第11話 団欒の時間

 今日作るメニューのほとんどは某有名料理研究家のyoutubeで知った物だ。

 至高シリーズいつもお世話になってます。


 野菜やら肉やらを切ったり混ぜたりすること10数分。

 荷物を整理し終えたのか、明音と真奈実もキッチンにやってきた。


「こっち終わったわよ」


「何か手伝うことある?」


「じゃあ、ジャガイモ潰して欲しい。レンジに入ってるから」


「わかった~」


「熱いから気を付けろよ」


 まだ粗熱が取れていないらしく、真奈実は『あちっ』と言いながらジャガイモの入った容器を取り出していく。


「私はやることある?」


「えーっと……テーブルとか片付けて貰えるとありがたいかな」


「わかったわ」


 2人にほかの作業をお任せして、俺は唐揚げを揚げるとしよう。


 調理を始めて30分弱、時刻はもう19時を回った頃。

 遂に本日の料理が全て完成した。


 普段自炊するときはここまでの品数は作らない、というか作れない。

 手間だし時間が掛かる。


 だからこそ今日は歓迎の意も込めて多めに作っても良いだろう。


 まあ本当は焼き肉とかのが良いかもしれないが、今日はお金をそこそこ使ってしまったので見送った。


「じゃあ食べるか」


 ローテーブルを3人で囲む。

 テレビの正面に俺、右手に真奈実、左手に明音というように3人でコの字を描くように座る。


「「「いただきます」」」


 こうして、家族3人の団欒が始まった。


「ん。やっぱり柚希の料理美味しいわね」


「まさかわたしと年同じ時からこんな美味しいなんて」


 2人とも味を褒めてくれるけど、これはレシピが良いんだよな。

 レシピ通りに作れば同じような味が出来上がる。

 まあ俺は昔から料理含め物作りが好きだったから手慣れているって言うのもあるけど。


 だけど作った料理を『美味しい』と言ってくれるのは物凄く嬉しいことだな。

 普段は自分1人でしか食べない料理も、複数人で食べるとより美味しく感じる。


 いや、人数は関係なくてこの3人だからだろうか。

 何にせよご飯が美味しいのは良いことだ。

 あとはテレビでも見ながら楽しく過ごそうか。


 ということでテレビを点けるとちょうどバラエティー番組がやっていた。


「見たい番組あったら見て良いぞ」


 リモコンを取り、2人に促す。

 あれこれとチャンネルを変えているが、あまりお気に召す番組が無いようだ。


「私は普段この時間バイトしてるから、今見たい番組とか無いのよね」


「わたしもー。昔のバラエティーとか面白そうだと思ったんだけどね~。そこまで興味が引かれないというか、まあ今はいいかなーって感じ」


 といった感じで、終いには『柚希(お父さん)が決めて良いよ』と言われてしまった。


 一応この時間帯は土曜日のゴールデンのはずなんだけど。

 2人はテレビよりもご飯の方が興味をそそられるみたいだ。

 作り手としては嬉しい限り。


 でもここでふと気が付いた。

 俺もこの時間にバラエティー見なかったな。


 なので今映っているドッキリ番組をそのままにしておく。


 思いのほか見ていて面白く、時折箸も止まる。

 出演者のリアクションに笑って、今のはどうだったと3人で思い出してまた笑う。


 こうやって気兼ねなく、ご飯の時間が楽しいのはいつ振りだろうか。

 普段は1人で食べているし、明音と2人の時も楽しいのだが、少しばかりの緊張もあった。

 勿論今も緊張していないと言えば嘘になるかもしれないが、それよりも心地よさが勝っている。

 こんな気持ちになれたのは、明音が俺のことを好いてくれていると知れたからだと思う。


 そしてその気持ちを知ることが出来たのは真奈実のおかげだ。

 彼女が現われてからまだ1日しか経っていないのに、まるで昔からこうであったかのように自然とこの楽しい時間を過ごせている。


 きっと未来での俺達は幸せな家族なんだろうなと感慨に耽りながらご飯を食べ進めた。



――――――――



 片付けも終わり、今は夕飯時と同じ番組を見ながらまったりと過ごしている。

 途中皿洗いを誰がやるかで揉めかけた。


 全員やるつもりだったのは意外だった。

 俺は家主で家事もやるのが筋だといったら、真奈実が「わたしは居候だからこれくらいやるよ!」と言いだし、明音も「いつも柚希がご飯作ってくれるとき片付けは私がやってるから今日もやる」と便乗してきた。


