第4話

ふと目を開けると窓から明るい光が差し込んでいる。

…朝になっていた。

どうやら寝てしまったらしい。


「飯も風呂も入らずに寝ちゃったか...」

時計を見ると、時刻は午前6時を示していた。

...凄い早起きしてしまったな。

とりあえずゆっくりと身体を起こし、身体を伸ばす。

………何だか身体から甘い香りがするんだが。

あれ?何の匂いだ…?

何だか落ち着くが、何処かで嗅いだことあるような…


とにかく、飯食って風呂に入ろう

ベットから立ち上がり、キッチンへ向かう。

食パンぐらいはあったはずだ。

寝起きの覚めていない頭でフラフラと戸棚に向かい中を漁ると、食パンと蜂蜜を見つけた。

やっぱりあったわ。

今日の朝飯はこれだね。

食パンをトースターに入れ、焼いている間に洗面台で顔を洗う。

冷たい水のおかげで徐々に頭が覚めてくる。


ガチャッ…


「ん...?」

なんか扉が開く音が聞こえたような...

気のせい、かと思ったが、人の気配がする気がする。


「ちょっと確認するか...」

恐る恐る洗面所の扉を開け、玄関の方を覗くと……







スラリとしたモデルのような身体の見覚えのある長い赤髪をゆらゆらと揺らしながら、そろりそろりと歩くエリスと目が合った。


…なんでここにおるん?

「えっと......」

「.........おはよう?」

なんで疑問形なんだよ。


「.........おはよ。隊長に連絡するね」

「ちょっと待って!」

携帯端末を取り出すと、慌ててエリスが止めにかかる。

そのままガッチリと手を握られる。

女の子特有の柔らかい手が…って


「いててて!!ま、まって!!!いてぇ!!!」

ちょっと握力強すぎませんかね!

「お願い!話を聞いて!!」

「わかった!聞くから!!」

「ホント!?ホントに!?!?」

「ホントだって!」

そう言うとエリスはすっと手を放してくれた。

めっちゃいてぇ...手赤くなってるやんけ。


「いてて……で、何の用さ」

「何の用って、その、様子を見に来たのよ!」

「様子?」

はて、様子とは。


「昨日怒られてる時から様子がおかしかったじゃない」

「そう?」

「そうよ!それが気になったから来たのよ!」

そっかー、隊長だけでなくエリスにまで心配をかけてしまったかー。


「そうか、心配してくれるのはめっちゃ嬉しいんだけど」

「…素直に喜ばれるとキモイわね」

「なんでだよ」

感謝を伝えただけでキモがられたんだけど。


「いや、そうじゃなくて、なんでこんな朝早くに来てんだよ」

「…いや、その……」

なんかごにょごにょ言うとるな。


「もしかして #盗み?」

「違うわよ!その…えっと……恥ずかしかったの!」

エリスが何故か真剣な顔で白状する。


「恥ずかしい?」

「そ、そうよ!他の人に見られるのが!」

「そ、そうか…ありがとう」

「う、うん…」

急にしおらしくなるな。

可愛く見えるだろチクショウ。


「…恥ずかしいならメールでもよかったのに」

「…あんた、ダメでも『大丈夫』って送るじゃない、だから来たのよ」

なんでバレたんよ。


「…ごめんて」

「たくもう…しっかりしなさいよね…って、ちょっと待って」

突然エリスが近づいて来て、俺の匂いを嗅ぎ始める。


「ゆ、エリス!?なにして」

「臭いわ」

「…え?」

…臭い、とな。


「臭いわ、貴方。風呂入ってきなさい」

「え、うそ、そんなに」

「そうよ、早く入ってしっかり洗い流してきなさい」

「いやでも朝飯まだで」

「いいから!」

「はい!!」

エリスに怒鳴られて、速攻で風呂場に向かう。

うっそ…昨日風呂入らなかっただけなのにそんなに匂うの…?

…まぁ、ここまで強く言われるってことはそうゆう事だよな。

ささっと入ってこよう。


「あ、服を」

「アタシが準備しとくから早く行きなさい!」

そう言われて風呂に叩き込まれた。


―――――――――――――――――――――――――――――


風呂から出ると脱衣所に着るものが準備されていた。

ご丁寧にきれいに畳まれて。

ありがたいですね。


しかし、知らない間になんか小さい痣が増えてたんだけど。

身に覚えがなさ過ぎて怖い。

今度病院行こうかな?


…なんかTシャツからすんごいいい香りがするわ。

こんな匂いの柔軟剤持ってないんだけど。

なんだろ。

てかパンツもあるわ。見られてしまったのか。


とりあえず出来るだけ気にしないようにして部屋に戻ると、エリスが椅子に座り待っていた。

朝食付きで。


「あら、早かったわね」

「まぁ男の子ですから」

パンツの件を気にしないようにしながら彼女の向かい側に座る。


「朝食、作ってくれたんだ」

「そうよ、途中みたいだったから、邪魔しちゃったお詫びにね」

「そんな気にしなくてもいいのに」

「別に、作りたかっただけだから。簡単なものだけだし。」

そう言いながらも、テーブルにはトーストしたパンに目玉焼き、ちょっとしたサラダと並んでいた。

簡単にしてはちょっと手が込んでませんかね…?


「ありがとね、作ってくれて」

「…っ!別にワタシが食べるやつのついでに作っただけだから!」

「そっか」

そう言いますが、彼女のテーブルにはサラダしかありませんけどね…?


