38.超レア&強力スキル【剣聖】を手に入れた少女、実家から追放された少女を誘い、勇者を目指します!

 その人物は立ち上がる。

 そう、その人物とは……。


「コスモちゃん♪ 久しぶりん♪」


 糸目に眼鏡、そして白衣。


「ヨシムラさん……」


 ヨシムラであった。

 100万光年離れた、地球という所からきた人間らしい。

 もっとも、100万光年がどのくらい先か、コスモは分からないが……。


 普段はどこにあるか分からない、自身のアトリエにいるようだ。


「お久しぶりです……」

「ちょっとちょっとー!! 暗くないかな? かな?」


 ユリのシールドリングもヨシムラがくれたものだ。

 だが、それは現在壊れてしまっている。

 あれが壊れてさえなければ……。


(壊したのは私だ……)

「シカト? ひっどおおおおおおおおおいん♪」


 ヨシムラのテンションについていけないコスモ。


(別にどうでもいいけどね、もう……)


「おええええええええええええええええ!!」


 汚い。

 ヨシムラがいきなり、吐きそうな声を発した。

 実際に汚く、口の中からなんか出てきた。

 指輪のようなものだ。

 ヨシムラはそれをタオルで拭いて、コスモに渡す。


「シカトしてもいいけどさ、これユリちゃんに渡しておいてくれないかな?」

「これは……?」


 紫色のシンプルな指輪であった。

 ユリへのプレゼントということだろう。

 だが、ユリはもう……。


「これは名付けて! 【スキルデザリング】!! 私が発明したアクセサリーだよん♪ ドヤ!! 1つしか作れなかったんだからねん♪ 大切してよん?」

「ごめん……ユリはもう……」

「喧嘩……しちゃったのん? 意外だねぇ……」

「そんな感じです……」

「ふーん? まっ、すぐ仲直りできると思うよん♪ 君達ならねん♪」


 駄目だ。

 コスモの目から涙がこぼれ落ちた。


「ちょっとー!! 私が泣かせたみたいじゃん♪ だったらそのスキルデザリング、お洒落にはなると思うから、しばらくコスモちゃんハメていたらん? コスモちゃんが付けても機能的には意味ないけどん♪」


 お洒落……今のコスモにそんな余裕はない。


「なんで、私だと意味ないんですか?」

「だって、コスモちゃん【剣聖】でしょん? 意味ないっしょ!」

「え?」


 引きこもってばかりだからだろうか。

 どうやら、コスモが元剣聖となってしまったことを知らないようであった。


「これはスキルを持たないユリちゃんが戦えるように、開発したアクセサリーだからねん♪ “デザリング”って言葉は知ってるかな? 知らないよね♪ 

えーとね、どう言えばいいかな? 【剣聖】スキルから発せられている“電波”……これも分からないよねん♪

まぁ、エネルギーみたいなものをキャッチして、そのエネルギーを装備した人に適用しちゃうアクセサリーよん♪」


 長くて分かりにくい説明であった。


「……一言でお願いします」


「それを付けると、付けた人も【剣聖】のスキルが使えるようになるよん♪」


 コスモはスキルデザリングをヨシムラから奪い取ると、涙を拭いて、走った。


「って!! ひっっどおおおおおおおおおおおおおいん♪

仲直りしたら、ちゃんとユリちゃんに渡してよね!! 乱暴は駄目よん♪」



☆ユリside


「はぁはぁ……」


 誰も来ないような廃闘技場で、ユリは手足を縛られ、吊るされている。

 何度か剣での攻撃を受け、ところどころ、服が破れている。


「ヒッヒッヒ! 愛しの元剣聖さんは来てくれるかなぁ?」


 敵のリーダー格の人物は、ユリを見てニヤニヤしている。


「コスモさん……来ないでください……」


「あ? だったらお前が死ぬだけだぞぉ?

ま、どっちでもいいけどな! 

金は手に入らないが、奴に絶望を与えられるからなぁ!!

ちなみにここにいるあたいと、その仲間は全員、人肉が好きだからなぁ!!

どっちにしろ、今日は美味しくいただけるぅ!!」


 ユリは思った。

 自分は犠牲になっても構わない。

 このまま死んでも構わない。

 だから……。


(お願いです。コスモさん、絶対に来ないでください。

そして、直接言えなかったから、心の中で言わせてください。

人間としても、恋愛対象としても……あなたが大好きでした)


 ユリは口角を上げながら、涙を流した。


「なにニヤけてんだ? もっと恐怖に震えろぉ!! ムカつくんだよ!!」


 リーダー格の人物は、ユリの体を殴った。

 勝ち誇ったユリの顔が、ムカついたのだろう。


「あーあ、それにしても、あいつ本当に来ねぇな。あの時の屈辱を直接返せないのが残念だぁ!!」


 その時。


「あん?」


「そ、そんな……!」


 廃闘技場へと、堂々と入場して来た人物がいた。


「なんで来たんですか!!!!!!!!!!!!!!」


 ユリは叫んだ。

 ユリが叫んだのがうるさかったのか、ユリの口の中に、敵の下っ端から布を突っ込まれた。


「こひゅもはん! にげれくらひゃい!」


 それでも精一杯叫んだ。


 ああ、おそらくコスモは恐怖でどうにかしているのだろう……。


(コスモさん……逃げてください)


 そう、コスモは独り言をブツブツと喋りながら、廃闘技場へと入って来た。

 おそらく、恐怖のあまり、幻覚を見ているのだろう。

 そうまでして、助けに来てくれたことは、正直嬉しい。

 だが、このままでは2人共殺されてしまうだけだ。


(来ちゃ駄目です!!!!)


 ユリから、先程の勝ち誇ったような笑みは消えた。

 今は、絶望の表情を浮かべている。


 もう、終わりだ……。


「はっ! 馬鹿が来やがった!! はははははは!!」


「いや……なにふざけてるの?」


 コスモが言った。


「あん? 誰に向って言ってんだ?」


「あ、いや、あなた達に言った訳じゃないんだけど……」


「じゃあ誰と喋ってんだぁ? もしや、恐怖のあまり、幻覚でも見てるのか? はははは!! ボケが!! ついに狂っちまったか!! 自分がここに何しに来たかもまともに分かって無さそうだなぁ!!」


「なにをしに来たかって……? そうだね……」


 コスモが得意げな表情で言う。


「明日、王都に行くからね。ユリを誘いに来たんだよ」


「王都だと……?」


「そうだよ。魔王を倒して、一緒に勇者になる為にね。だから……ユリは返してもらうよ」

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