第9話 王都燃える①

 日が暮れる。


 私たちはバシュミル大森林の端。エフタル王国がよく見える丘の上にいる。


 私たちは天幕を張り交代で王都を監視し、来たるべき瞬間を待っている。


 ここにいる50人は全員ドラゴンに殺されている。


 おそらく全員、呪いを受けているだろう。

 呪いのドラゴンロード。あれが何もせずに生き返らせるはずはないのだ。


 伝説によると。ドラゴンに傷を負わされたものは生涯にわたって呪いを受けるのだそうだ。

 私が知ってる話だと。ドラゴンに傷を負わされた者は呪いによって数年で死ぬ。


 あるいは生きていたとしても。呪いは子供に引き継がれるそうだ。


 物語によると、生まれた子供は全身にウロコや角が生えていたり。

 最悪、出産を待たずに母親の腹を食い破るそうだ。


 子供か、私には関係のない話。望んではいけない。

 でも、彼なら受け入れてくれるかも……いや、何を考えてるのよ。

 私は天幕から出て頭を切り替える。


 丘の上ということもあり心地よい風が吹いている、すこし肌寒いが気を引き締めるにはちょうど良かった。

  

 夜空に月が昇る。綺麗な満月だった。


 私の隣にはいつの間にかクロードがいた。

「クリスティーナ様、いよいよですね」


 彼も緊張しているようだ。普段顔には出さない彼だけど私にはわかる。

 なんとなく、彼とのつながりが強くなった気がするから。

「クロード、皆を呼んで、最後の作戦会議をしましょう」



 …………。


 王都から火の手が上がった。

 私は見ていた。


 あれがドラゴンブレス。初めて見た。


 呪いのドラゴンロード・ルシウスは宣言通りに満月の光に隠れて。

 結界をすり抜けた。


 王国の機密である大魔法結界のウィークポイント。

 月と王城の直線上の頂点には結界に穴が開くのだ。 


 それを上空からすり抜けたルシウスは魔法学園にむけてドラゴンブレスを放ったのだ。

 青白い、美しい光の線が学園に降りそそぐ。


 次の瞬間。こちらにも熱風を感じるほどの爆発が起こった。

 あれが、ドラゴンロードの力。絶対に逆らってはいけない圧倒的な強者の力なのだ。


 私は感動した。美しいと思った。

 あの醜い貴族を生み出す魔法使いの巣である魔法学院が燃えているのだから。


 魔法学院は魔法使いの拠点。

 その建物には何重にも重ねられた魔法結界に対魔法レンガで建物は守られている。


 王都全体を防御している大結界の侵入を許したとしても。

 魔法学院と王城だけは個別の対魔法装備があるはずなのに。

 溶けて、爆発して、燃え上がっていた。


 すごい! すごい! 心が躍った。

「クロード! 見た? 燃えてるのよ、あの魔法学院が! 信じられない。本当にこれは現実なのかしら。

 あはは、本当に綺麗……。ふぅ、ごめんなさい、少し舞い上がってしまったわ。皆揃ってるわね」

 

 いよいよ始まった。ドラゴンによる虐殺が。

 私は燃える王都をもっと見ていたかったけど、気持ちを切り替えて後を振り返る。


 後には精鋭たちが50人。一度死んでしまった彼らだけど、生き返った後は全員が私の為だけに命をくれると言った。大切な私の騎士たち。


「クロード、そして皆もありがとう。今からやることは私の私怨でありただの復讐です。でも、ついてきてくれて本当にありがとう」


「へ、水臭いですぜ。姫様のおかげで、おいらたちは今生きてるんですから。どんと構えてくださいや、それにご褒美をもらえたら、もっと姫様に奉仕させていただきやすぜ!」


 アラン、彼は相変わらずの調子だった。

 でも、今こそ彼を理解した。緊張した集団に笑いが起こったのだ。


「へへ、アランの言うとおりだ、俺達はもともと盗賊だったんだ。そんな俺達の為に命張ってくれた姫様に恩返ししないで男といえますかい? そうだろう? 皆!」


 続いてアレンが言った。その直後に残りの皆が、同時に「おお!」と声を上げた。

 気持ちの良い人たちだ。


 私は彼らになんと返せばいいのか分からなかった。

 クロードはそんな私に気付いたのか、言葉を続ける。 

「クリスティーナ様、我らは皆、貴方に救われた者たちです。貴方様のやりたいことの為に生きると誓った者たちなのです。遠慮なくご命令ください」


「ありがとう、皆ほんとうにありがとう」


 次の瞬間。今度は王城が爆発と共に勢いよく燃え上がった。

 ドラゴンブレスが王城の中心に穴を開け、今までで一番大きな爆発を起こしたのだ。


 父上は死んだかしら。

 肉親が死んだかもしれないのに、今までで一番高く大きく燃え上がる炎を見て美しいと思った。

 いいえ今さら否定しない、私は高揚している。

 もっと近くであの火を見てみたいと。私は声を張り上げた。


「王城は燃えた! 全員突撃! 生き残った貴族共を殺せ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る