第26話


「勃ってなかったっすもんね……舌ピ、エロくなかったっすか……」


 妙な場所にショックを覚えている様子だがとりあえず一息付けたから良かったとしよう。

 まず冷静に話し合いたい。


「えっと……沙羅が俺のことを知ってる理由もわかったけど、ちょっと急過ぎなかったか?」

「そうっすね。もっと魅力をあげてから勝負するべきだったっす」


 そうじゃないような……ただどこからつっこめばいいのか……。


「この辺は元々好きだったんすけど、やっぱちょっと引かれちゃうじゃないっすか。でも先輩、この姿になってからも普通に挨拶してくれたし、嫌な顔もしなかったのがうれしくて……」


 シュンとする沙羅を見ていると罪悪感みたいなものが湧いてくる。


「いつもの子と一緒だったんでそういうのは諦めようと思ってたんすけど、今日別の子もいたし自分もいけるんじゃないかとか思っちゃったす……自分の思い上がりが恥ずかしいっす……」


 頬を赤くして視線を逸らすんだが、問題はそこじゃないんだよな……。


「えっと……別に沙羅に魅力がないわけじゃないんだけど」

「じゃあヤってくれるっすか?!」

「違う! 落ち着け!」


 再び肩を掴まれて慌てて放させた。

 油断も隙も無い。


「まずそもそも、俺はどっちともそういう関係じゃないし、沙羅ともそういうことをする関係ではまだないと思う」

「いつかはいいかもしれないってことっすか?」

「まあ、可能性としては……」

「律儀っすね。別に自分、身体だけでいいっすよ?」


 胸元を見せつけるようにパーカーを下ろしながら言ってくる。

 一瞬目で追ってしまったが慌てて目を反らした。


「……まあ、その反応ってことはまだ可能性はあるっぽいっすね」


 スッとパーカーを上げながらそんなことを言われる。

 色々悔しい……。


「とはいえ今日はこんな時間にいきなり来て迷惑かけて申し訳ないっす。挽回のチャンスが欲しいんすけど……今日の子、ほんとに本命じゃないんすか?」


 真剣な表情でこちらを見つめてくる沙羅。

 目を反らせない不思議な圧があるというか、この質問はまっすぐ返さないといけないんだろう。

 そのうえで俺の口から出た言葉は……。


「よくわからない」


 我ながら情けない話だが、これが嘘偽りない答えだった。

 ただその言葉を沙羅はあっさりと受け入れて……。


「なるほどっす」


 それだけ言って見つめてくるのをやめた。


「まあでも、あの子と関係が進むのは悪いことじゃないって感じっすよね? 自分でよければ手伝うっす。可愛い子だったしSNSとかもすぐ特定できると思うし」

「待て待てなんか怖い」

「そうっすか? でも裏垢とか知っといた方がいいじゃないっすか。好みもわかるし嫌なことはもっとわかるっす。地雷を割けてアプローチできるのは強いっすよ」


 謎の説得力。

 ただ……。


「そこまではいい」

「むぅ……じゃあ自分に出来るのはもう、夜の相手の実験台くらいっす。ハード目なプレイでどこまでやれるか試してもらって大丈夫っす。首絞めとか」

「それも違うだろ!?」


 本当に油断ならないな。

 いやまぁ、言われている内容は役得というか……もったいないことをしているような気もするんだがそうじゃない。

 そうじゃないと言い聞かせて……。


「たまに相談に乗ってもらえたらそれだけで助かるよ」

「夜のっすか?」

「そこから離れろ! 俺、そんなにこういう経験もないから女子目線は助かるというか……」

「経験がないのはよくわかるっす」

「失礼だな……」


 最近こんなんばっかな気もする。

 悲しいような……まあいい。


「とにかくもう遅いし、もう帰った方がいいだろ」

「そうっすね。デートの日の夜、別の女を泊めてたら最悪っす」


 本当にそうだ。


「家、送るか?」

「そこまで迷惑かけられないっす。それに原チャっすから」

 じゃあ追いつけないか。チャリしかないしな……。

「あ、じゃあ連絡先だけ交換して欲しいっす。相談もこれがいいと思うんで」

「ああ」


 そう言って携帯を出し合って、チャットツールの連絡先を交換し合う。


「じゃ、またっす」


 本当にあっさりした様子で、沙羅は帰って行った。

 嵐のようなやつだ。


「というかこれ……」


 ベッドの上には結局、使う予定もないゴムが鎮座することになり、隠し場所に難儀することになったのだった。


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