Film2. 13分の1段目
授業開始のチャイムがなるのを、俺とユウキは魔法を行使する時に着る防具を兼ねたウェアに身を包み、魔法の行使を伴う授業の時に使われる格技場で聞いていた。
「そんなに気負わずにね」
「分かってるって」
ここに来るまで散々ユウキに励まされた俺は、【曇らせ】を摂取できなかった悲しみも少し薄れ、授業への意欲も多少取り戻している。
まぁ、多少取り戻したところで0が0.5になった程度で、憂鬱なのに変わりはないんだけどな。と、誰に言うでもなく考えながらユウキと話していると、格技場の中に魔法実技を担当する先生、木村 タクヤ先生が入ってきた。
「全員、揃っているようだね」
先生にしては若くイケメン教員である木村先生は、ユウキとはまた違った魅力があるらしく、クラスの女子が若干浮足立ったのが分かる。
まぁ、男の俺から見てもイケメンな先生だ。それに他の先生に比べて優しいし。人気な理由もよく分かるというものだ。
「はいはい皆、並んで。出欠取るよ」
甘いマスクの先生による号令に合わせて、クラスメイト達が番号順に整列し始める。
皆気怠げだったり、友人と話しながらだったり。ゆっくりノロノロと列を成す。
「それじゃ、後で」
「おう」
俺の名字の
俺もユウキと離れて列に混じっていく。
厳しい先生でないからか、皆いつもより並ぶのが遅い。───それでも木村先生はニコニコしたままだが。
「それじゃあ、委員長。号令」
「気を付け! 礼!」
皆が並んだのを確認して、木村先生が授業開始の合図をすると、クラスの委員長が号令を掛けた。
イケメン先生より厳しい委員長の号令で、緩んでいた空気が引き締まり、皆揃って号令に応える。
『お願いします』
「はい、お願いします。───今日やることを説明するから一旦全員座ろうか」
先生の『座って』のジェスチャーで、その引き締まった空気は一瞬で融解した訳だけど。
「うん、取り敢えず今日やることを説明してくよ───」
全員が床に座ったのを確認してから、木村先生が授業の内容を説明し始めた。
今日やることは予め聞いていた通り模擬戦。クラスメイトと1対1で行う実戦形式のもの。
模擬戦と言っても、直接切った張ったする訳ではなく、あくまでも魔法の撃ち合いのみによって勝敗を決める。まぁ、科目の名前が『魔法実技』だから当然だ。
一応、近接戦闘が専門の【魔法使い】もいるため、そういったメンバーは同じ近接戦が得意なものとペアを組んで撃ち合いをすることになる。
ちなみに、ユウキは腰にある剣を見れば分かる通り近接戦闘メイン。俺には近接戦はできないため、自然とペアは別々となる。
……近接戦どころか、魔法全般苦手なんだけどな。
「───こんな感じかな。取り敢えず浅木と安藤が第一試合だから準備出来次第Aコートに集合。それ以外のメンバーは前に模擬戦のペアと試合順が書いてある紙があるから、各自確認して順番になったら割り当てられたコートに来ること」
「それじゃあ、解散」と先生が締めると、クラスメイト達は一斉に先生の横に張り出された模擬戦の相手が書かれた紙に飛びついていく。
第一試合目がいつも組んでる浅木さんと安藤の時点で、他も相手はいつもと変わらないだろう。
俺はそう当たりを付けて、自分の
◇
そんなこんなで授業開始。格技場にはA~Cコートがあり、それぞれで模擬戦が繰り広げられている。
爆発の音だったり雷の音だったり木が生える音だったりをBGMにしながら、俺は格技場の舞台の上に陣取ってボケーっと、さっきまで雑談に興じていたユウキの模擬戦の様子を眺めていた。……人垣のせいで若干見づらい。
同じ近接型の魔法使いである岸さんと格技場の奥側にあるCコートでイイ感じの撃ち合いを演じているユウキを見るために、クラスメイトの女子たちがCコート付近で屯している。そのせいで手前側にいる俺からは、格技場という名前なのに設けられている舞台の上から眺めていようとも、誰かの人の頭でコートが見づらくなってしまっている。
「出雲君」
「ん?」
それでもなんとなく試合の運びは見えている。特に移動する必要性も感じられないし、そのまま舞台の上でCコートの方を眺めていると、俺の方に話し掛けてくる女子が1人。
「委員長」
女子たちの大半がユウキに魅入っている中、誰が俺に話し掛けてきたのだろうと視線を向けると、授業開始の号令をかけていた委員長である柴垣 トウコがそこに居た。
最近は話すこともなかったし、近頃よく一緒にいるユウキの試合を見ずに俺の方に来たのは何かあったからだろうか。
「そろそろ試合よ。準備はできてるの?」
何かやらかしたか? と1人戦々恐々としていると、委員長は少し呆れたような表情で俺を見ながら言ってきた。
「え? 俺の順番はまだのはずだけど」
いつも通りの試合順なら、俺の出番はあと4試合ぐらい後のBコートのはずだ。まだ準備を始めるには早いと思うのだが、試合順の入れ替えでもあったのだろうか。
「貴方、見てないの?」
「何を?」
「試合順」
「あぁ。いつもと変わらないだろうと思って」
はぁ、と分かりやすくため息をついた委員長の様子を見て、俺の背中に汗が伝っていく。
「まさか……」
「えぇ。次のBコートの試合。私と、貴方よ」
「嘘だろ……おい」
俺の
委員長が手に持つ刀を見ながら、斬首刑かな、なんて現実逃避気味に考えるのだった。
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