第6話

シャルルに無事解放されて、部屋に戻る。

何だかとても疲れたよ。

何もしていないというのに。

てか最近皆様子がおかしい気がするんだよな。

なんだか雰囲気が変というか、怖いんだよね…

怒っているとかそんな感じでは無さそうだけど、なんだかゾッとする時がちょくちょくある。

気のせいって言われるとそれまでかもしれないけど。

まぁいいや。

ちょっと疲れたしこのまま少し仮眠したい所だけど、死んだふり作戦の事考えないといけないんだよねぇ。

死にたくないからね。


さて、作戦を行うにあたってどうやって撃墜されたかを偽装するのかを考えないといけない。

サッと後も残さず姿を消してしまえば疑われるのは確実だから。

なので交戦中に撃墜等、証拠を残しておいた方がいいだろう。

それならまだ信憑性はある。

ただ、通常だと味方機が居るので難しいだろう。

脱出がバレればその場で捕まるだろうし。

元の部隊に戻されてしまうだろう。

ならばどうするか。


…機体故障を理由に離脱して、その後交戦して撃墜された跡を偽装すればいいのではないだろうか?

自分の頭だとそれぐらいしか浮かばない。


…とりあえずそれでいっか。

うん。

いいや。

なんか雑だけど。


よし、後はお金をどうするかだな。

自分の口座にはそれなりにお金は溜まっている。

だけど死んだ後では口座から引き出せないし、出せたところで不正を疑われて捜査されて捕まってしまうだろう。

そんな間抜けな事はしたくない。

出撃前に全額降ろすというのもあるが、これもフツーに怪しい。

フツー全額降ろすことなんて滅多にないもんね。

ただ、やるとしたら何かしら理由を付けなければならない。

と言っても理由なんてねぇ…。

欲しいものがあるなら出撃後に降ろせばいい話だし、プレゼントだといっても全額ならそれなりに高価な物を買わないと怪しいし…

何処かに食べに行くとしてもねぇ…


いや、食べに行くはありかも。

自分以外全員上流階級様だし、それなりに高いものを食いに行く体にすれば案外行けるんちゃうか…?

誠にエリス、結衣にシャルルと一緒にご飯に行くならそれなりに金額はすると思うし。

そうだな、そうしよう。

出撃前に食いに行って、その後銀行に戻さずそのままにしておけば大丈夫でしょ。

うん、それで決まりだ。


…ホント適当な気がするが、まぁいいや。

後は行く日を決めて皆に連絡して…


ピロンッ


「ん?」

携帯端末から無機質な音が鳴る。

何かの連絡だろうか。

端末を起動し、確認してみると…メッセージが届いていた。

差出人は…〔東雲 誠〕となっている。

昨日言っていたことだろうか?

とりあえず内容を見てみよう。

そう思いパスワードを解除しメッセージアプリを起動する。


『お疲れ様。今大丈夫かい?ちょっと話があるんだけど、僕の部屋まで来てくれるかな?』

メッセージにはこう書かれていた。

話がある…か。

なんだろう。


『わかった、今から行く』

ポチポチと簡単に返信内容を書き、送る。


『ありがとう。まってる』

返事はすぐに帰ってきた。

内容を確認し、すぐに支度をしてまた部屋に出る。

…先ほどと同じく上着を羽織っただけだけど。

まぁ遠くいくわけじゃないし、ね?




