第2話「一番楽な彼女の作り方」

「急募、彼女の作り方!」

 親友と女同士で定期呑みをする中、私は簡潔に今日の話題を提示する。

 突然の宣言に呑んでいた酒をこぼしそうになりながら、美沙希はこちらに視線を送った。

「美桜、急にどうしたの」

 戸惑う美沙希に私はコンロの上のホルモンをつつきながら説明する。

「まあほら、私たちって女の子が好きなわけじゃないですか」

「そう、ね?」

 美沙希もまた私と同様にホルモンをつつき、食べ頃を待つ。

「私たちは急がずに待っていると、一生パートナーができないと思うのですよ」

 うんうん、と美沙希は頷き、焼けた分をこちらの皿にくれる。

 実際、普通の生活の中で彼女を探したって好みの子ができても望みは薄いし、いつまでも時は来ない。その間にアラサーになったし、そのままいつかアラフォーになってしまう。

「つまり、焦るあまり待ちきれなくなったってわけね」

 美沙希は私がコンロの火を強くするのを見ながら要約する。

 と、上がってくる煙が強くなって私のホルモンが燃え始めてしまった。

「でも、急ぎすぎてもケガしちゃうよ? チャンスが少ない私たちみたいなのは」

 それもわかる。実際、私たちみたいな人を狙った詐欺とかだって少なくないっていうし。楽をしようとすれば、足元を掬われるわけで。

 美沙希がドリンクの氷を一つ取って炎上する網に押し付けると、やや焦げっぽくなりながらも火は落ち着いた。

「どうしたらいいかなぁ」

 炎上しないように火を調節しながら、二人で考える。

 食べどきを待ちながら流れる沈黙が少しだけ気まずい。美沙希も真剣に考えてくれているんだろうけど、自分の勢いで始めた話なだけに申し訳なさが湧いてくる。

「ごめんこの話——」

「一個、いい案があるんだけど」

 沈黙に耐えきれずに話を切り上げようとすると、被せるように美沙希は呟く。

 驚きながら美沙希の方を見やると、じっと私の方を見つめる彼女と目が合ってしまった。

「え、っと、なんでしょうか」

 不意に合う視線にドギマギしながらいい案とやらの説明を促すと、美沙希は視線をコンロの方に戻してその口を開いた。

「私と付き合えばいいんじゃない?」

 は?

 戸惑う私をよそに、美沙希は私のホルモンをつつき始める。

 あまりのショックに返答もできないまま、飄々とした美咲の言葉が胸に響く。

「いや、ちゃんと好き同士で結ば——」

「好きだよ」

 慌てて浮かんだままの言葉にあっさりまた言葉を被せられる。

 え?

「女が好きでもない人とホルモン呑みしないでしょ」

 美沙希は私のちょっと焦げたホルモンを食べる。その顔はほんのり赤かった。

「あと、好きじゃない人の世話、私は焼かないよ」

 美沙希は綺麗に焼けた自身のホルモンをこちらの皿に置く。

 えっと、えっと?

 酔いが回ってきたのか、コンロの火に当てられたのか、やけに顔が熱い。

「それで、美桜はどうなの?」

 突然迫られる答えに、私は勢いに負けてしまった。

「よろしくお願いします……」

 美沙希が焼いてくれたホルモンは美味しかった。

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現代を生きる百合短編集 園田庵 @2002614

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