 結果、公平にじゃんけんの勝者がやることになった。


「これからも多分こういうこと起きそうだからさー、家事は当番制にしようよ」


「まあその方が良さそうだな。俺も幾らか家事やってくれるのは正直助かる」


 真奈実からの提案を了承する。今まで全て一人でこなしていた分、これからは楽になるかもしれない。


「料理と片付けと、あとは掃除洗濯ぐらい? わたしとしては掃除の頻度はそこまで高くなくても良いかなーって思うんだけど?」


「掃除機掛けるの面倒だもんな」


「そうそう。2,3日ですぐ汚くなるわけじゃないもんねー。1週間に1回位でどうでしょうか」


「異議無し。というか今もそれぐらいだ」


 がっちりと固い握手を結ぶ俺と真奈実。

 その隣から冷ややかな視線をひしひしと感じる。


「何の握手よそれ。そもそも掃除の頻度とかいちいち決める必要あるの?」


「決めないととことんやらなくなる自信があるぞ」


「わたしもー」


 今は部屋を綺麗にしているが、普段は面倒だからとゴミは捨てるが滅多に掃除はしない。

 何なら皿洗いも後回しにしたい。


 一人暮らしの男子大学生なんて大体こんな感じだろう。

 いや、性別は関係なく一人で暮らしている人間なら真面目な人以外こうなるはずだ。


 そしてその真面目な女性は大きな溜息と共に愚痴をこぼす。


「掃除なんて気が付いたら出来るものでしょう? さすがに毎日やるわけではないけど」


「それは明音だけだ」「それはお母さんだけだよ」


 特殊なのはそっちだ、と語る俺達2人に何を言っても無駄だと悟ったのか、遠い目で小さく呟く。


「将来、多分私がちゃんとしないとゴミ屋敷になるわね……」


「大丈夫だよ。なんだかんだ掃除させられて家は綺麗だから!」


 聞こえたのか、真奈実が問題ないと言い放つ。

 恐らく未来の明音に半ば強制されて掃除するんだろうな。


「もうそれは良いから早くお風呂入るわよ」


 と、強引に話を変えられる。

 でもまあ明音の意見には賛成だ。

 ただ、


「シャワーならすぐ入れるけど」


 毎晩浴槽に湯を張っていられるか。

 たまにしか湯船には浸からない。

 俺はそれで構わないが、2人はどうだろう。

 もっとも、明音はこれまでシャワーでも良いと言ってくれていたけど。


「シャワーで良いよ」


「私も構わないわ」


 ということで今日もシャワーです。

 タオルやら着替えを準備して廊下へ出る。


 2人からお先にどうぞと言われたので了承したけど。

 そこから順番に入るのだが、何度見ても明音のお風呂上がり姿が見慣れない。


 湿気を帯びた艶やかな黒髪に、火照った体。

 パタパタと手で顔を扇ぐ姿は只ひたすらに可愛く、色気がある。


「お父さん、お母さんのこと見過ぎじゃない?」


「仕方ないだろ、気になるんだから」


 真奈実に言われるが、目が離れない。

 今日は一段と魅力的に見えるのは何故だろうか。


 風呂から上がってしばらく経ち、俺はもう体が冷めてきたと思ったのに、また体が熱くなったような気がする。


 しばらくは寝付けそうにないなと、今晩のことを考える。

 せめてうちわで風を送ろうか。


 そこからまた就寝までまったりと過ごし、大分落ち着いたのは幸いだ。

 真奈実の布団を敷いて、寝る支度をする。

 すると、真奈実から爆弾が投下された。


「あ、わたしはここでゆったり寝たいからお母さんはお父さんのベッドで寝てね~」


……え? マジで?




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