「最終処分島」

低迷アクション

第1話



 病院の注射器、薬品や食品、衣類、トレー、我々の生活に関わるあらゆるモノはやがて

ゴミとして処理される。一般の人はそれが環境事業センターなどのゴミ処理場で処理されると思っているのが大半だ。


だが、処理しきれないモノもある。例え、灰になるまで、焼き、分解、地中深くに埋めたとしても、長くなれば、その土地全体に悪影響を及ぼすため、別の場所に運ばれる。


原発の汚染水も同様だ。母なる海によって拡散され、放射能も薄まるだろうとの発表は、当てずっぽうや希望的観測ではなく、いくら無能な政府だとしても、何かしらの“お試し”があった上での見解だと思う。


以下は上記に述べた処理に関わる人物の最後の記述であり、これを取材し、小説風にしたモノである。


尚、この人物の死因は当該の病院施設、大学病院でも、原因究明は“不可能”との見解であった(あえて、調べなかったのかもしれない)だが、素人目にもわかる、全身、特に背中か広がっていた肉腫が関係していると思われるが定かではない…



 ああ、ライターさんね…てか、おたく名刺とかねぇの?だってあれでしょ?“マー”だっけ?宇宙人とかのオカルト雑誌…えっ?違う?趣味で小説、webの…


ああ、何だ…そーゆう事。だよな。俺の話なんか三文のカストリ雑誌、陰謀なんちゃらだって取り上げちゃくれねぇよな。


この4年間は皆、嘘のつきっ放しだ。マスクをしてれば、大丈夫。ワクチンしてれば大丈夫…挙句“あれ”が何なのか、わからないまま、突然マスク外して大丈夫。だけど、誰も外さない。外せば、罵詈雑言の可笑しな社会…


お上も俺達も“仕方ない”だよ。わかってるけど、どうしようもない。でも、それに実際会っちまったら…?会っちまった現実を突き付けられたら、皆…俺みたいになるんだろうな…



 高校を出て、すぐに勤めたのは、アスベストの処理関係だった。3.11の就職氷河期、選べる職種も限られててな。以降、処理仕事ばっかり…ガキん頃カーストの上位にいたって、その時だけ…


昔、パシってた奴等の尻拭いの仕事。だけど、何も感じなくなったよ。今のご時世とかを見てるとな。


あれは、月末の給料振り込みの日だった。社員数名しかいない、俺達の詰め所に上司の“Y”が暗い顔でやってきた事から始まった。


“お前等、休みに入る前に稼ぎたくねぇか?”


煙草と酒でドス黒い顔を更に悪い色にした顔が喋る時は、大抵が汚れ仕事を更に汚くしたモノ…だから、手を挙げたのは、俺(以降は“K”と表記)と“О”の二人だけだった。


志願者が揃って頷いたYはすぐにトラックを動かした。アイツ自らが来るとなると、海関係だ。奴は船舶免許を持ってるからな。


仕事の内容は簡単…俺達が処理したモノを詰めたタンクに入った商標、会社番号とかを

薬品で消すだけ…


「いつもなら、納品(処理する事)の際、ドロドロに溶かすんだが、運悪く溶け残ったモンがあったらしい。あんまり、会社名とか番号があるとな。万が一、処理やってる奴等から漏れないとも限らない。こんな事は滅多にねぇんだが…全くツイてねぇ」


「ああ~っ、俺達はただ、処理して詰めるだけですからね。てこたぁっ、最終処理の工程を見れる訳ですね」


Оの能天気な言葉にYはゲンナリした顔で応じる。


「最終処分の次の、本当の意味での最後の処分場…いや、島だ。俺も初めて行く」


「どう言った処理方法をするんだ?」


「噂じゃ何もしない。ただ置いてくるだけ…それだけでいい。俺達はその置き場に行く」


海に出た時は夕方…船上で一夜明かして、ようやく、その場所に着いた。


大きさ的には横須賀の猿島くらいの小さな島…何処か雰囲気も似ていた。山とかにある

環境事業センターみたいに煙も生ゴミの臭いもない、とても処理場とは思えない島だ。


港みたいな、とゆうより、元は港として使っていた場所にボートを近づけようとしたら、

何処から現れたのか、違法改造の漁船みたいな高速艇2隻が、俺等の船に並走した。


「どうしよう…K」


Оが目を白黒させてたが、俺だってそうだった。


「慌てるな。大丈夫だ」


って言ってるYもガチガチに震えてた。


奴は震えながらも、ビニ袋に入った社員証みたいなモンを手にして、掲げる。


赤いレーザーポインターがYの腕に照射され、後はそれっきり、俺達は島に上陸した…



 上がった先は元漁師町っていう風体の建物群…ペンキみたいな白い粉に島全体が覆われちゃいたが…作業用の防毒スーツとマスクに身を包めば、問題ない。多分、いつもの現場が大きくなっただけと思う事にした。


行き先も示されてた。白い轍にタンクを引き摺ったような跡が通りの奥に続いている。


社会から当然出るゴミの量が何トンかわかるか?車とかショベルでもなきゃ運べねぇよ。

それが車も無しでどうやって?


