第3話

部屋に戻った後、さっさと予備機使用申請書を製作し、そのままベットへダイブした。


「あー、マジ疲れた…」

居ないはずの改良型に襲われ、先生に怒られ、後輩にビビる。

途中から何だか情けない感じではあるが、それはまあ置いといて。

怒られる理由もわかっている。

毎回何かしらの理由で機体を損傷して帰ってくるからだ。

無傷で帰れば何も言われないのだろうが、敵さんの予定外の増援とか仲間を庇ったりとまあ難しい話でして。

結局どこかしらを損傷して帰る事がほとんどであった。

そんな事ばかりなので、怒られる事には慣れてしまったのだが。


「いつまでこんな生活続ければいいんだか...」

シミ一つない天井を見ながらついボヤく。

アームズに乗り、敵を倒す。

書くと簡単だが、毎回命を懸けて任務を遂行しているのだ。

このまま卒業すればもれなく軍隊行き。

更に死亡率の高い現場にぶち込まれてしまう。


「何としてもそれだけは避けたいんだよな...」

ロボットを操れる世界に来たからと言って、いつ死ぬかわからない危険な仕事をしたいわけではないんだ。

安全な仕事をしたい。

死にたくない。

それだけなのだが。


「まぁ難しいか…」

現実問題、簡単にはやめられないのだ。

学園に入ったら最後、余程のことが無ければ基本的に退学はない。

そのまま軍隊に進むことになる。

上手くいけば企業に雇ってもらう事もできるが、企業の拠点防衛などで結局戦場に飛ばされる事が多く危険なのはあまり変わらなかったりする。


この生活から脱却するにはどうすればいいのか。

単純な話死と隣り合わせのアームズ操縦者をやめればいいのだが。

そう簡単に辞めることは出来ない。

操縦者が不足しているからだ。

パイロットになってしまうと、身体がボロボロになろうが精神が壊れようが機体に乗せられ、出撃させられる。

使い捨ての駒のようなものだ。

そんな使い方をされるから慢性的にパイロット不足が起きているのだ。

まぁ、神がかり的な操縦性で長く前線で生き残っている者や上層部に上がれるものの何人かはいるが...

まぁそんのは才能のある一握りの人材だけでして。


とりあえずは現状をどうするかだ。

ようは何とかして軍隊行を阻止すればいい。

とは言っても余程のことがない限り退学処分は受けられない。

病気になっても無理やり出撃させられるし。


脱走という手もある。

現に毎年何人かは命懸けの生活に嫌気がさして脱走する学生も何人かはいる。

しかし、脱走すれば全世界に指名手配される上に見つかれば再教育後、即最前線送りとなり死亡確定である。

そこまでして死期を早めたくない。

でもこれ以上危険な仕事はしたくない。

町で関係のない仕事をしたいだけだ。


だが考えても考えても良い案は浮かばない。

どうしたものか。

いっそ何かの間違いで死んだ事になってくれれば...



...ん?

死んだ事になれば?

もしかして、上手く死を偽装出来ればこの状況から逃れられる...?


そういえば、確かエリア外のスラムでは偽装の身分証明書を売ってくれるところがあると聞いた。

もしも脱走者だとバレれば重罪で一生まともな生活は出来ないだろうが、身分証が無ければまともに職に就けないし、家なども契約が出来ない。

だが身分証があればこんな事しなくていい生活が手に入る。

こんな生活とおさらば出来る!


「…やるか...」

相変わらず真っ白な天井を見ながらつぶやく。

そうと決まれば、早速計画を練らねば…

そうしようとベットから起き上がった時、こんこんと控えめなノック恩が音が響き渡る。

一体誰だろうか。


「誰だ?」

「私だ、入ってもいいか?」

扉に近付き声をかけてみると、声の主は我が隊隊長…〔東雲 誠〕であった。


「誠か、別にいいけど」

「ありがとう」

その言葉と共に扉が開き、誠が入ってきた。

身長が標準より少し低く身体つきもスラっとしているが、顔が中性的で男性としては少し長いショートぐらいの黒髪がすごく似合っており、さらに性格も優しく気配りも完璧という隙のなさ。

前世で何をすればこんないい子が出来上がるのだろうか。

そんなこんなで学内ではファンクラブが結成される程の美男子である。

尚、男性にもファンクラブ会員が大量にいる模様。


「どうしたんだ一体?」

「いや、ちょっと君の様子を見に来たんだよ」

「俺の様子?」

なんだろう。

誠とは入学以来同じ隊で動いており何かと周りのことを気にかけてくれることが多い。

またリーダーシップも高く、各隊員のフォローも完璧で先輩卒業後満場一致で隊長を任された経緯がある。

しかし、自分が何かしただろうか?

