45.半年前、なにがあった?

☆メアside


 半年前のことだ。


 最強スキル【剣聖】……その本来の持ち主である、メア。

 メアはスキルを取り戻した後、その正義感から、一刻も早く魔王を討伐しに行きたいと言った。


 これは、メアが力を得てから、10日程経ってからのことであった。


「うむ。覚悟はできているのだな?」

「はい! 勿論です!」


 【剣聖】スキルが備わってから、メア自身も感じていた。

 負ける気がしない、と。

 それだけこのスキルは強力なスキルなのだろう。


「実は……正確には魔王の居場所は分かっていない。いや、そもそも魔族の存在自体、確認できていない」

「そ、それは本当ですか!?」


 国王は知っていると、メアは思っていた。

 ということは、魔族自体、今の段階では伝承のみの存在ということになるではないか。


「ああ。これは極秘事項だ。後継者であるメアには教えるが、くれぐれも他言無用で頼むぞ」

「承知いたしました」


 どうやら、この世界に、果てが存在するらしい。

 その壁を今までは破ることができなかったという。


 そして、その壁は今まで誰も突破できなかったらしい。

 それだけの力がなかったからだ。


 例えば、他国にも存在する、SRランク冒険者。

 突破しようとしたようだが、無理だったようだ。


 それもあり、この国のSRランク冒険者には壁の存在自体教えていないと、国王は言った。

 明らかに力が足りないという理由の他、内3人に関しては、あまり信頼もないからだという。


「国王様……私、やってみせます!」


 世界の果てまでは、それはそれは遠い。

 国王から、その地点が登録されている転移クリスタルを受け取り、その力で一気にその場所まで来たのだ。

 勿論、帰り用の転移クリスタルも持っている。

 これを無くしたら、おそらくメアは帰れないだろう。


「結界みたいな壁だ……」


 物理的な壁とは、少し違う感じだ。

 突破するのはかなり厳しいかもしれない。


「けど……やるしかない! 国王様から授かったこれを使って!!」


 メアは国王から授かった、聖剣を振るった。

 【剣聖】の力と聖剣の力が合わさり、それはもう凄まじい力を発揮した。


「はああああああああああああああああああああああ!!」


 凄まじい耐久性を持った壁であった。

 だが、ここで諦める訳にはいかないと、メアは全力を出した。


 そして、壁の一部が破壊された。


「うわっ!」


 勢いでそのままメアは壁の外に……。


 そこには、薄暗く、闇そのものと言っても過言では無い景色が……。


「あ、あれ?」


 広がってはいなかった。


「えーと……」


 広がっていたのは、極普通の街であった。

 王都程発展している訳ではないが、そこまで寂れてもいない。

 住み心地が良さそうな街であった。


 人間が沢山いる。

 遊んでいる子供も目に入った。


「ってあれ?」


 壁がなくなっている。

 向こうには道があるだけ……。

 来た時に来た道とも違う……。


 まるで、ワープして来たかのようだ。


「帰り道が、消えた……」


 そして、連鎖するように、最悪な出来事に直面した。


「あ、あれ?」


 メアは、王都への転移クリスタルを紛失してしまったようだ。

 いや、それだけではない。


 アイテムを入れた布袋がない。

 どこかで落としたのだろうか……。


「帰れない……」


 これは困った。

 思ったより平和そうな場所なのは良いが、帰れなくなってしまった。


 仕方がないので、情報収集をすることにした。

 本来であれば、内部が確認できたら、戻って報告するように言われていたメアであったが、帰れないのでどうしようもない。


 正直、メアは不安であった。

 このまま一生、ここに住むことになってしまうのではないのかと。


「なんだ、この違和感は……」


 住んでいるのは全員人間だと思っていた。

 だが、どう見てもエルフやドワーフの特徴を持った人間も沢山いるのだ。


(言い方は悪いが、あんなに体がゴツく、声が低い者は、エルフやドワーフにしか存在しないと思っていたのだが……これではまるで……)


 だが、エルフやドワーフの特徴である耳は人間と同じものなのだ。


 勿論、普通の人間もいたのだが、約半数は上記のような人間であった。

 どういうことだろうか?


(いや、そもそもここの人間は、種族が違うのでは?)


 そうだ、きっとこれが魔族なのだ。

 外見は人間のようだが、皆違う生物なのだろう。


 だが……皆普通に生活している。

 悪い人達には見えないのだ。


(これが魔族。害がある存在とは思えない)


 メアは魔族の子供から貰ったリンゴをかじる。


「美味しい」


 食べ物も似た感じだ。



 調査を続けるメアであったが、驚くべきことが分かった。


(魔族の世界には……魔法もスキルもない)


 そう、この世界には、魔法もスキルも存在しないのだ。

 しかもだ、メア自身のスキルも発動不可になっている。


 ここでは【剣聖】が発動できない。

 ゆえに、今のメアは鍛えただけの、ただの人間だ。


 しかし、スキルや魔法といった、その概念自体は存在する。

 だが、あくまで空想上の存在レベルであり、誰も本気でその存在を信じてはいないようであった。


(とりえあえず、この街を出よう)


 落とし物も見つからないので、ひとまず歩いて旅に出ようと考えた。

 基本的に元の世界と同じなので、お金についても問題なく使用できた。


 そこに関しても、本当に不思議であった。


(それにしても……)


 アイテム袋の他に、緊急用に衣服内部のポケットに、お金を仕込んでおいて良かった。

 そう考えるメアであった。

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