第14話 難航するご褒美。

無限術人間模式の創造はあっという間だった。


「ユーナ、俺の指示に続け。万一が起きてはダメだからセレナさんに眠りの魔術を使うんだ」


ユーナはやり方がわからないと言ったが、ミチトの説明で理解をして「セレナ、治すから寝てくれ」と言うと、セレナはわかったと最後まで言えずに眠りについた。


「勝手に施術が終わったと思ってはダメだ。必ず施術時にスレイブには、施術が終わって自身をマスターと認識したら目覚めてマスターと呼ぶように指示をするんだ」


「わかった」と言ったユーナは真剣な顔になる。


「よし!俺の後に続け!心眼術!」

「心眼術!!」


「セレナに色をつけろ!」

「セレナを青!」


「無限記録盤の色をセレナと同じになるまで術を流せ!」

「無限記録盤の色を俺の術で青にする!」


「そうだ!そのまま無限記録盤を取り込ませろ!」

ユーナがセレナに手をかざすと無限記録盤は飲み込まれていく。


「よし!そのまま無限記録盤に術を注いでセレナを術人間にしろ!セレナに語りかけろ!施術が終わったらマスターと呼べと言え!」

「俺の術でセレナを助ける!セレナを術人間にする!セレナ!終わったら俺をマスターと呼べ!」


ここから先はあっという間だった。

術切れを心配したミチトだったが、術を忌避して殆ど使わなかったユーナは溜に溜め込んだ術を使いセレナを術人間に変えた。


目を開けたセレナが「マスター…おはよう」と声をかける。


「ああ…終わったな。身体はどうだ?」

「はい。今までと違います。痛くありません。苦しくありません」

無表情とその話し方が気になったユーナは、「セレナ?その話し方はどうした?」と質問をする。


セレナが答えるより先に、ミチトが「ああ、スレイブとしてマスターの支配力が高いからだ。支配力を最低まで下げてあげるんだ」と答える。


ミチトの言葉に訝しみながらユーナは「支配力を最低まで下げる」と言うと、セレナはニコリと微笑んで「ユーナ、ありがとう。私治ったのわかるよ。凄いね!」と言い、ミチトには「ありがとうございました」と挨拶をしてヴァンの前まで小走りで行くと、「ヴァン!ありがとう!ヴァンのお陰だよ!治ったよ!走ったのは何年かぶり!嬉しいよ!」とお礼を言った。


「良かった!でも俺はなんもしてないよ。全部ユーナのお陰だよ。ユーナと家まで言って報告しておいでよ」


セレナはもう一度ありがとうと言うと、ユーナの手を取って家まで走って行ってしまった。



その後ろ姿にヘマタイトが「良かったです」と言うと、コーラルも「本当、人が助けられて良かったわ」と続くと、ペリドットとシャヘルが「本当だな」「これでひと段落だな」と言った。


コーラル達が喜んでいると、鳩が豆鉄砲を食ったような顔のミチトが「は?何言ってんの?まだまだまだまだまだ終わらないって、セレナさんの訓練は君達に任せるけど、君達はこれからファットチャイルドを直して、君達用の武器を作るんだよ?」と言う。



その後は文字通り地獄だった。

脳筋スイッチの入ったコーラルやヘマタイトは嬉々として直すのだが…。


「まだ細かなヒビが残ってる。やり直し」


ミチトは「衝走術」と言って衝撃を走らせて、「ほら、ヒビの通り砕いたからやり直しね」と言ってやり直させる。


ヘマタイトは床に散らばる粉々のファットチャイルドを見て、「そ…そんな…会心の出来でした…」と言ったが、ミチトは「ダメだよ」と言う。


肩を落とすヘマタイトにコーラルが「やるわよ!ヘマタイト!楽しくなってきたわ!」と言って燃え上がる。


ペリドットが「なんでコーラルの奴は元気なんだ?」と口にすると、シャヘルが「化け物め」と言う。


早々に戻ってきたユーナも「俺が知るか!粉々にしやがって!」と悪態をついた後は、ヒーヒー言いながら予備のファットチャイルドを直したが、ミチトから「バカなの?それはくっつけただけ、直してない。防いでみなよ」と言われて、アースボールが豪速球で飛んできたのをナハトのように「チャイルド!」と声を張って防いだが、剣は粉々になってアースボールが横っ腹に直撃して悶絶する羽目になる。


結局3日間はこんな日々が続き、ユーナの母は「楽しいね」と喜び、「じーさんが居ないのがまた新鮮でいいね!」と言いながらセレナとパンを焼く。

ヴァンは芋の皮剥きを手伝うと、ミチトが「俺は器用貧乏だから手伝うよ」と言って料理までし始める。


流石のコーラルも心折れて落ち込むが、ヴァンは「剣術大会で作った剣より上手だって!」と励まして、「コーラルは俺のイメージで物を作れる?」と声をかける。


「は?」

「剣は要らないけどさダメかな?」


「いいんじゃない?気分転換にやってあげる」

「にひひ、あんがとコーラル」


ヴァンはコーラルの手を繋ぎイメージを送る。

それは丸い中に鳥の羽のデザインがあったペンダントトップだった。


手に取って「うおー!すげー!コーラル凄いよ!俺のイメージバッチリだよ!」と喜ぶヴァンに、コーラルが「ふふふ。ありがとう。でも凄いのはヴァンよ、私は術を流しただけでヴァンのイメージに任せたのよ」と言って微笑む。


ヴァンが「そうなの?凄いのはコーラルだけどね」と返しているとミチトがやってきて、「ヴァン君は凄いね。その高度と強度は生半可な術でも壊せない、本物の隕鉄だ」と褒める。


「そうかな?ミチトさんの傷だらけの言葉が気になったから、一度コーラルの術で溶かして混ぜ合わせたんだ」

「そう、それが足りなかったんだ。ファットチャイルドは見たよね?コーラルの術を使って君が再生させてみてくれないかな?」


ヴァンが「えぇ?無理だと思うけど…コーラルいい?」と聞きながら作ると、「それが本物のファットチャイルドだよ。俺のタシアならそう作る」とミチトは言った。


そしてヘマタイト達は救いの光を見た。


「ヴァン君!教えてください!」

「頼むヴァン!俺はそろそろ帰りたい!」

「俺もだ!」

正直ヴァンの中ではズルになってしまうのではないかという思いから、「えぇ?ミチトさん、いい?」と確認をする。

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