第2章

17.剣聖の噂が広まったようだな

☆クロスside


(なにが、なにが剣聖よ!!)


 あの戦いから数日……王都内においても、クロスが負けたという噂は広まっていた。

 それについて、クロスはイラついていた。


(私が……私がなんで負けるのよ!)


 確かに最初は手加減した。

 いくら【剣聖】持ちとはいえ、どのくらいの強さなのかは分からなかった。

 そこで殺してしまっては、流石に申し訳ないと思ったのだ。

 だが、今思えば……。


(さっさと殺せば良かったわ……!)


 そう、屈辱だった。

 最初は本気を出していなかったクロスであったが、最終的に全力を出してしまった。

 特にスキルに関しては、使用することを全く考えていなかった。


 クロスの持つスキル【マジックタンク】。

 簡単に言うと、人間の身で魔法が使えるようになるスキルだ。

 厳密に言うと、人間の身で体内にて魔力を生成できるスキルだ。

 これもかなりのレアスキルであった。

 これは、普段の戦闘ではなるべく使わないようにしていた。

 なのに、使ってしまった。

 コスモの強さが規格外だったのだ。


(ムカつく……!)


 今のクロスは、コスモに対して殺意を抱いている。

 自分は剣士最強だと思っていた。

 それなのにだ、負けた。

 あんなに観客がいたというのに……。

 これにより、少なくとも、「クロスは剣士最強ではない」というイメージを多くの人物に植え付けたことになってしまった。


(大体、規格外過ぎるのよ! なんなのあいつ! 絶対普通じゃないわ!)


 コスモって誰?


 はじめてコスモの名を聞いた際、こんなイメージだったのだ。

 そして、【剣聖】を取得した人物だと知り、クロスは考えた。

 早めに多くの人物に、コスモよりクロスの方が強いということを分からせようと……。

 だが、結果は真逆になってしまった。


(私はいずれ、剣士最強どころか、全生物最強になるのよ? こんな所で負けてられないわ! 絶対にいつか、ぶっ殺す!)


 クロスは決めた。

 真正面から、コスモをぶっ殺そうと。

 ただ、今のままじゃ、それは叶わない。

 コスモを研究、そして……失ってしまった剣の代わりの武器が必要である。


「やっほ☆」

「何?」


 後ろから、とある人物にクロスは話しかけられた。


「もしかして、私を笑いに来たの?」

「違うよ! ただ、落ち込んでるなーって!」

「それは落ち込むわよ。王都の中でも私が負けたっていう噂は広まっているんだから」

「落ち込むこと、あるよね……。そんな時は! 私こと、SRランク冒険者アイドル! アオリンのライブを見るといいわ! 明日、王都の闘技場でライブやるから!」


 SRランク冒険者、それは4人しか存在しない、勇者に近いと言われる存在だ。

 そして、この人物がその4人の内の1人、「アオリ」だ。

 なんでも、アイドル活動というものをやっているらしい。

 そして、ファンには「アオリン」とも呼ばれている。


 綺麗な青髪のロングヘアが特徴的だ。


「ライブ代、取るんでしょ?」

「まぁ、これもお仕事だからね!」


 アオリは、SRランク冒険者であるにも関わらず、依頼よりもアイドル活動を優先している。

 それでも、SRランク冒険者としての実力は本物で、基本的にソロでこなしている。

 SR冒険者全員に言えることだが、その高すぎる実力から、基本的にはパーティを組まない。

 だが、アオリに関しては、「コラボ企画」と称して、誰かとパーティを組んで依頼をこなすことがある。

 ただその場合は、高くても、Bランク依頼までだ。


「高難易度の依頼は、最近やらないの?」

「えーとね、今度やるよ☆」


 高難易度……基本的にはAランク以上の依頼のことを指す。

 アオリもSRランク冒険者として、そういった依頼もこなすのだが、これまた変わっている。

 というか、何も知らない一般人にとっては狂気でしかないだろう。


「アイドル活動を続ける為にも、たまには過激な配信で稼がないとね☆」

「まったく、気を付けなさいよね?」


 そう、命に関わる高難易度クエストを「配信」と称して、イベント感覚で行うこともあるのが、アオリだ。

 Aランクならまだいい。

 Sランクの依頼の時もこのような調子だ。

 他人のこととはいえ、クロスも少しは心配になる。

 将来的には最高難易度のSRランクの依頼も、「配信」することを視野に入れているらしい。


「ふふん! 私のスキルを活かした活動をしているだけだもん! それに、ファンの皆が私の配信を待ってるからね☆」


 アオリのスキルは変わったものだ。

 【クリエイトアイテム】。

 詳しくはクロスも教えて貰ってはいないが、どうやらアイテムを創造するスキルのようだ。

 そのスキルで作成したアイテムが、「アオリン☆ミラー」である。

 ちなみに、命名者はアオリだ。


 普段はただの鏡だが、アオリが念じると、アオリの現在の姿が映し出される不思議な鏡だ。

 更にはこの状態のアオリン☆ミラーを持った人達が念じると、アオリの視界の片隅に、その人達が念じた言葉が文字として表示されるようだ。


 そうである、「配信」というのがこれだ。

 アオリン☆ミラーを起動し、皆にアオリの戦闘などを見せることを、「配信」というらしい。

 アオリはファン達からのコメントに返事をしながら、下手すれば死ぬ危険性のある依頼を行うのだ。


「スキルで作っているとはいえ、あんたもまぁ、よくもそんなアイテムを思いつくわね?」

「えっ? あー……まぁね! ふふん! 私のアイデア力は凄いのだ☆」

「もういっそのこと、商人でもやったらどう?」

「だめだめ! 私は、SRランク冒険者アイドルなんだもの! あっ、そうだ! 大事なこと忘れてた!」

「何よ?」

「王様が、私達を呼んでるんだって!」

「はぁ!?」


 一体何を言われるというのだろうか……。

 クロスは少し不安になった。

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