―――――――――――――――――――――――――――――


誠の部屋は自分のフロアの一個上の階だ。

階段を上って少し歩いた位置にある。

割と近いこともあり、度々遊びに行ったりすることも。

まぁ同じ隊の中で唯一の男だしね。

自然と仲良くなってしまうものさ。

…まぁあんまお近づきになりすぎると厄介な事になるだろうが。


それはともかく、今は誠の部屋の前。

何も緊張することもなくノックせず入室する。


「誠ー、居るかー?」

奥に向かって呼んでみる。

すると扉が閉まっている部屋からトタトタと歩いてくる音がする。

そしてそのまま奥の扉が開き、


「…いつも言ってるけど、ノックしてよね」

ちょっと不機嫌な誠がヒョコっと出てくる。


「まぁいいじゃないの、いつもの事なんだから」

「…そのいつもの事で悩まされるのは僕なんだけどね」

そう言いながらジト目でコチラを見つめてくる。

ちょっとカワイイ。


「ごめんごめん、次から気を付けるよ」

「前もそんなこと言ってたよね、まったく…」

「そうだっけ?」

「そうだよ」

言ったかなそんな事。

全く身に覚えのない。


「…覚えてないんだね」

「そうですね」

「はぁ…まぁいいや、中に入ってよ。ここじゃ話も出来ないし」

「ありがとう、おじゃましまーす」

何故かため息つかれたが、とりあえず誠の部屋に入れてもらえた。

玄関で靴を脱ぎ、短い廊下を歩くと直にリビングに着く。

白い壁紙に黒いカーテンと、シンプルに飾られた部屋で、漫画や雑誌などといった物はこの部屋には置いていない。

テレビやテーブル等極力必要なものしかない印象だ。

誠自身もそう言ったのをあまり読まないと言っていたのでそれもあるのだろう。

ただ、所々に置いてあるクッションが明るい青やらピンクやらで、そこだけやたらと可愛らしい。

普段の優しいイケメンっぷりから考えるとギャップがすごい。

…しかし相変わらずこっちの部屋は広いなぁ。

自分の部屋の1.5倍はありそうだ。

しかも別で寝室もあるんだよね…

自分はワンルームだというのに。


「…あんまりじろじろ見ないでもらえるかな?」

「ん?あぁ、ごめんごめん」

誠にまた注意されてしまった。

確かに人の部屋をジロジロ見るのはあんまり良くないかも知れないな。

自分は気にしないタイプだけど、気にする人は気にするもんな。

気を付けよう。


「全く…あ、好きなとこ座っていいよ」

「ありがとう、じゃあこの辺で」

好きなところと言われたので、適当にテーブルの前に座る。


「はい、クッション」

「ありがと…う?」

誠は可愛らしいクッションを持ってくると、何故か自分の隣に座った。

なんで?


「?どうかしたかな?」

「いや…なんでもない」

なんでもなくは無いんだけど。

あー、誠から甘い香りがフワッと…

なんでこんないい香りすんでしょうね。


「で、話したい事って何?」

「いきなりソレを聞くんだね…」

「まぁそれが目的だし」

「そうだけどさ…」

その為に来たんですよ今日は。


「言いづらい話だったか?」

「いや…そうじゃない…けど」

「そっか、まぁもし言いづらい相談系とかなら言いやすい時に言ってくれていいぞ」

無理して言わせたくないしね。

そういうのは言いたいときに言ってもらいたいから。


「ありがとう。でも、大丈夫だよ」

そう言って誠は一度深呼吸する。

なんか緊張している様にも見える。


「あの…雅人、もしよかったらなんだけど…」

「…うん」

「…その…ね…?」

誠が下を向きモジモジしながら

そんな言いづらい事なのか。


「…その…僕のお父さんと、会ってくれないかな…?」

「うん…うん?」

お父さんと会う?

誠の?


「だめかな…?」

いやダメでは無いんだけどさ。

「いや、えーっと…なんで?」

理由を聞かせてくれ。


「その…お父さんがね?学校で上手くやれているか心配らしくてね?友達一人ぐらい紹介してくれって言ってきてだね?」

「あー…なるほど…」

友達、とな。

確かに自分と誠は仲がいいと思う。

結構つるんで遊んだり話したりとかしているし、何かと一緒に行動していることが多い。

親友と言っていいぐらいには仲が良い自覚はある。

しかし、だ。

親に紹介はちょっと問題がある。

何故ならば。

彼の父は軍の司令官をしている人なのだ。

階級は相当高かったはず。

しかもたたき上げの軍人で、前線に居た頃は鬼の星川と呼ばれ恐れられていたそうだ。

そしてまた息子を溺愛しているという噂がある。

そんな人に平民があいさつに行く。

下手な事を言ってしまったら殺されるかもしれん。

勘弁してほしい。

ホントに。


「…理由はわかったけど、他の人ではいけないのかな…」

「雅人がいいんだ…」

「なんでそんな…」

「だめ?かな…」

「うぐ…」

誠がうるんだ瞳でこちらを見つめてくる。

くそ、カワイイなオイ。

ホントに男かいなコイツ。

…まぁ、いつも世話になってるし、断るのもアレだよな…


「…わかったよ。行くよ」

「…!ありがとう!!」

誠は嬉しそうに抱き着いてくる。

身体の柔らかい感触が…

ってなんでこんな意識してんだか。


「ちょ、抱き着くなって」

「いいじゃないか、僕と雅人の中だろう?」

「いやまぁそうだけど…」

「でしょ?だから別に問題ないじゃん?」

「まぁ…」

あるにはあるけど。

男同士のイチャイチャはちょっとね。

というかコレもバレたらシャレにならん


「でも…」







「また他の女の子と会ってたんだね」

部屋の温度が急に下がる。

あれ?なんか選択肢ミスった??


「いや…確かに会ったには会ったが」

「そうだよね、におうもん」

とりあえず正直に言ってみたけど状況変わらんなこれ。

どうしたもんか。


「しかも二人だね…エリスとシャルル、かな?」

しかも当てられたよチクショウ。

なんでさ。


「そう…だけど」

「何してたのかな?一体」

何もしてないんだよなぁ。


「ばったり出会って話してた」

「それだけ?」

「それだけ」

「ふーん…」

なんか疑われてるな。

どうしてだ。

ホントに何もしていないというのに。


「…わかった、今回も信じるよ」

信じるも何もホントの事しか言ってないんだが

「…ありがとう」

「いいよ、別に。どうせ譲らないし」

「何が?」

「いや、こっちの話だよ。気にしないで」

気にするわ。

怖いんですよ何かありそうで。


「…わかった」

「ありがとう。さて、時間もあるし良かったらゲームでもするかい?」

「そうだね、そうしようか」

誠の誘いに乗り、TVゲームを起動させる。

早くこの空気を換えたくて。

…どうして誠がこんな表情する様になってしまったんだろう。

前はもっと明るく笑っていたのに…

いつからだろうか。

考えても考えても答えは出ない。

そのうち問題を忘れようとするようにゲームに集中していった。






「嘘つき」

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気付いたらリアルロボット世界に居てパイロットになっていたんだけど、死にたくないから死んだふりして逃げようと思うんだ タルロ @talro

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