フィニストとカチューシャの遭遇

「やったぞミスキー君」


 フィニストがウクライナ軍の後方を破壊する姿を見てモーリェは叫んだ。

 後ろのロシア軍将校も久方ぶりの勝利に喜んでいた。

 フィニストの設計コンセプトは、迅速な前線突破と後方の破壊だ。

 高速で移動して前線を突破、敵が対応する前に後方部隊を撃破する。

 勿論、敵戦車に接近して撃破する事も出来るがそれは行きがけの駄賃だ。

 後方を破壊して戦車を動けなくするのが一番の目的だった。


「ところで、ネットの方はどうだい」


「こちらも予定通りです」


 ミスキーは外国報道機関のライブ映像を見せた。

 ウクライナ軍に従軍しているクルーで、丁度作戦部隊に参加していた。

 攻撃の様子を映していたが、フィニストが攻撃する瞬間を報道し、ウクライナ軍の内部で盛大な爆発が起きる様を映し出していた。


「上出来、上出来」


 モーリェは嬉しそうに言う。

 フィニストを投入した理由は、外国に映像を撮られること。フィニストがウクライナ軍を撃破しその能力の高さを、モーリェ達の技術を見せつける事だ。

 危険を冒して後方を攻撃させたのも外国報道機関のクルーがいる場所を選んでのことだ。

 モーリェ達の目的は達成された。

 しかし、モーリェはまだ納得していなかった


「あとは彼女達が来てくれるかな」


 誕生日を楽しみにする子供のように楽しみにしている子供のような表情を見せて言うモーリェにミスキーは不安を抱いた。


「課長、もう十分です。これ以上の攻撃は不要で撤退させるべきかと」


 今回の目的はフィニスト、モーリェ達の技術力の宣伝。

 成果を上げた以上達成された。

「何を言っているんだい、これからじゃないか」


「しかし、万が一、フィニストが撃破されたら」


 残って戦い、万が一敗れたら、フィニストの評価は大下落だ。

 ここは勝ち逃げするべきだ。

 ミスキーの判断は妥当だった。


「まさか、君はフィニストが負けると思っているの?」


「いえ」


 モーリェの問いにミスキーは曖昧に答える。

 彼女達、大祖国戦争の遺物T34を操るウクライナの少女だ。

 通常なら、そんな骨董品相手に負けるわけがない。

 ミスキーもそう結論づけていたが、不安が頭をよぎる。

 先の一件もあり彼女達が勝つのではないかと思ってしまう。


「杞憂だよ。もっとフィニストを信じろ」


 モーリェは自信満々にキラキラした笑顔で言ったがミスキーは背筋に悪寒が走った。

 目が笑っていなかった。

 いやとびきりの笑顔だが、目は狂気で満ちていた。

 フィニストが活躍するのを信じているのではなく、彼女達がフィニストをどう撃破するか楽しみで仕方の無い表情だった。

 その狂気にミスキーは怯んだ。

 何とか諫めようとした時、ウクライナ軍に新たな部隊が、到着した。

 それはカチューシャ率いる、義勇部隊だった。




「まさか突破されるなんて」


 レオパルト2がロシア軍の新兵器により突破されたと聞いた時、まさかと思った。

 だが、戦場に絶対はない。

すぐに駆けつけるように命じられ出撃。

 機動力のあるカチューシャのT34だけ先に着いた。


「酷い有様ね」


 盛大な暖炉になっている集積所を見てカチューシャは愕然とするが、すぐに周囲を警戒する。


「見つけた」


 高速移動する敵の兵器を見つけて、カチューシャは様子を見る。


「! 気づかれたっ!」


 カチューシャのT34に気が付いたフィニストは、T34に接近してくる。

 ミスキーの反対を聞かずモーリェがT34を攻撃するように命じたからだ。

 そして、フィニストは距離を詰めると、すれ違い様にT34へRPGを放ってきた。


「回避!」


 発射の瞬間、カチューシャが回避を命令。

 命中寸前で躱した。

 カチューシャの右横を横切った時、噴煙が少し髪を焼いたが、気にせず、フィニストを見つめ続けて観察する。


「少し浮いている。ホバークラフトね」


 部隊に参加してから兵器の知識は多少あった。

 旧ソ連の大型揚陸用のホバークラフトについても知っていた。

 実物は初めて見たが、驚いてもすぐに対策を考える。


「榴弾装填! 狙いが付き次第、主砲発射!」


 命じるとすぐに撃ってくれた。

 だが、フィニストは発砲すると急に方向転換して、避けてしまう。


「早すぎます! 狙いが定まらない!」


 砲手が緊迫した声で言う。


「拙い! 接近してくる」


 そしてフィニストはカチューシャ達に近付いていった。

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