リアクティブアーマー

 戦車は、敵の砲弾を貫通させないために装甲を厚くしていった。

 だが、装甲を際限なく厚くするとその重みで動けなくなる。

 そこで、装甲の重量以上の防御方法を各国は研究し、到達した技術の一つが、リアクティブアーマーだ。

 板状の爆薬を敷き詰め、砲弾が命中すると自爆。

 爆発で砲弾の勢いを削ぐ、あるいは逸らそうという方法だ。

 APDS弾にもある程度の効果があるとされる。

 T34のAPDS弾ではT72の背面装甲を貫くのでようやくなのに、リアクティブアーマーがあっては貫通できるか疑問だ。

 必殺のAPDS弾が貫通しなければ、反撃されカチューシャ達はお終いだ。


「お願い……」


 カチューシャは、祈るように呟いた次の瞬間、APDS弾はT72の装甲に突き刺さり、貫通していった。

 内部を貫き通し、弾薬庫に引火、爆発した。

 砲塔が空高く吹き飛び、長い時間をかけてようやく地面に落ちた。


「……撃破……出来た……」


 リアクティブアーマーが不良品だったのか、爆発しなかった。

 おかげで貫通し撃破することが出来た。


「でも、どうして……」


 リアクティブアーマーが作動しなかった理由と、リアクティブアーマーを付けた戦車がいたかどうか。


「リアクティブアーマーを付けた奴はいなかったはず」


 あれだけゴテゴテと板を付けていたら遠距離でも目立つので絶対に目立つ。

 その答えをカチューシャは背後のエンジン駆動音でしった。


「もう一台いたか!」


 リアクティブアーマーを付けていないT72が背後に現れた。

 先ほど見つけた奴だ。

 補給の為か、他の援護の為か離れていたようだ。

 だが、そんなことはどうでもよい。

 自分たちに向けて主砲を旋回させている事が問題だ。


「装填! 旋回!」


 急いで、砲塔を旋回させる。

 砲手の疲労を減らすために強力なモーターを付けているが、発電能力の限界から出力が低く旋回が遅い。

 T72の方が旋回が早い。

 狙われる。

 砲口がカチューシャに向いた瞬間、上空へ上る一筋の煙が見えた。

 上空で急反転し、地上へ向かったと思うとT72へ向かって飛び込んだ。

 砲塔を貫通し、弾薬庫へ飛び込み誘爆。

 載せていた砲塔を、これまでのようにビックリ箱のように空高く放り投げた。


『命中! 間一髪だったな!』


 イェーガーの声が響く。

 陣地を奪回してすぐに展開しジャベリンを放ってくれたようだ。


「無茶をするわね」


 敵の歩兵が残っている可能性もあるのに、不意に自動小銃の一連射か、手榴弾をミサイルの準備中に放り込まれれば、纏めて殺されてしまう。


『心臓を捧げているんだ! これくらいわけない』


 なんとも頼もしい言葉にカチューシャは苦笑するしかなかった。


「カチューシャよりプラウダ全部隊に通達。敵の戦車を撃破。周辺、敵増援部隊に注意しつつ残敵掃討と味方の陣地再構築の支援に当たれ」

『了解!』


 油断したが、まだ戦いは続いている。

 カチューシャはロシア軍の方向を注意しつつ、残敵掃討に当たった。

 やがて味方の増援部隊が到着し、陣地の復旧作業と、撃破した車両の回収が始まった。

 破壊したが、使える部品があるかもしれない。

 ウクライナ軍でもT72は使っており、防御用に使える。

 出来ればカチューシャ達に回して欲しいが、正規軍に回されてしまう。

 恐らく来ないだろう。


「けど、どうしてリアクティブアーマーが作動しなかったのかしら」


 疑問だったのはこの一点だ。

 もし正常に作動したのならT72の装甲を撃ち抜けなかったハズ。

 その答えは回収部隊が答えてくれた。


「カチューシャ隊長。このT72のリアクティブアーマー、布が詰められていました」

「はあ?」


 思わず間抜けな声を上げて仕舞った。


「どういうことよ」

「多分ですけど、横流しするために中の爆薬を抜いていたのでは? あるいは数をごまかすために、取り繕うために用意したものを取り付けていたのかも」

「何処にでもあるのよね」


 小遣い稼ぎのために、ソ連崩壊の混乱の中、家族を養うため爆薬をマフィアなどに流していたのか、材料が手に入らなくて代わりに布を詰めたのだろう。

 そんな物を支給されて装着していたとは、この戦車の乗員も気の毒だ。

 思わずカチューシャは聖句を読み、十字を切る。

 熱心な信者ではないが、節目節目でミサには行くので多少は信心深い。

 こういうときは覚えておいて良かったと思う。


「はあ、やるせないわね」


 もし、ロシアに残っていたらこの戦車に乗っていたのだろうかとカチューシャは考える。

 そしてT34に撃破されたとしたら、非常にやるせない。


「これも運命かな」


 ロシアとウクライナの間に生まれて片方を選んだ結果、カチューシャは今ここにいる。

 それだけが全てだった。


「カチューシャ、撤収準備終了」


 ノンナが向かえに来てくれた。

 カチューシャは友人に笑みを浮かべ、部隊に命じた。


「カチューシャよりプラウダ全部隊へ。これよりキャンプに帰還する。私たちの家に帰るわよ」

「了解!」


 全員の返事を聞いてカチューシャは、笑みを零しながら帰路に就いた。

 自分が守ると決めた黒い大地をT34で走って。

  

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