第11話 死霊魔術


「そう言えば、あの世のモノとはもう会話したのかい?」


歩きながら、彼女は俺に聞いてきた。


「ああ。ダメだったか?」


「いや、感心したよ。あの世のモノと会話することが死霊魔術の基本だからね。」


「……そうか。俺って、その、素質があるのかな?死霊魔術の……」


「ああ。でなけりゃ、あんたを救ったりはしないさ。利用させてもらうよ、色々とね。」


「フンッ……そうかい。」


……拒否する権利は俺にはない。

だが、俺の魂は決して誰にも屈したりはしない。たとえそれが悪魔であろうとも……


「……到着だ。入んな。」


俺はエキドナと一緒に扉のない部屋へと入った。


「随分と死臭がする不気味な部屋じゃないか。骸骨だらけだし……足の踏み場がねえ。」


『助けて……』


「ん?」


無数の魂が、ホタルのように飛び交っている。


『苦しい!!』


『もう嫌だ!!もう嫌だ!!出してくれ!!ここから出してくれ!!』


「…………」


「おお!!……手頃なのがあった!!ヴィラン!!……おい、ヴィラン!!」


「なんだい?」


「この骸骨に魂を入れな。無数に飛んでるのが一杯いるだろ?」


「どうやって?」


「チッ!!……全く!!いちいち説明しなきゃしなきゃわからないのかいあんたは!?」


「……悪いね。学がないもんでね。物覚えがスゴく悪いんだ。」


「あ!!……すまない。少し言い過ぎた。とりあえず、杖の持ち手をだね。浮遊してる魂に向けな。そうすりゃわかる。」


俺はエキドナの言う通りにした。


「お? なんか魂を引っ張ってるような感覚だ。ちょっと面白い。」


『やめて!!やめて!!』


「……ふむ。その骸骨にコレをぶつければいいのか?」


「いや、ぶつけるというよりも、優しく当て続ける感覚かね。馴染むまでずっと当てるんだ。」


『嫌だ!!!!やめてくれ!!!!もう、嫌だ!!!!』


「……水をコップに入れる感覚に近い。」


『ぎゃあああ!!!!』


しばらくすると、骸骨が呻き声を出しながら動き始めた。


「ぐ……げ……が!!!!」


「ヒヒッ!!良くやった!!スケルトンの完成だ!!」


「……それで、このあとは?」


「そんなもん、冥界の杖でこのスケルトンの体を叩けばいい。どこでもいいよ。腕でも頭でも胴体でも好きな所を……誰が主か教えてやるんだ。」


「た……たす!!……助けて!!……たすけてぇぇ……」


「……ああ、ダメだ!!もう限界だ!!」


俺はその場にあった棒切れを掴むと、スケルトンの頭めがけて振り下ろした。


「……ギッ!?……」


「脆いな。……あっという間に砂になっちまった。エキドナ、こんなもんは何の役にも立たねえ。死霊魔術ってのは、もしかしてこんなもんなのか?」


「……そうだ。それが全てだよ。」


「……エキドナ。まずは、君の立ち位置を教えて欲しい。そして、敵のことを……」


「なぜ?」


「早く、あんたとの借りを返したい。こんなおままごとに付き合ってられねえんだよ俺は!!……俺は前に進みたいんだ。あの女……ミカエルを殺す為に!!!!」


「……ヴィラン。悪いが私はジョークってやつが大嫌いなんだよ。」


「ジョークに聞こえたか?俺は本気だ!!」


「魔法も使えず、スキルもないお前がどうやってあの女神を殺すってんだい?不可能だよ。」


「でも、殺るんだ。殺らなきゃダメなんだ。そうじゃなきゃ俺は前に進めない。」


「……その殺意……信じてやろう。奴隷のようにこき使ってやるつもりだったが気が変わった。あんたに全てを託そう。着いてきな。」


そう言ってエキドナはこの部屋から出ようとする。


「待てエキドナ。その前にやるべきことがあるだろう?魂達に……彼らに謝るんだ。そして、解放してやるんだ。」


「は?なんでそんなくだらないことを……」


「君は彼らをここに閉じ込め傷つけ苦しめた。俺も同罪だ。一緒に謝るのが筋だろう。」


「……わかった。わかったわかったよ!!ちゃんと謝る!!あんた達、今まで苦しめて悪かったね。あんた達を解放するよ。今までありがとう。」


「俺からも謝る。……すまなかった。」


エキドナは部屋の壁に貼ってあった魔法陣が書かれた絵を剥がした。すると魂達は次々と天井へと向かい、そのまま消えて行った。


「……ヴィラン。1つアドバイスしてやろう。死霊魔術を極めたいのなら、肉体から離れた魂を、ちゃんとモノとして扱え。さもないと、取り憑かれちまうよ。」


「……善処する。じゃあ、案内してくれ。」


「本当に大丈夫かねぇ……少し不安になってきた。」


「後悔はさせない。これは約束だ。」


「その言葉……信じるよヴィラン。さぁ、では、行こうか。私が作り上げたモンスター製造所へ。」

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