「でもついででも嬉しいよ。ありがとう」

「ま、まぁ栄養失調で倒れられたらこっちが困るから!」

顔を赤くしながらそう話す。

いや、うん、まぁいいや。


「ほいほい、じゃあいただきます」

目玉焼きをパンに乗せ、口の中に入れる。


「あ、美味しい」

焼き加減も良く、塩コショウが丁度いい感じに掛けられていて、とてもおいしい。


「口に合った様ね。よかった」

「うん、ホント美味しいよ、ありがとう」

礼を言いながらどんどん食べ進めていく。

自分好みの味付けでとても食べやすい。


「いいのよ別に。...じゃあ、私も頂こうかしらね」

そう言いながら彼女は自分のご飯に手を付ける。

…なんだろう、いつもご飯は一人で食べていたから、誰かと一緒に食べるのが久しぶりでちょっと緊張するな。

しかもエリス可愛いしな…ちょっと厳しいところあるけど。


「…?どうしたの??」

やべ、エリスに気付かれた。


「いや、特には無いけど…。誰かと一緒に食べるの久しぶりだなって」

「あら、そうなの?いっつも一緒に居る結衣と食べてるのかと思ったわ」

「そんな事無いよ。食事はいつも一人」

何だろうな…言っててちょっと悲しくなるな。

別にボッチなわけじゃないんだけど…いや、ボッチだわ。

友達いねぇわ。

辛くなってきた。


「そっか。…じゃあ、今度からアタシが一緒に食べて上げようか?」

「え?」

予想外の言葉に、思わずエリスの方を見る。

心なしか彼女の頬が少し赤い気がする。

でも流石に来てもらうのはちょっとなぁ。

朝ぐらいは一人でゆっくりしたいし。


というか、二人っきりがそもそもマズいんだよな。

…エリスはアームズを製造している企業の一つ『クロフォード社』の社長の娘なのだ。

クロフォード社はこの世界の中の三大企業の一つとして扱われており、掃除機や炊飯器等の家電製品からアームズ、ミサイルなど兵器までなんでも作る超巨大企業だ。

そんな彼女が何故こんな所にいるのかと言うと、彼女の適性値がとても高かったためと、宣伝目的だとか。

確かに学生でも活躍をすればニュースに名前は載るし、取材を受けることもある。

それが大企業の娘で、しかも可愛いとなれば嫌でも人気がでる。

そのためこの学園に在籍している。

…本音を言えば彼女の親は学園には入れたくなかったようだが。

因みに彼女は卒業後は企業に行くため軍には配属されない。

まぁそりゃそうだよねぇ。

可愛い娘を死地には送れませんわ。

いいなチクショウ。俺と変わってくれ。

尚、他の三人も大きいところ出身だったりする。

凡人は私だけです。

どおして。


…話がずれたが、そんな大企業の娘が毎日男と飯を食う。

相手は社長令嬢。

何かが起きると大変マズい。

…自分とのスキャンダルなんてでっち上げられたら殺されかねない。


「いや、別にいいよ。申し訳ないし」

「いや良いわよ、朝食作るのなんて一人増えても変わらないし」

「や、あの、来てもらうのも申し訳ないし…」

「敷地内じゃないの、そんな離れてないし別にいいわよ」

う~ん、引かないなぁ…

ストレートに言うのはちょっと気が引けるし…


「…一回考えてもいい?」

「いいわよ、アタシはいつでも大丈夫だから」

大丈夫じゃないんだよこっちは。

命に係わるんですよ。

わかってるんですか?


「ありがとう。じゃ、今度伝えるよ」

「わかったわ。いい返事期待しているわ」

期待されても困るんですけどね。


「ほいほい、わかりましたよ」

あー、悩みの種が増えてしまった。

何故こんな事に...


―――――――――――――――――――――――――――――


「~♪」

鼻歌を歌いながら彼と食べた朝食の食器を片付ける。

彼と一緒に居れる、話すことが出来る。

私と同じ時間を共有できる。

それだけで心が満たされる。

なんという幸福だろう。

このまま、ずっと居たい。

この空間が、一生続けばいいのに。

この世界が、私と雅人の二人だけになればいいのに。

そうなれば、雅人と永遠にいられるのに。

そんな妄想をついついしてしまう。

考えるだけで心が満たされる。

幸せになれる。


…でも、彼を狙う奴がいる。

コソコソとマーキングなんてして。

ふざけるな。

彼は私のものだ。

私だけの、白銀 雅人だ。

あんたたちに、渡すもんか。

絶対に、渡さない。

彼の隣に居るのは、私だけだ。

私だけなんだ。


…彼は凄く優しいから彼女たちは勘違いしてしまったのよ。

その優しさを、私だけに向ける様に教えないといけないわね。

今はまだ、出来ないけど。

相手が厄介だから。

普通の人相手なら造作もないけど、どうしてこんな面倒な…


まぁ、いいわ。

私と彼には、あんな事があったんだもの。

あの時から、私と彼は強く結ばれてるの。

他の連中とは違うの。

誰も壊すことは出来ない位強く結ばれてるから。


でも、思わず嫉妬して彼にマーキング済みの服を渡してしまったのは失敗だったかしらね?

彼との関係に気付いた奴らがさらにちょっかい出してきそうね。

…ただ、今日は彼が起きていたのが想定外だったわ。

起きていなければ、証を付けられたのに…



…証なんかなくても、負けない。

こんなに深く結ばれているのだもの。

負けるはずがないわ。


だから、ね。



「逃がさないわ。絶対」







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