第1話 おはよう。誰⁉︎

 ハッ……と目を覚ますと、すぐ近くに男の子の顔があった。


「あ。起きた」

「え……?」


 にキラキラと透ける、色素の薄い、サラサラの髪。

 どこか青みがかった目は、深く吸い込まれそう。

 こんなキレイな男の子、見たことない。


「……って、ほんとに、誰⁉︎」


 私は思わず飛び起きた。

 寝ぼけた頭で必死に状況を確認する。

 知らない男の子が、私のベッドの上で、私の寝顔をのぞき込んでた……ってことだよね。

 ふ、不法侵入⁉︎


 だけど、男の子はキョトンとして私を見てる。

 それから慌てている私の顔をぐいと覗き込んできて。


「ねえ。君、名前は?」

「え……と、一ノ瀬いちのせ結愛ゆあ……中学二年生、です、けど」

「結愛。いい名前」


 テンパるあまり謎の自己紹介をしてしまった。

 そんな私にも嬉しそうに目を細めてくる男の子。

 その笑顔があんまりにもキレイで、不覚にもドキっとしてしまったけど……名前を聞きたいのは私の方だ。


「あ、あなたこそ、誰……ですか?」

「オレは、レム。結愛が昨日拾ってくれた、バクだよ」

「バク――?」


 その一言で、思い当たることがあった。

 そうだ。

 昨日は、学校帰りに雨が降っていて、それで……。



***

**



 雨が降る中一人で帰宅していたら、道の真ん中に小さくて丸いものが倒れていた。

 ネコかな、って思ったけど、どうもちがう。

 四つ足だけど、どちらかというとクマみたいな……でも鼻はゾウに似てる?

 不思議な生き物……生き物だよね?


「大変……!」


 ここは車通りは少ないけど、ゼロってわけじゃない。

 こんなところで倒れてたらいつかれちゃうか分からない。


「大丈夫?」


 声を掛けて、抱き上げる。

 雨に打たれていたからか、身体はヒンヤリと冷たい。

 でも、良かった。呼吸はしてる。


「こういうときって、保健所? 動物病院? それとも……」


 オロオロとつぶやくと、腕の中でその子はぶるぶると震えた。

 まるで「それはイヤ」って言ってるみたいで途方に暮れる。

 わ、ちょ、水しぶきも冷たいっ。


「お、落ち着いて。大丈夫だよ。……見たところ、ケガはしてないみたいだし……一回、うちに来る?」


 そっと提案してみると、今度は急に静かになった。なんだか言葉がわかってるみたい。そんなはずはないと思うけど……。

 放っておけない、よね。

 とにかくこのままだともっと身体が冷えちゃう。

 家で休ませて、様子を見てみよう。それから病院に連絡すれば、きっと大丈夫だよね。


「もう少しだからね」


 安心させたくて、優しく声を掛ける。ぐったり身体を預けてくるこの子を、しっかり抱き直した。



**

***



 ――そうだ。

 それでその後、家であっためてあげて、お水をあげて……寝床を用意し終えたら、安心したのかその子はスヤスヤ寝息を立てて……。それを微笑ましく見ているうちに、私も疲れて寝落ちちゃったんだ……。


 見てみれば、あの子の姿はどこにもない。

 代わりに出てきたのが、このレムという男の子。

 戸締まりはちゃんとしたはずだし、じゃあやっぱり、本当に?


「信じてくれた?」

「半分くらいですけど……。でも何で、バクが人の姿に……? というか、そもそもバクって一体?」

「普段はこっちの姿でいることが多いんだけど、昨日は力尽きちゃったんだ」


 肩をすくめた男の子――レムくんは、ベッドに腰掛けた。じっと私を見てくる。ち、近い。


「あ、あの、レムくん」

「説明はするけど、その前に、敬語」

「え?」

「敬語じゃなくていいよ。名前もレムでいい」

「でも……」

「レムがいい」


 レムくんは形のいい眉を下げて、じっと覗き込んでくる。

 うっ。捨てられた子犬みたいなその目は、ずるいっ……!

 ……まあ、歳はそんなに変わらなさそう……なのかな?

 同じか、少し上くらいに見える。


「じゃあ、レム……」

「うん。結愛」


 だ、だから、どうしていちいちそんな嬉しそうに笑うかな……!


 気まずくて目を逸らして――そこで目に入った時計にハッとした。朝の七時。

 いけない! 学校!

 気になることは多いけど、準備もしなきゃ!


「レム! 説明は、ご飯食べながらでもいいかな⁉︎」

「うん。オレは平気」

「ありがとう!」


 慌ててお礼を言って、ベッドから飛び降りる。

 よし、やるぞ!



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