39.魔剣を持つことのリスク

☆コスモsaide


 少し前のことである。

 コスモはヨシムラから【スキルデザリング】を奪い取ると、走った。


(ヨシムラさんの言うことが本当なら……頼む!)


 そもそも、【剣聖】は別な人物に移っている。

 果たして効果があるのだろうか?

 コスモは走りながら、リングを装着した。

 すると、コスモの体に力がみなぎる。


 そう、【剣聖】を使っていた時と同じだ。


「凄い……この力!! 今ならなんでもできそうだ!!」


 やはり、強大な力というものは素晴らしい。

 今のコスモは、誰にも負ける気がしなかった。

 コスモはニヤリと笑うと、その力を使い、目的地へと急いだ。


「お帰り……私の力!!」


 実際にはコスモの力ではないのだが、ついついそう叫んでしまった。


「ん?」


 コスモは首に違和感があった。

 コスモが首を触ると、銀のチョーカーが装着されているのが確認できた。


「いつの間に……」


 と、次の瞬間、コスモの脳内に使用方法が流れ込む。

 どうやら、ヨシムラの仕業だったようだ。


「まぁ、取り外せるみたいだし、着けておこう」


 そして、目的地へと到着した。

 そう、廃闘技場だ。

 時間より少し早いが、まぁいいだろう。

 中から、人の気配を感じる。


 コスモが闘技場の中に入ろうと思った、その時であった。


『やぁ』


 脳内に声が響いた。

 この声は……。


「魔剣さん!?」


 もしや、【剣聖】の力が流れ込んだ影響で、復活できたのか?


「復活したの!?」

『完全復活とはいかないのが残念だが、現実世界でもこうして君に話しかけられるようになった。それに、力の一部も解放されたようだ』


 非常に心強い。

 確か、魔剣の力は回復だったハズ。

 なぜ魔剣なのに回復なのか? などという疑問はあるが、ユリが怪我をしていたとしても、これで安心だ。


 コスモの止まった心臓を動かした程だ。

 かなり期待できそうだ。

 こんなに優しい魔剣なのに、なぜ封印されたのだろうか?


「ユリになにかあったら、頼むね?」

『君が剣聖の力を取り戻したのは把握している。戦闘は君に任せる。代わりに回復は任せてくれ。後、念の為、絶対に“負けん”な、と念を押しておこう』

「? ありがとう! けど、戦闘に関しての心配はいらないよ!」

『ああ。それは私も分かっている』


 コスモは廃闘技場の中へと入る。

 ユリが掴まっているが、下手に刺激してはまずい。

 仕掛けるタイミングが重要だ。

 コスモはムカついたが、グッと堪えた。


「なんで来たんですか!!!!!!!!!!!!!!」


 ユリが叫んだ。

 コスモを心配してくれているのだろう。

 だが、その心配は今のコスモには、無用だ。


『“ナン”出来た……? 確か、あの子は料理が得意だったね。しかし、まさか身動きが取れないというのに、そんなことが可能だとは……いや、ですかってことは疑問形か……』


 魔剣が意味不明なことを脳内で言っているが、それ所ではない。


『それはそうと、ちゃんと全財産は持ったのか? ここへ来る最中に話してくれた情報だと、全財産がないと駄目らしいじゃないか』


 確かに国王から、渡された財産は、家にある。

 だがそんなもの、用意している訳がない。

 この勝負、必ず勝てるからだ。


「はっ! 馬鹿が来やがった!! はははははは!!」


『はっはははははは! 馬鹿→バンカー→banker (銀行家)

確か、コスモは国王様から財産を貰ったと聞いている。

向こうもそれを知っていて、こう繋げてきたとは……敵ながら流石だ。

誰かを傷付けるより、楽しませる方向で頑張ってみたらどうだ? と言いたい』


「いや……なにふざけてるの?」


 こんな時に、この魔剣はなにをふざけているのだろうか?

 確かに、長年封印されていてこうして、復活できたのだからテンションが上がるのは分かる。

 だが、こんな時に脳内でここまで騒がれると、温厚なコスモでさえ、イラッとしてしまう。


「あん? 誰に向って言ってんだ?」


「あ、いや、あなた達に言った訳じゃないんだけど……」


 魔剣の声はコスモにしか、聞こえない。

 向こうとしては、自分が言われたように感じたのだろう。


「じゃあ誰と喋ってんだぁ? もしや、恐怖のあまり、幻覚でも見てるのか? はははは!! ボケが!! ついに狂っちまったか!! 自分がここに何しに来たかもまともに分かって無さそうだなぁ!!」


 幻覚ではない……と思いたい。


(あ、だからか、だからユリがあんな心配そうな表情をしてるのね)


 ここはビシッと決めて安心させてあげよう。

 コスモは得意げに言い放つ。


「なにをしに来たかって……? そうだね……明日、王都に行くからね。ユリを誘いに来たんだよ」

「王都だと……?」


 そう、100%助けられる自信があるので、あえて誘いに来たとコスモは言ったのだ。

 これでユリもコスモに余裕があるということが、分かるだろう。


「そうだよ。魔王を倒して、一緒に勇者になる為にね。だから……ユリは返してもらうよ」


 そう、ユリはコスモのパーティメンバーだ。

 他のパーティには渡さない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る