第17話 クラスマッチ前日の不安要素
6月に入って数日が経ち、クラスマッチ前日になった。
今日の5時間目の体育では、明日のクラスマッチに向けて、サッカーかバスケの好きな方を選んで各自模擬試合などで1時間使うことができるようになっていた。
村西のいる3組と、ウチのクラスの4組の2クラスでの体育。
3組は村西を含めてバスケ部が2人、経験者3人、バスケ未経験ながら2m近くあるバレー部の揃う、校内クラスマッチバスケ優勝候補筆頭。
1度体育館に集合したあと、サッカーをやるために外に出る二宮から声をかけられた。
「3組との模擬試合、全部スリー決めまくって勝ってこいよ」
「二宮も、シュート1本も決めさせるなよな」
「おうよ!」
バンッと背中を田川が強く叩く
「碇、見せつけてくれ」
―――しかし、正直オレは今日全く歯が立たないことが分かっていた。
「うわぁ〜!」
「カッケェ〜!」
男女の歓声やパチパチパチと拍手が響く。
3組 78―10 4組
先ほどの歓声はウチのチームが決めたものではなく、村西が鮮やかにレイアップシュートを決めたものだった。
ちなみに今日のオレは、1本もシュートを決めていない。
「ねぇ、碇くんってホームルームの時スゴイシュート決めてたって聞いたけどホントに?」
「碇どうしちまったんだ」
「【笹倉くんは】上手いよね、あと倉橋くん」
「ウチのクラスの男子バスケ枠はダメかもね」
1ピリオド10分の模擬試合を4回終え、汗をかいた顔をタオルで吹いていると、クラスの人たちの不安視する声が耳に強く聞こえてきた。ヒソヒソ話しているはずなのに。
「碇どうしたんだ今日、調子悪かっただけか?」
「ボールもすぐ取られちゃってたし」
笹倉と田川が心配そうに聞いてくる。
―――完敗だった。狙われていた。
ドリブルが全く出来ない代わり(初心者を惑わす程度は出来る)に、スリーポイントだけを極めに極めたオレのことを分かっていた村西は、ボールがオレの手に渡った瞬間に2人、もしくは3人で囲んできた。
どのように陣形を組んで攻めるか、パスを出すか、守るか、その軸となっているのがオレで、倉橋はサポート。他の3人はそれに従う。
そのため、始めからオレを崩し、メインの得点力、尚且つもしもの得点力を削いでしまえばウチの4組は壊滅するのだ。
今日の得点は全て笹倉と倉橋のプレーによるもの。オレにボールを回していては全く攻撃が展開しないと察して、チームメイトが笹倉にボールを集め、その笹倉は素早さを活かして相手を抜き、倉橋が決めるというものだった。
オレは蚊帳の外。ボールが渡れば奪われるだけのプレーの邪魔だった。
―――そう、このチームの不安要素はオレだ。
「ホンマすまんなぁまっちゃん。ボコボコにして。チームにもう1人上手い経験者のヤツがいたらお前は間違いなくバケモノになる。【地区選抜】の時はまさにそうやった。ドリブルが出来るやつがいればそいつを起点にプレーが展開できる。シューター特化のまっちゃんからしたら、そーゆうやつがいれば後はスリーポイント打つだけやしな」
模擬試合後に座り込むオレに、村西からぐうの音も出ない正論が告げられる。
「オレはやっぱりドリブルが出来るやつがチームに居ないと何も出来ないんだよなぁ」
「そうやな、ここまで差が出るんだから不安要素でしかないわな。【初心者相手なら無双できるけど、経験者相手には歯が立たない】。まっちゃんがバスケ部に入らなかった理由も頷けるわな」
「シュート練だけじゃこのチームで勝つのはキツいか」
「当たり前やろ。シュートの能力だけは認める。クラスマッチでは無双するなんて言ってたから、現実突きつけたんや。このチームなら、最低限碇がボールに触らないことやな。中途半端なボール運びしてて全部取られただろ?」
「まぁ………そうだな」
校外ホームルームのように、オレが中心となってドリブルをついていては明日勝てない。
「今日の最後みたいに笹倉くんを活かす。あとはお前はスリーポイントラインで動かなすぎ。ディフェンスに張り付かれたらおしまいや。せめてゴールに走り込んでから、逆サイドのスリーポイントラインまでV字に走ってディフェンスを乱す。それくらいはせんと。」
厳しい言葉だが、どれもこれもアドバイス。
「バスケ部に戻った気で考えてみたらいいわ。ボールを持っていない時の動き方。まぁ、正直今日のはガッカリやでオレも」
「すまんな」
「明日は見せつけてやれ」
その言葉に顔を上げ、村西を見る。
「今日はお前の評価を下げに下げた。でもまっちゃんはホントは外でごちゃごちゃ不安がってたヤツらを魅了できるスリーポイントシューターなんや。明日は絶対本領発揮してこい」
そう言って、村西は3組の男子の輪に混ざりに戻る。
クラスマッチでドキッなんてこと無いかな〜と浮かれた気持ちは今日で打ち砕かれた。
明日は、何がなんでも勝ってみせる。
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