第2話 大人の対応

 現実世界では、当然ながらモンスターなんて出てくることは無い。

 一生懸命に学んでいた生物学の知識も、オフィスワーカーにはなんの役にも立たない。

 私は、毎日の業務に追われていた。


「この仕事やっておいてって言ったやつ、ここできていないよ?」

「すいません。私の理解不足でした。修正します。……ですが、その部分は私にはわからない内容でして、別の方に依頼をした方が……」


「分からないことは、わかる人に聞いて進めてよ。大人でしょ? できないからって、そのまま放っておくの? 言われたことは責任もってやってもらわないと」

「これが分かる人……。別部署の方ならわかりそうですが、部署をまたぐ話だと部長から話を通すのが筋だと思いますし、そもそもこんな時間じゃ誰も捕まらない……」


「じゃあ、明日でもいいよ。やっておいて」

「えっと、明日は土曜日でお休みですし……」


「言い訳ばかりして。月曜日までにあればいいから。まだ日もあるでしょ。お願いね」


 部長はいつも横暴過ぎる……。

 学生時代には、もう少しディベートの勉強でもすればよかったかもしれない。

 もしくは、ダメな上司の対応方法なんてものでも。


 土曜日も出勤が確定した。

 大人ってなんだろうなー……。

 部長は、自分勝手に自分の思い通りにならないとわがままを言って。

 大人と子供って変わらないのかも知れない。


 そうはいっても、責任をもって行動するのが大人よね。

 それであれば、私は部長より立派な大人だ。

 この部署に配属されてからこんなことは日常茶飯事。


「はぁ。やるしかないか」


 土曜日は毎週、生物学の勉強をしているのだが予定変更。

 やらなきゃいけないことは、効率的に終わらせてしまおう。

 年齢が大人になるにしたがって、身に着けた仕事に役立つスキル。


 何事も一歩先を考えておけば、手戻りも無く早く終わる。

 状況さえ読み切れれば、難しいことなんて何もない。

 先に調整だけしておこう。


「まずは、仕事が分かりそうな人にアポイントメントを取っておこう」



「すいません、月森さん。こんな遅い時間にすいません。明日なのですが……」

「また、あの部長の無茶ぶり? あの件でしょ。薄々はわかっていたけど直接依頼が来ないと、こっちも動けないんだよね。事情はわかるから協力はするよ」


「ありがとうございます。後追いで部長から連絡させていただきます。本当に助かります。いつもご迷惑おかけしまして、埋め合わせは致します」


 事情を説明したら、何とか助けてくれそう。

 あと、こちらの部署にも連絡しておかないとだな。

 帰りがけに、お礼の品でも用意しておこう。



 この部署に配属されてから部長の無茶ぶりが多く、先に手回ししておくことは得意になっていた。

 モンスター上司の対応に慣れたら、本当のモンスターにも役に立つのかな?



 ◇



 土曜日。

 朝一で業務に取り掛かり、分からない部分は月森さんと、別部署の人にも協力を仰いで何とか進め、なんとか、終わらせることができた。



「土曜日にも関わらず丁寧に教えて下さって、ありがとうございます! こんな時間まで付き合ってもらいましたが、無事完成しました」

「お疲れ様。いつもあの部長は大変だよね。こんな日は気晴らしに飲みにでも行きたいね」


「そうですね。こんな時間ですし。昨日言っていました穴埋めでも。良ければ本日にでもお礼させてくでださい」


 先に居酒屋も予約しておいてよかった。

 お酒を奢ることが社会人の一番のお礼だと、月森さんに教わったので抜かりなく準備済み。


 お酒一杯で今後も良好な関係が築ける。

 大人って、意外と単純だったりもするのよね。



 ◇



「じゃあ、今後もお仕事頑張りましょー!」

「「かんぱーい」」



 土曜日中に仕事を無事終わらせる事、飲み会をすることまでは良かった。

 ……飲み始めたら、そこから少し計算が狂ってしてしまった。


 お礼なのでと、良い店を考えて周到な準備をしていたが、店の閉まる時間までは把握できていなかった。

 このお店が、夜遅くまで飲める店であることを見落としてしまっていた。

 土曜日の夜に一杯で終わるわけもなく。


 終電まで泥酔してしまうとは。


 結局、飲み会の費用は割り勘になったのは良かったが、私の日曜日のお楽しみタイムが……。

 明日は必死に起きないと。

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