初恋twilight(5)~カプ厨の足を踏め

 会話が途切れ、不自然な数分の空白。

 どうにか会話を再開しようとするも、話題がなかなか出てこない。


 夜のしじまと無駄に幻想的な光景に囲まれている状況が気まずさに拍車をかけていた。




「ん~……ちょっと、疲れちゃったな」


 口を開かない私の代わりに、フォートくんがそう言って大きく伸びをする。

 私はここぞとばかりに話しに乗った。


「だ、大丈夫です? 最近は生徒会の仕事を押し付けられて忙しそうですもんね……」

「どうってことないよ。野郎どものメンタルケアの方が大変」

「お、お疲れ様っス」

「なに、その口調」


 朗らかに笑うフォートくんからは私のような緊張は見て取れない。

 自分だけ緊張しているのが馬鹿みたいに思えてしまうが……それもしかたがない。


 だって。





 一年前……殺されかけた後。

 フォートくんに抱きしめられて、その後で、その。

 お、おそらく。キス……されかけた、時。


 さっすがに、気づいた!! あれで気づかなかったらアホよ!!





 最初は年頃の少年を陥落してしまった事実に「うわぁ、やっちゃったな~。まあ私可愛いからな~。そっかそっか、お姉さんのこと好きになっちゃったか~」と気恥ずかしく照れながらも余裕ぶっこいていた。

 気持ちは嬉しかったけど、私が好きなのアラタさんである。それに直接告白されてもないのにフルのも自惚れが過ぎるし、これからも一緒に行動する上で気まずくなっても困るから……まあこのままの距離感を保っておこうと。ずるい事を考えていたわけですよ。



 予想外だったのは、フォートくんが思った以上に恋愛ごとについて思い切りが良くて……さらにはあざとかったこと。

 あざとい。そう言うしかない。


「ね。ちょっと、肩かして」

「びょわっ!?」

「変な声~」


 クスクス笑う声は軽やかで、とても楽しそうだ。

 反対に私はぽすんっと肩に頭を乗せられて変な声が出る。


「あの、フォートくん。それは、ちょっと……」

「ん?」


 くっ!! 顔がいい……!

 横に目を向ければ、やや下にある美少女顔からの上目遣い。

 マリーデルちゃんをエミュった無邪気であどけない顔で見上げられたら、こちらに出来ることは何もなくなるんだよなぁ!


 ……こうして事あるごとにスキンシップしてくるし、その際自分の見た目を利用することに躊躇が無いのだ、この子は。

 あざといと言わずして、何と言おう。


 公の場でもアルメラルダ様のいる前で腕を組んできたりするものだから、対抗したアルメラルダ様がその逆から腕を組んできてよく両手に花状態になる。たいへん役得なのだが、心臓に悪い。


 回避予定のイベントで私を引っ張り込むもんだから、驚くほどロマンチックな経験も共に経験している。

 これについても必要だったことに加え、確信的なものでもあるのでは……と勘ぐってしまう。

 少なくとも全部が全部、代わりの相手を入れなければならなかったイベントでもないはずだ。


(でも、一線は超えてこないんだよなぁ……)


 いやいやいや。超えてこられても困るんだけど。何考えてんだ。


 そう。こうしてあざとく可愛く絡んでくるわりに、私が本当に困ってしまうような度の過ぎたスキンシップまではしてこないし、決定的な言葉も言わない。

 態度ではこれでもか! と好意を示してくるのに、だ。


 ……だからこうして二人きりにされると、とてもとても……困ってしまう。



(アラタさんもアラタさんよ! 人の好意を知ってるくせに場を整えるな場を!!)


 内心「あとはお若いお二人で」とばかりに去って行ったアラタに怒りすら覚えつつ、あることを思い出す。









 それはつい最近の事。


「一年前、わたくし達見てしまったのよ! アルメラルダ様の部屋近くで、あの小娘がファレリア様にく、く、く、口づけしようとしている場面を!」

「!? く、くちづけ!? キス!?」

「ええ、ええ! 驚きましたわ! 驚きましたわ!」

「あまりに真剣だったので声をかけそびれてしまいましたが……。そこにアルメラルダ様が現れまして。それが無ければ、あれはいってましたね。ちゅっと」


 ある日、アルメラルダ様の部屋の外で賑やかな声が聞こえるなぁと思って顔をのぞかせた時。

 部屋の前で護衛を務めていたアラタさんと、取り巻きーズがなにやらキャピキャピ会話していた。


 取り巻きーズ、奇妙な四人組が出来てからは遠慮するようにやや遠巻きに取り巻いて(なんだこの言い回し)いたので、アラタさんと会話しているのを見るのは初めてだ。


 というか。


(おいおいおいおいおいおいおいおい。取り巻きーズ、何を想い人にとんでもねーことリークしてるんですかァ!? というか、見られていた!?)


 そりゃあね? 廊下だったからね? 人気が少なかったからとはいえ誰も通らないという保証も無し。現にこうして見られていた事実が発覚したわけで???


 でも何故それを臨時護衛の男に! 言う!!


「な、なるほど。……他には? ファレリア様とマリーデル様に関する情報というか。ああ、これは護衛のためなんだが」


 アラタさんも「なるほど」じゃねーんですよ。

 護衛のためとか嘘乙。眼が完全にキラキラしてる。


 陰から様子を窺う私をよそに、その話題でそこそこ盛り上がりを見せている取り巻きーズとアラタさん。え、何。アラタさんそのガタイでノリが女学生か???

 そりゃ人の恋バナが楽しいのは分かる。でもその片方は貴方が好きで貴方にずっとアタックしている私なんですけど!





 ……とまあ、そんなことがありつつ。





「全部終わったらどうにか俺の養子にして婿に出すとかは……」


 不穏な独り言をこぼしていたりもして。

 普段はあえて気づかないふりをしていたけど、私の中ではひとつの確信が生まれていた。


(や、やばい。アラタさん、確実に私とフォートくんを「カプ」として推してる……!)


 察した。知りたくなかったけど察してしまった。

 こうなると余計にアラタさんを婿にする計画というか、好きになってもらったうえで婿にする計画が遠のくというか……!

 フォートくんはフォートくんで決定的なことを言ってこないから動くに動けずで、もうこの辺どうすればいいんだ!? と頭を抱えていたのはここ一年の所感である。





 そんな事を考えつつなんとか二人きりの時間をやりすごし、明らかに遅く帰ってきたアラタさんの足を思いっきり踏んだ私は悪くないと思う。










 それぞれの感情が忙しい私たちは、もう少し考えるべきだった。


 "一年"。


 それだけの期間、どうあっても原作通りにならない。それどころかどんどんイレギュラーなことが重なる。

 ……これらを見て来た犯人が、次にどんな行動を起こすのかを。







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