能天気なОだってわかる事だ。だけど、全員が見たがってたと思う。処理に長年関わるプロだって見た事のない、本当の最終処分の現場をな。


全員が黙々と進むうちに、建築の群れが無くなり、東京ドームくらいの開けた場所に出た。


圧巻だったね。処理に使われるタンクや容器類全てが丁寧に畳まれ、解体場の車みたいに積み上がって、巨大な迷路になってた。


「スッゲェ、どうやったら、こんな、なめし皮みたいに出来るんだ?」


「それもそうだが、中身は何処へ?」


「どうでもいい。それより、俺達のタンクだ」


これじゃあ、探しようがないっすね?と言いかけるタイミングで、迷路の奥から、鉄を引っ掻いたり、無理やり捻じ曲げる感じの音が聞こえてきた。


自然と先頭を行く形となった俺は、壁の間を抜け、音のする方を目指す。


不味かったのは…


「あの~、すみません。ここに運び込まれたタンクに用がある者なんすけど~」


って、音と壁一枚隔てた所で、Оが声をかけた事だ。


ピタッと止んだ音の後に続く不気味すぎる沈黙…


「オイ…」


Yが呟いたのと、壁の上から“そいつ等”が覗いたのは、ほぼ同時だった。


始め、それはデカい避妊具を口に含んで膨らませてる最中、もしくはバキュームの吸い口や漏斗を口につけてるのかと思った。


だが、よく見る内に“口ん中全体が外に飛び出た異様な何か”だと言う事に気づいた時、

俺達全員が悲鳴を上げた。


出口に向かおうとしたが、既にソイツ等が大挙していた。そこで、相手の全体を拝めた訳なんだが、見えたとしても、アレが何かと断定できるかは、正直自信ない…


体はフジツボみたいな瘤で覆われ、そこからは白い粉が絶えず、吹き出してた。恐らく島中に撒かれてた粉は奴等の排泄、分泌物だ。


加えて、ゴリラみたいに太い、2本の腕の先はバールみたいに固く折れ曲がった指が6つ覗いていて、鉄だろうが何だろうが、簡単にブチ壊せそうだ。


そんな化け物然とした奴等が防護服と薬剤入りのスポンジとバケツしか持ってない俺達に

飛びかかってきた。


誰だってビビる。でも、流石、処理のプロ…驚きながらもYが素早く、薬剤の蓋を開けると、目前へ迫った怪物のデカ口にブチ蒔けた。奴の前職は下水道の汚物処理、地下で何を見たんだか、全く…


とにかく、一瞬、解決策が出来たと思ったが…


「嘘だろ?」


Yの最後の言葉だ。人体に悪影響及ぼしまくりの液体を美味そうに飲み干した大口は、俺達の上司を一口で呑み込んだ。スッポリと頭を包まれた奴はすぐに動かなくなり…


「ヒィィイイッ」


俺の隣でズボンを濡らしたОが膝をついて悲鳴を上げた。無理もない。化け物の消化の代謝が異様に速いのか、骨とか肉を砕く破砕音を響かせながら、Yの体は奴の口に収まっていき、

最後には、何も無くなって、ドロドロの水溜まりだけが地面に残った。


数体の化け物が地べたに口を近づけ、元上司の残りカスを啜っている間に、俺はОを引き摺って、どうにか奥へ進んだ。


別の出口を探すしかねぇと踏んだわけさ。


しかし、壁を抜けた先も同じ…腹をビア樽以上に膨らませた数体の奴等が、

転がるタンクに頭を突っ込んで、食事の真っ最中だった…


加えて、気づきたくない事に、また気づくんだが、連中が抱えるタンクは、俺達が仕事で納品したモノ…つまり、お目当てのタンクだった訳だよ。


あの時のОの行動は、正直、理解できなかったが、今なら解る…


笑い声みたいな悲鳴を上げながら、奴はバケツとスポンジをひっ掴むと、化け物共を押し退け、タンクにスポンジを押しあて、一生懸命に擦り始めた。泣き出しそうな謝罪文を口にしながらよ。


「ヒーヒヒヒッヒヒ、ヘェ、ヘェェエエエ弊社のミスにより、大変なご迷惑申し訳ありません。上司のYは皆さま方に大層なご迷惑おかけしましたのを慮って、ワタクシは、ワタクシはぁっ、あぁっ、これは失礼、素顔を見せますので、どうぞ、ご勘弁、ゴカンベンんんん」


