第23話 突然隠れろって何?

「全員分用意が出来た……だと?」


 ウルズさんが驚きの表情を浮かべる。


「ハルカちゃん、本当にいいのか? 自分に使わないのか? ……これを他の場所で売ればものすごいお金を手に入れられるんだぞ?」


 私は首を横に振る。

 そもそもこの耳は千切れたわけじゃないし尻尾だってもとからない。自分には使う必要なんてないから。

 苦しんでいる人を一人でも減らしたい。それが私の目指すお医者さんだし、これでカナタ達が追い出されなくてすむなら、――悲しまなくてすむなら全力でウルズさんに使ってもらいたい。


「そうか。わかった。なら、俺は全力で答えないとな!! スク、もういっちょ行ってくるぜ。今日中に全員治せば順番がどうのこうのもないだろ」

「気をつけて行って下さい」

「おぅ!!」


 解毒薬の瓶を二十個、回復薬を二十個、使わなかったあまりを数本引っさげてウルズさんはでかけていく。袋に入れて担いでいく様はさながらサンタさんだ。


「皆、ちゃんと治るかなぁ」

「ハルカちゃん、今日はもう疲れたでしょう? カナタも、ミラもおやすみしましょう」


 スクさんに背中を押され部屋に戻される。心配で眠れそうにないけれど、やりきった疲れからか横にはなりたかった。


「カナ兄、ボクも一緒にそっちで寝ていい?」

「ん、ミラも一緒にか。ハルカはいいか?」

「うん、大丈夫だよ」

「母ちゃん、ベッド引っ張っていっていいか?」

「じゃあ、用意しようか」


 三人で寝る準備をする。アルラを見てスクさんが驚かないか心配だったけど、彼女は人の体を花びらの中に隠していた。こうなるとちょっと、いやだいぶ大きい花にしか見えない。


「「「おやすみなさい」」」


 三人揃ってスクさんにおやすみの挨拶をしたあと各自、自分のベッドへとダイブする。


「無事終わるかなぁ」

「大丈夫だって、父ちゃんも言ってただろ」

「そうそう。ハルカちゃんも疲れてるでしょ。今日はゆっくり寝なよ」

「うん、そうだね」


 全部上手くいって、皆元気になって仲良く暮らしていけるといいな。

 朝起きたら、ウルズさんからいい報告が聞けますようにと祈りながら目を閉じた。


 ◇◇◇


「ハルカ、ハルカ!」

「んー、何? カナタ」

「ハルカちゃん、急いで」

「え、え?」

「ライムの中に隠れるんだ!」

「え、どうして?」

「ごめんね。説明してる暇がないんだ。はやくライムに言って中に……」


 気がつけばライムの中にいた。


「何が起きたの?」


 ライムは答えてくれない。外の様子を確かめる手段もない。今すぐ出れば話ぐらい出来るんじゃないかな。


「……え、どうしてボクまで?」


 外に出るためのライムを突っつく場所。そこに手を触れようとした時、中にミラが入ってきた。


「ミラ! どうしたの? 何があったの?」

「カナ兄が変な物音がするって。嫌な感じがあるから隠れて欲しいって。ボクも外にいるって言ったのに、ライムの中でハルカちゃんを止めておいて欲しいって」

「じゃあ、ミラも何もわからないんだよね。一緒に外に出よう」

「だ、ダメだよ! ハルカちゃんはここにいないと。ボクだけ出るから、出る方法教えて」


 私は考える。


「ライム、出して」


 ライムに確認するが出してくれる様子はない。つまり外で何かが起きようとしている。

 私だけ出ていってもやり方を見たミラが出てくる可能性がある。

 ミラは元気になったといっても病み上がりだ。走り回ったりする力だってあるかどうか。ミラを連れて、何かに対応するのはしないほうがいい。だって、私はお医者さん。カナタみたいな跳躍力や攻撃、反撃する力はないんだから怪我を予防してあげなきゃ……。


「少しだけ待とう。きっとすぐ出られるよ」


 ウルズさんだって帰ってくるはずだし、大丈夫。大丈夫だよね。

 外に出たい衝動を抑えるために、こぶしを握りしめているとミラが上からぎゅっと手を握ってくれる。温かい手だ。


「そっか。カナ兄にはこの役が出来ないんだ。今のボクしか出来ない。なら、やらないとだね。ハルカちゃん、一緒に待とうよ」


 ミラの手が震えてた。それが怖さからくるものなのだろうと思って私はミラをぎゅっと抱きしめた。彼女も同じように手を回して抱きしめ合う。

 はやく、出られますように。それと何事もありませんようにと願いながら。

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