相手が気に入らないとか言っている場合ではないんだ。


 俺は人のいなくなった部屋を見渡す。みんなありがとう。大広間、大食堂、そして各客室。大公国の一行からすれば、地味と言えるかもしれない。それでも、失礼にあたらないくらいにはなっていた。


「アリア王女一行は、城内に入ったそうでございますな」


「そのようだな。別に来なくてもいいんだけどな」


「これ、坊ちゃん!!」


 本音が出てしまったようだ。俺たちは、到着するのを待った。


「まあ、なるようになる、ですな」


「それもそうだ」


 俺はクリスの言葉に頷いた。それから暫く待つ。


「アリア王女一行が到着したとのことですな」


 門番の一人が走って俺に伝えてくる。みんなの顔に緊張が走った。俺とクリスは出迎えるために、扉を開けて王女が乗る馬車の前に立った。


「こちらが、ザイン公国の若君でございますな」


 クリスと俺が頭を下げる中、馬車から出て来た女性が俺をじっと見る。長い金色の髪に睨んだような釣り上がった瞳。


「まあ、田舎だから仕方ないわね」


 吐き捨てるように言う。この女がアリア王女なのか。噂以上の地雷姫かもしれないな。


「それにしても冴えない王子だわ。少し顔がいいだけで、私の好みではないわ」


 お前は鏡を見たことがあるのかよ。俺は心の中で呟いた。隣で頭を下げているクリスも少し驚いていたが、すぐに真顔になった。しばらくすると馬車から初老の男が降りてくる。


「わたしが執事のルクセンブル リッツ ジムル。こちからが有名なアリア王妃でございますの」


 どう言う意味で有名なのか言ってくれよ、俺は心の中で突っ込んだ。ジムルが紹介するとアリア王妃はぐるっと城を見渡す。


「本当に見る価値もないわね。カノンもそう思わない?」


 カノンと言う呼び声とともに女性が、ゆっくりとした足取りで馬車から降りてくる。その少し潤んだ大きな瞳に俺は釘付けになった。姉と似てるのは髪の毛の色くらいだ。あどけなさを残す顔立ちは、まるで神の奇跡とでも言っていいほどの造形だ。馬車から降りる仕草ですら、絵になる。あまりの美しさに見惚れているとカノン王女は俺の前でゆっくりと頭を下げた。


「姉が失礼なことを言って、申し訳ございませんでした」


 性格も姉とは真逆で、心の優しいお姫様だった。


「いえ、いいんですよ。事実ですから。そんなことより頭を上げてください」


 ゆっくりと頭を上げる姿も美しい。


「なぜ、あなたが謝る必要があるのよ。そもそも、わたくしを、こんな辺境の地の田舎王子と結婚させようなんて、お父様は何を考えてるのかしら」


 腕を組んで不満そうにアリア王女が俺の方を向いた。本当に最悪だ。本心から、この婚約を破棄したかった。


「あなたのところに手紙を出したのは、お父様なのよ。私の知るところではないわ」


 姉の言動に思わずカノン王女が頭を下げた。


「えと、ごめんなさいです。姉は悪い人ではないのですが……」


「そんなフォローはいらないわよ」


「大丈夫です。それよりも、とりあえず広間にどうぞ。お話しないと、始まりませんし……」


「わたしは、このまま帰っても全く構わないんですからね。そもそもこんないつ滅んでもおかしくない公国なんて、誰が来たがるのよ。この前のあの時は奇跡的に……」


「ちょっと、何を言いだすのですか」


 カノン王女は、慌てて言葉を静止する。それにしても、最低だ。


「とりあえず、ここで立ち話もなんですから、城にお入りくださいな」


 執事のクリスがもてなす準備はできておりますから、と客人用の大扉を開けた。


「ねえ、お姉様入りましょう。夜帰るのは危険ですし……ね」


「まあ、話し合いなんて、結果見えてるけども、何を食べさせてくれるのか、くらいは興味あるわ」


「ちょっと、お姉様!!」


 カノン王女は、もう一度大きく頭を下げた。


「本当に、本当に、ごめんなさい」


「いや、いいよ。慣れてるしさ」


「あなたが謝る必要なんて、全くないわよ。事実なんだから……」


 姉のアリア王女はそれだけ言うとクリスに案内され、城に入ってしまった。


「本当に、ごめんなさい。アリア王女の言ったこと気にしないでください。すみませんでした」


 何度も謝られる。俺はカノン王女に気にしてないから、酷いことじゃないから、と必死にフォローする。姉と違って、本当にいい娘だ。できればこっちが良かったな。


 それにしても、カノン王女に俺はどこかで会ったような気がしてならないんだよな。



――――


 今後のスケジュールです。


 平日、8時ごろ。


 土日、朝と夜に一話ずつ、


 この予定で行きたいと思いますので、応援よろしくお願いします。

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