奴の何処に、そんな丁寧語を言える脳みそがあったんだが、疑問に思うが、とにかく

あり得ない、現実な光景見せられて、ショートしちまったんだな。


化け物共の出す粉塗れになって一生懸命タンクを磨くОは、自分のマスクまで剝ぎ取っての大騒ぎ…開いた口が半開きのせいで、涙や鼻水まで流れ込んでる状態…


結果は言わなくても…いや、わかるだろ?…


怪物の一匹が面白半分に、Оの磨く手を吸い込み、絶叫する奴に群がる化け物群の動きを

最後まで見る事なく、俺は新たに見つけた壁の入口に飛び込んだ。


大口の奴等が壁の上や、通路のそこかしこにいたが、基本的に音と臭いに反応するらしく、全員がОの声に向かっていたから、こちらにはお構い無しだった。


やがて、迷路の入口、何処に続いているかはわからないが、森が見え始めた時…いや、全くもって俺の油断だが…


足が壁に少しぶつかっちまった。


おかげで、こっちの音を聞きつけて、すぐ近くにいた化け物が、俺の背中に吸い付いた。


今まで感じた事のない激痛とデカい声を出しそうになったが、どうにか耐え、背中に吸い付く奴の頭に、持っていた溶剤をかけてやった。


背中の皮は火傷したみたいに溶けたが、化け物と離れる事は出来た。


そのまま白い粉だらけの森に突っこむも、跋扈する化け物の数は変わらない。どうしようもなくなった俺を囲んだ奴等の1人が風船みたいに弾け、救いの主は銃弾だと分かる時には、防護服は破れ、全身はボロ雑巾だった…



 「教科書で読まなかったか?公然の秘密…いるんだけど、いちゃダメなモノ、いや、居なきゃイケないモノ…それがこの島さ。ロンドンが黒煙と言う公害を噴き上げた時から、この島みたいな場所がいくつも生まれた。初めに、島から食い物を全部締め出して、飢えさせる。土やお互いを食い合うくらいまでになった段階で、汚れた水や粉を島に持ち込む。


俺達の先祖、家族は狂喜して食ったよ。大半は死んだが、何世代も生き残った者が淘汰と

交配を繰り返した結果、こーゆう事になったし、奴等にとっては社会を回すために必要な

処理場の完成を喜んでた。体質のせいか、ここの連中の渇きは人間の数十倍以上、ほっとけば、鉄だって、何だって食っちまうんだからな。身内も例外じゃない。俺が銃を持つのは、そのためでね」


港まで俺を連れ出してくれた男は、辺りに油断なく銃を向けながら、全てを話してくれた。そいつは化け物共とは違い、バイク乗りが使うフルフェイスのヘルメットと着古した作業服で身を固めていた。


あの2隻の高速艇、船の連中に話はついていると断ってから、男は話を続けた。


「アンタ等には悪い事をした。連絡が遅くてな。何でも持ち込まれる島、電波だって悪くなる。


今は宇宙からも映像を撮れるんだろ?それ自体は問題ない。ただ、誰にでも撮られ、つぶやき、発信される時代、何処の誰ぞが、ここを大衆の目に晒すかわかったもんじゃねぇ…


最も…誰も気にしないと思うがね。よく出来たCGで終わりだ。でも、お上の連中は躍起になっててな。もし、バレたら責任とるのは?皆、わかってるのに…これだけのゴミが出る

現状…とっくの等に、地球は汚染されている筈なのに、それがどうにかなってる。可笑しいよな?


可笑しいと思ってるけど、目を背けている。それの全体意思が、この島を存続させているんだ。まぁ、もうじき、関係なくなるけど、おっと…」


喋り過ぎたと言った感じの男が、口を閉じ、それが港に着く合図でもあった。


全身を防護服とガスマスクに固められた男達に先導され、船に乗り込む俺は、最後に島を

振り返った。


“またな”


と言って、片手を上げる男の片腕は地肌が見えている。そこには、怪物と同じフジツボが群れていた…



 島から戻って、即入院…この体にできてるのは、アイツ等と同じ、フジツボの前段階だと思う…


俺は多分死ぬ。いや、社会的にはだ。さっき見ただろ?積み上げられたトレーの数、異様な食欲だ。正直、今も腹が減ってるし、体は悪いどころか、全てが順調だ。調子の良い酩酊状態…


あいつが“またな”って言ったのは、こーゆう事だ。今生の別れじゃない。代わりがいるんだ。船の連中と話の出来る奴が…


きっとそうだ…


最後に奴が口をつぐんだ話を教えてやるよ。


高卒の俺でもわかる簡単な事だ。海に流される汚染水、あの男の言葉を借りれば、


“大半は死んだが、何世代も生き残った者が淘汰と交配を繰り返した結果、こーゆう事になった…”


わかるだろ?もう、あの島だけじゃ、この国のごみは処理できんのさ。もっと広大で多くの最終処分業者を必要としている。海の生物、それを食った生物…皆、アレになれば、誰も文句は言わねぇし、社会のため、いや、社会そのものがアレになる。


どうだ?完全なエコだろ?…


面談後、まもなく、Kは死亡した…と言う事になっている。全ては病院側の説明のみだからだ。Kが死んでいるか、生きているかは不明だが、どんな形であれ、最後には、あの島に送られるのだろう…(終)

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「最終処分島」 低迷アクション @0516001a

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