46.大量絶滅計画

 メアは休憩を挟みながらも、1日ほど歩いた。

 道中の森にはモンスターがいたが、聖剣があったので、苦労せずに倒すことができた。


 モンスターの種類もこちらとほとんど、変わりがないようだ。

 それにしても、こちらの世界でもモンスターがいるということは、魔族がモンスターを放っているのではないというのか。


 もしや、モンスター自体、動物のように自然に生まれ育っているとでもいうのだろうか?


「この華やかさは……王都だ……!」


 やっとの思いで、王都へと辿り着いた。

 実際に王都かは不明だが、メアの元の世界の王都と非常に雰囲気が似ていた。


 メアはそのまま王宮らしき建物へと向かった。

 魔王がいたら、そのまま倒してやろうとも思った。


 メアは門番に話しかける。


「魔王様いますか?」


 口に出した後、「しまった」と思ったメア。

 いくらなんでも、不審過ぎる。


 このような発言をしてしまったのは、おそらく、疲れていたせいだろう。


「ああ! 魔王様ならいるぞ! それにしても、見ない顔だな」


 なんと、ここに魔王がいるというのだ。

 これは倒すしかない。

 どちらにせよ、今のままでは元の世界へと戻れないのだから。


「別な街から来ました」

「なるほどな。で、なんの用だ?」

「え?」

「魔王様になんの用があるんだ?」


 メアが困っていると、王宮の中から、人間……いや、魔族が出てきた。

 この魔族が魔王なのだろうか……?


 黒髪ショートで、人間に比べ、低い声だ。

 体格に関しては、露出度が低い服を着ているので分からないが、身長は高かった。


 やはり、一部のエルフやドワーフの特徴を持った人間だ。

 人間ではない、なにかのように感じる。


「どうした? かわいこちゃん。迷子かな?」


 門番は魔王の為に道をあけた。


「あ、あなたは……?」


 すると、その魔族は「フッ」と笑った。


「おかしなことを言う子だな。俺は魔族の王、魔王だぞ?」

(!?)


 メアの考察は当たっていた。

 ここに住んでいる人達は人間ではなく魔族で、この人が魔王。


 やはり、ここで倒すしかないのか……?

 しかし……。


(本当に悪い人なの……?)


 悪い人には見えない。

 そもそも、魔族がこちらの世界にモンスターを放っていないのならば、別に倒す必要はないのでは?


 というか、むしろ元の世界に帰る方法を一緒に探して貰った方がいいのでは……?


「魔王様、2人きりで話したいことがあります」

「ほう、まさか俺に惚れたのか? 駄目だぞ、そういうのは」


 そうではない。

 そもそも、なぜ魔族と恋愛をしなくてはならないのだ。


「違います。とても大切な話です」


 メアは魔王の目を見た。


「訳ありのようだな。入れ」


 メアは2人きりの個室へと案内された。


(正直に話そう)


 悪い人でないのならば、倒す必要はない。

 元の世界に戻る為に、協力して貰おう。


「魔王様、実は私……」


 メアは話した。

 自分が別な世界から来たこと、帰れなくなってしまったこと、魔族が人間の敵なのかということ、全てを話した。


「そうか、あっち側から来たのか」

「え?」


 やけにあっさりしていた。


「まずは1つ、先に言っておこう。俺達魔族は君達の敵ではない。モンスターをわざわざ君達の元に放ってなどいない」

「……良かった」


 メアは安心して、肩の力が抜けた。

 すると、魔王がニコリと笑った。


「なんだ、俺達が敵かという、心配をしていたのか。大丈夫だよ、今はね」

「え?」


 バチチチチッ!


「がっ……!」


 なんだろうか?

 これは……電気属性の攻撃を放つ武器で攻撃されたのだ。


(魔法を放つ武器……?)


 魔王の手に握られていた武器は、かなり小型であった。


「どうかな? 痛い?」



「はっ!」


 メアは、気を失っていたようだ。

 気が付いたら、縄で体を縛られていた。


 やっぱり、敵なのか……。

 だが、もう遅い。


 せめて【剣聖】が発動していれば、あんな攻撃なんともなかったというのに……。


「気が付いた? 大丈夫?」

「やっぱり……やっぱり敵だったのか!」

「いやいや、今の所は味方だよ。ただ、途中で反撃されても困るからね」

「反撃されるようなことをするつもりだったのか!」

「違う違う! お話だよお話! ただ、ちょっと過激だからね!」


 魔王は得意げに話をし始める。


「まず言っておこう。俺は君達の世界のことを、ほとんど把握している。驚いた?」

「えっ!?」

「いいリアクションだね。と言っても、それを知っている人は、ほんの一握りだけどね」


 だから、この世界に魔法やスキルという概念自体はあったものの、空想上の存在だったのか。


「魔法……スキル……そういうのに頼って生きてるんだよね、君達は」


 魔王は、ナイフをメアに向けながらそう言った。

 殺されたくなければ、話せということらしい。


「そうだ」


「だよねだよね! はぁー、だから駄目なんだよ」


「だって、昔からそれを使って生きてきた。私達には必要な存在だ」


「なるほどね、ま、でもさ、それじゃそれに頼り切りだよね。それじゃあ、技術の更なる発展は見込めないよ。皆、便利なものがあると、そっちに頼っちゃうからね」


「それってどういうこと……?」


「君達の世界より、こっちの技術が発達している理由がそれってこと。魔法もスキルもないからね。とは言っても、建物とか基本的な設備とかはほとんど変わらないんだけどね」


 だが、さっきの小型の武器など、確かに技術はメアの世界より発達していそうだ。

 それにメアの世界を知られているということが本当であれば、メアの世界の技術も当然吸収しているハズだ。


 実に恐ろしかった。


「そこで、俺は考えたんだ。もっと技術が発展する方法をね! でもそれをするには、かなり過激なことをする必要があるんだ。君達の手も借りてね」


「過激なこと……? まさか、誰かを殺せとでも言うのか!?」


「“誰か”……か、違う違う! もっと過激なこと!」


 好奇心旺盛に魔王は言った。

 この純粋さが余計に恐ろしい。


「ここから、かなり遠い所に水もたっぷり、自然もたっぷりのとっておきの場所があってね。ちょっとそこに生息している生物を皆殺しにして欲しいんだ」


「遠い所って、もしや私達の世界!? 私達を殺して、私達の世界を乗っ取る気か!?」


「いやいや、俺が思い描いている計画は0から始める必要があるからね。知的生命体がいる所じゃ駄目駄目! 

それに、かなり遠いって本当に遠いよ? 100万光年くらいかな! って分からないか。まぁいいや」


 魔王は腕を広げて言う。


「そこに生息している、“恐ろしき竜”を大量絶滅させ、そこで完全に0から文明を始める! 魔法もスキルも、概念すらない文明を0からね! そして、誰も見たことのない技術を生み出す世界を誕生させる! それが俺の計画だ!」


 魔王は高らかに笑うのであった。

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