第8話 第四王女の決意

 蘇ったクロードはクロードだった。

 しばらくは意識がもうろうとしていたが、すぐにいつものクロードに戻った。


 もう少しだけ彼の看病をしていたかったけど。

 今は時間がない。


 私達は馬車に乗ったまま移動を続けていた。

 クロードは上半身裸であったので、私は彼に服を渡すと説明を続けた。


 ドラゴンの呪いでどうなるか分からなかったから、経過観察をする目的だったのだけど。

 彼が上着を着ると少し残念な気分になった。


「我々は今、エフタル王国に向かっています。

 来た道を引き返すのは残念ですが、次の満月まであまり時間がありません。

 満月になったらドラゴンが王国を襲います。

 その時間が王国の魔法結界がもっとも弱まるからです」


「なぜそれをドラゴンが知ってるんですか? そういえば俺は……ドラゴンと戦って。死んだ。

 たしかに、俺は死んだ――」


 私はクロードを抱きしめた。これ以上は聞きたくない。彼は死んだけど生きてる。今はそれでいい。

「クロード、ごめんなさい、説明はあとでするから。今は、今だけは私を抱きしめてください。その後なら私は貴方に斬られても構わないから」


「そんな! 何があったのですか? ……いや、姫様の仰せのとおりに。私などでよければいくらでも」


「ありがとう。もう、これで泣くのは止める。クロード、生きててよかった。本当によかった」


 私はクロードに全て説明した。


「――なるほど、俺は生かされた。ということですね。

 ならば何も思うことはない。クリスティーナ様が俺を必要としてるのであれば。騎士はそれに答える。

 それにクリスティーナ様は間違っていない。間違いというなら、それは俺の力不足が原因なのだから」


 クロードは何か決意を固めたのかその場に跪いた。


「クリスティーナ様にお願いがあります。

 もう一度、私を貴方の騎士にしてほしいのです」


「え、どういうこと?」


「騎士が主人から与えられる剣は一つだけです。ですから、もう一度、クリスティーナ様から騎士の剣を授けてほしく」


「剣って、レスレクシオンの魔剣のこと? それは貴方が全て管理してたじゃない」


「ですから正式に、与えてほしいのです。それに十二番、魔封じの剣は強力でしたがドラゴンには歯が立ちませんでした。

 ぜひ噂に聞く二十番の魔剣、機械魔剣を私に与えてほしいのです」


「私は持ってないわよ、あれはエフタル王が管理してるはずだし。……でもそうね。

 あなたが持ったらドラゴンなんか一刀両断かも……。

 いいわ、二十番を探しましょう。それまで貴方の剣はレスレクシオンの十一番、十三番、十六番どれでも好きに使いなさい。

 おじい様、いやレーヴァテイン公爵だってそれくらいは許してくれるわ。だって彼は私には貴方しか与えてくださらなかったのだから。剣が何本あっても意味がないのよ」


「は、クリスティーナ様のただ一人の騎士として。仰せのままに」



 かなりの強行軍だった。

 一度来た道というのもあったが。思ったよりも早くバシュミル大森林の端まで来ていた。

 なんとか間に合っただろう。王都はまだ無事だった。

 ドラゴンの姿はどこにもない。


 ちょうど今夜が満月だ。


 1000人の団員のなかで非戦闘員や、やや実力の劣る者たちはかつてのアジトに残してある。


 ここにいるのは精鋭50人のみ。

 呪いのドラゴンロードが殺した先遣隊の皆だ。

 彼らが生き返ったのも私への枷の一つなのだろうか。


 私のした事に対しての褒美と捉えられなくもないが。

 あのドラゴンに慈悲の気持ちはない。彼らを生き返したのも何らかの意図があるはず。


 私たちの目的は、ドラゴンによって襲われた王城へ侵入し国を乗っ取ること。


 幸いにもドラゴンの眷属となったことによって、ドラゴンとは繋がりがあるはず。

 私たちを殺すことはないだろう。私たちが裏切らない限り。


 王族や貴族を殺すことに今さらためらいはない。

 しかし平民は別だ。

 私の復讐に彼らを巻き込んだ罪滅ぼしをしなくてはならない。

 それはこの国を混乱から救うこと。

 つまり私たちバシュミル義賊団が国を統治することだ。


 ちなみに今の私は魔法が使えるようになった。今は初級魔法だけど、かつてあれだけ練習しても発現しなかった力。


 ドラゴンとの契約のおかげだが。しかしそれは切っ掛けに過ぎないのだという。

 元々は潜在的な魔法適正はあったそうだ。

 今まで使えなかったのは外部的な要因か分からない、きっかけを掴めなかっただけかもしれない。

 魔力が成長しきったら、あいつは私を食べるだろう。

 

 それまでの間に何とか国を再建させる。

 まともな国にすれば少しは救われる気がする。

 これから私たちが起こすことの罪滅ぼしにはなるだろう。

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