15 腹ごなしのあとに

 


 昼食が終わり腹ごなしにまったりしているところで、魔法を教えてもらえないか聞こうとしていたことを思い出した。


「そうだ、レナかミシャ。どちらでもいいんだが俺に魔法を教えてくれないか」


 俺がレナとミシャにそう話しかけると2人の表情が強張った。どうして2人の表情が強張ったのかわからなかったが、その理由はすぐにわかった。

 

「え…っと、それはどうしてですか」


「私たちだけでは駄目ということですか?」


 どうやら2人は俺が魔法を教えて欲しいと言ったことで、自分たちが不要になるのではないかと不安になったようだ。レナは自分より魔法が使えるミシャが来たことで、ミシャはここに来たばかりということで少し神経質になっていたようだし、俺の言葉が足らな過ぎたせいで不安を煽ってしまったようだ。


「ごめん。言葉が足りなかった。そういうわけじゃなくてな。俺も魔法が使えた方がいろいろやるのに効率がいいと思っただけだ。別にレナとミシャに不満があるとかそういうわけではないから安心してくれ」


「本当…ですか?」


「本当だ。レナの火魔法には助かっているし、ミシャの魔法にも期待している。別に2人の役割を奪いたくて言ったわけではないから」


 そういうとレナとミシャが安心したように小さく息をついた。


「それで魔法を教えてもらう話なんだが」


「別にソクサさんが使える必要はないと思いますけど」


「そうですよ。魔法関係は私たちに任せてもらえれば……」


「まあ、そうなんだが、やっぱり俺も使えた方がいいのは間違いないし、2人にばかり負担をかけてしまうのは嫌なんだよ」

 

 それに、何だかんだ魔法を使うのも体力を使うらしいから、魔法を使えるのが多い方がいいと思うんだよな。

  

「ソクサさんは他のことをたくさんしていますから気にしなくてもいいと思うのですが、そういうことでしたら」


「私はそこまで負担になるようなことはしていないから、そんなことを言われてもっていう感じです」


「そんなことない。いつもずっと火の管理をしてもらっているし、ずっと動かないのも結構疲れるだろう」


 ここで一番魔法が使えるのはミシャだが、そのミシャでも火魔法の適性がないらしく、小さな種火も出すことはできない。

 どうにも、人によって使える魔法の属性に制限というか適正があるらしく、レナの場合は火、ミシャは土と水。それとほんの少しだけ風魔法が使える程度だそうだ。

 それを考えればレナはこの場所にとってなくてはならない存在なのだ。


「ずっと動いていないわけではないのですけど、うーん。それに私は教えられるほどの知識があるわけじゃないし」


「そのあたりは私が担当すればいいと思います。レナさんは最初の魔力を感じさせるところを担当してもらえれば」


「いいんですか?」


「えぇ」


 しぶしぶといった感じではあるがレナも俺が魔法を覚えることを受け入れてくれたようだ。


「ねぇ」


「どうした」


 レナとミシャが俺に魔法をどう教えるかを話しあい始めたところで、今まで鈴鹿に話を聞いていたアンジェが声をかけてきた。


「話が纏まったところで悪いんだけど、獣人って種族的に魔法はほとんど使えないわよ。レナちゃんはハーフってことで多少使えるみたいだけど、私は一切使えないからね。あなたは獣人としての血が濃そうだし、たぶん使えないと思うわ」


「マジか」


 ここに来る途中でアンジェが魔法を使えないことは聞いていたがそれは種族的な理由だったのか。レナが使えたから練習次第では使えるようになると思っていたんだが。想定外だな。


「獣人の方でも使える方はいるので、個人差はあると思いますよ。ソクサさんが魔法を使えるかどうかはわかりませんので、一度試してみるのはありだと思います」


「ま、確かにそうなんだけどね。期待していて使えなかったら気落ちするでしょ」


「ああ、その心配をしてくれていたのか。まぁ、あくまで使えればいいな、くらいの気持ちだから使えなかったらすっぱり諦めるさ」


「ならいいんだけどね」


 レナとミシャもいるから、絶対に魔法を使いたいわけではないからな。



 魔法を教えてもらう約束をしてから数日。

 レナとミシャに魔法を教えてもらうのは家を大きくしてからということになり、その作業が先ほど完了した。


 家は一度解体し、ミシャに頑丈な土台を作ってもらったうえで倍ほどの大きさの家を建てた。とはいえ、基本的に家は寝るためだけの存在なので、家の中自体は立て直してもそれほど広くはない。

 もう少し広くしたいところなのだが、家の骨組みとなる木材を細かく加工するための道具がないため、大雑把な構造の家しか作れない。


 構造としては、3部屋に分かれていて、入り口に一番近い場所が一応リビング的な存在。主な用途は日中雨が降っているときの休憩部屋。丸太の椅子と適当に作ったテーブルが置かれている。正直言ってまだまだ狭い空間だが、日中の多くは外で活動しているので、これくらいでも十分といえば十分ではある。


 その部屋から左右に1部屋ずつ。左にある少し小さめの部屋が俺の部屋で、右にある大き目の部屋がレナとアンジェ、ミシャが寝るための部屋になっている。

 他には何もないが、前とは違い、家の一部に倉庫として使っていた小屋が俺の部屋の隣にくっつくように建てられている。


 これ以外の変更は特にない。いつも作業している場所も水たまりができないように少しだけ高さを出して平らにしたくらいだ。


こんな感じで家の拡張を先に済ませ、これからレナとミシャに魔法を教えてもらうことになっている。


「ソクサさん。こちらは終わりましたので今からでも大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。やることはとっくに終わっていたからな。それよりもなんかせっついたみたいで悪いな」


 先にやることが終わっていつも食事をとっている場所でのんびり待っていたんだが、レナとミシャがちらちらこっちを見てきてたんだよな。別のことをしながら待っていた方がよかったかもしれない。


「いえ、そうは思っていないので気にしないでいいですよ」


「そうですよ。それにソクサさんの方がたくさん働いているんですから、少しでも休んで」


「そうならいいが」


 2人は気にしないと言ってはくれているが、やっぱり気にはなっただろうし今後似たようなことがあったら、相手が気にならないように待っていることにしよう。




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