全く記憶にない。


「いや、なんだか今日は一段と元気が無いように思えてね」

「そう?」

そんなつもりは全然なかったんだが。


「そうだよ。何かあったなら相談に乗るよ?」

「…大丈夫だよ。ありがとう」

「…本当?」

誠が顔を覗き込んでくる。

男なのにかわいいなチクショウ。

というか相談に乗ると言われても特に何もないんだけど…


「本当だよ」

「…そうか、それならいいんだけど…」

「おう、気にかけてくれてありがとな」

誠にそんなに心配されるとは…

なんだか申し訳ない気持ちになってくるな。


「いや、礼を言う事はないさ。何もしていないしね。ところで」

誠が話しながらどんどん近づいてくる。

「…さっきまで、誰と、会っていたのかな?」

声のトーンはいつもの誠だが、急に雰囲気が変わる。

なんかマズい気がする…

「君から違う子の匂いがするんだよ。ねぇ、誰と会っていたんだ?」

どんどんと近づいてくる。

離れたいのは山々だが蛇に睨まれた蛙のようにその場から動けない。

何故だ。

何故何もしていないのにこんな状況になっているんだ。

「ねぇ、雅人」

そうこうしているうちに誠が胸元まで来てしまった。

なんか心臓もバクバクいっている。

あぁ、なんで男なのにいい香りが…


「答えてくれないんだね…」

誠は悲しそうにそう呟きながら胸に抱きついてくる。

ヤバい、女の子だったら惚れるわこれ。

男同士だから関係ないけど。

「いや、そーゆーわけじゃ」

「…結衣のにおいがする」

何故バレたんよ。


「…なに、してたの」

「いや、別に…」

「な に、し て た の」

抱きつきながら顔だけコチラを向ける。

見つめれられる瞳には、光が全くない。

誠が怒った時に良く起きる現象だ。

…なんで怒っているんだ彼は。


「…結衣とはただ自販機で飲み物を飲みながら話していただけだよ」

「…ほんとに?」

彼女の言葉に、何故か背筋がゾクッとした。

このままではマズい。

本能がそう告げている。


「ホントだよ。疑うなら結衣に聞いてみればいい」

「………」

無言で見つめてくる。

その顔が、何故だかとても怖くて。


「…わかった、信じるよ」

その言葉と共に誠の雰囲気が変わっていくのが感じられる。

「ありがとう、誠」

「いいんだ、それより疑ってごめんね」

「いや、それも別にいいんだけどさ…」

「…?」

可愛い感じで首を傾げてくる。

可愛いなチクショウ。

こいつホントに男か?


「そろそろ離れてくれないかな…?」

イケメンで性格もめっちゃいいから嫌悪感無いけど、抱きついたままだとあらぬ噂を立てられそうだ。

「え…?……あ…っ!!!」

自分の今の状況に気が付いたようで、顔を真っ赤にしながら勢いよく離れる。


「ご、ごごごごごめん!!!」

「いや、別にいいけどさ...」

手をバタバタさせながら珍しく取り乱している。

そんなに恥ずかしかったのか?


「べべ、別に誰にでもやってるわけじゃないからね!」

「え?ああ…うん……そっか………」

「ううぅ…」

かわいらしいうめき声をあげてこっちを見てくる

チクショウやっぱりかわいいな

やめろよ新しい扉開きそうだわ。


「なんで僕だけ意識して...」

「なんか言った?」

「な、何でもない!じゃ、じゃあそろそろ行くから!!」

急に立ち上がりバタバタと扉の前に行く。

そのままの勢いで出ていくのかと思いきや、扉の前で立ち止まった。


「...また、明日ね」

「…ん?お、おぅ」

そのまま扉を開けて出ていく。

明日…?

明日は何もなかったはずだけど。


まぁいい、特にやる事もないし、何か手伝うなら引き受けよう。

いつも世話になってるし。

そう思いながら、糸が切れたようにバタンとベットに倒れこむ

動こうにも力が入らない。

疲れていたのか、睡魔がどんどん襲ってくる。

あぁ…風呂に入らな……きゃ………



―――――――――――――――――――――――――――――










時間を空けて、彼の部屋に戻る。

部屋の中を確認するとベットに横たわる彼が。


「ふふっ…」

そーっと近づき、彼の可愛い寝顔を覗く。

今日は良く寝れているようだね…

そのままベットに入り込み、彼の匂いを嗅ぐ。

何故だか落ち着くいい香りがする…

さっきは恥ずかしくなっちゃって逃げちゃったけど。

今度こそしっかり堪能するんだ。


………まだアイツの匂いがする。

上書きしないと。

自身の体を密着させ、自分の匂いを刷り込むように動く。

しっかりと、落ちないように。

悪い虫が寄ってこないように。




「………ふふっ」

今まで、男にも何にも興味なかったのに。

君が表れて、あんな事件が起きて、僕の心をぐちゃぐちゃにかき乱したからこんなになってしまったんだよ。

今の僕は、君を独占したい気持ちでいっぱいさ。

君の髪だろうが爪だろうが、何も渡したくないんだ。

他の女どもにはね。


どうして近づいてくるんだろうね。

僕の匂いや印を付けているというのに。

もっと多く印を付けた方がいいのかな?

そうすれば、邪魔な女どもは近寄らなくなるよね。

それとも、しっかり見える位置につけた方がいいかな?

君が嫌がりそうだからやめておいたけど、こんなにも近づいてくるならそうするしかないよね?

そうだよね?


…今回は複数にしようかな。

そうすれば雅人に沢山触れられるし。

雅人に触れるだけで、僕の心は凄く満たされるんだ。

とても落ち着くんだ。

いいよね?

ダメなんて言わないでね?

じゃないとボクは、狂ってしまいそうだから。


…僕、こんな人間じゃなかったのになぁ。

ねぇ?雅人。

君のせいなんだよ?

わかってるよね?

絶対、責任取ってもらうからね?




「………逃がさないよ。絶対」




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