第22話22

 ただでさえコウとアキ王子の関係は微妙なのに、ここにウェラーがコウを訪ねて来た事で更に波風が立ち始める。

 アキ王子は部屋を出て、廊下をカウンターのある部屋に向かおうとした。

 

 (ウェラー、まだ、いるだろうか?…)


 しかし、突然足が止まった。


 (やはり私が独断で動けば、コウは増々私に対する感情を悪化させるだろうな……まず私はコウの信頼を得ないと、恋や愛以前の問題だな…)


 アキ王子はそう思うと、閉めた後まだ握っていた廊下側のドアノブを回し、部屋に戻ろうと扉を開けた。

 すると扉が重く、当然重たいはずだ…コウが部屋側からドアノブを握ってアキ王子を追いかけようとしていた所だった。コウは慌てていて上半身も裸のままだった。


 「えっ?!」

 「えっ?!」


 コウとアキ王子は同じタイミングで同じフレーズを言うと、扉が開いた瞬間に互いに正面同士でぶつかる。次の瞬間、コウもアキ王子も咄嗟に互いが倒れないように、かばうように互いの背中に腕を回していた。しかし、アルファのコウよりオメガのアキ王子が背が高く、今誰か第三者が見ていたら、アキ王子がアルファでコウがオメガに見えるだろう。


 「何処へ行く気ですか?俺以前アキ様に言いましたよね。どこか行くなら俺が寝てても必ず、必ず起こして言って下さいと!俺に黙って一人でどこかへ行かないでくださいと!」


 扉の閉まった部屋の中。

 コウは、自分が上半身裸なのも構ってられず王子と抱き合うような姿勢のまま、王子を見上げて眉根を寄せた。兎に角アキ王子は、普通のオメガと違い活発で何をしでかすか分からない所がコウを戸惑わせる。

 

 「……少しは、私を心配してくれてるんだ?」


 アキ王子は、コウの裸を見て頬を赤らめながらそう言うと微笑んだ。

 コウは、王子を追いかけようとして部屋のランプには灯りを付けていたので、コウに王子の表情はよく見えていた。けれどコウは、それには一切構わず真顔で淡々と答えた。


 「ええ……そりゃ普通誰でも心配するでしょう。貴方は国王陛下の御子息なので…」


 正直コウは、アキ王子の事を面倒臭いと思っている。

 しかし、思っているはずなのに王子を放っておけないコウ自身に辟易しながら、放っておけない理由も深く考える間も無く、いかにもと言う理由を咄嗟に付けた。

 するとコウの言葉に、途端にアキ王子の顔付きが少し曇った。そう、まるで王子の心が傷ついたかのように。

 今度は、その王子の翳っても美しい表情にコウがドキッとした。

 しかし、コウはすぐに冷静を取り戻す。


 (ダメだな……このアキ様の顔のせいで、俺は変にアキ様に同情して流されてるだけだ。やっぱこのままズルズルアキ様を俺の傍に置いとくのは良くねぇな…)


 コウはそう思うと、わざと口調を冷たくして言った。


 「俺との約束を果たして頂けないなら、今すぐにアキ様を迎えにくるよう俺が手紙を書き使いの者に城に持って行かせます。迎えが来たらどうか陛下の所にお帰り下さい」


 そう言いながらコウは、王族のアキ王子がアルファと言え格下のコウにこれだけの事を言われて平気でいるとは思えなかった。いくらアキ王子でもキレて、流石にコウに何か言い返し父親の元に帰ってくれると思った。

 でもそれで良いのだ。

 コウは、アキ王子が面倒臭いし、アキ王子だけじゃない、ウェラーも面倒臭いし、コウの父親も面倒臭いし、本当は彼等と向き合いたくなかった。


 しかし…


「ごめん……済まなかったコウ。つい、ウェラーと少し話したくて独断で行動しようとしてしまった……でも、やはりコウの了承を得ないとと思って引き返したんだ」


 アキ王子は、キラキラしたキレイな瞳でコウの目を見ながら真摯に告げた。


 「はっ?!」


 予想外の王子の反応に、コウは目が点になった。


 「コウと私は番になり結婚するんだから、これからは気をつける」


 アキ王子はそう言うと、向かい合うコウの両手を王子のそれで握った。


 (あっ……いやそうじゃなくて……アキ様って、マジメンタルつえーな!それに、何でアキ様がウェラーを気にするんだ?それに何でもう俺と番になって結婚するのが決まってんだよ!)


 コウは、アキ王子に唖然としたが、ウェラーを発端にアキ王子とモメている最中だが、ウェラーの事は後回しにして、それならこの機会にある爆弾発言をして、王子にコウを断念してもらおうと思った。

 だがそれは、出来れば王子に最後まで言いたくなかったコウの体の事で、最後まで伝えないまま王子にはコウを諦めて欲しかった。


 「アキ様……俺と番になって結婚とおっしゃいますが、俺はご存知の通りフェロモン不完全症です。フェロモン不完全症のアルファは生殖能力も落ちていて、将来子供を作るのがかなり難しいんです」


 コウが言い終えると、アキ王子は真剣な表情になった。

 

 (今度こそ、いくらアキ様でも俺から手を引いてくれるだろう。言いたくなかったけど、これでいい。これでいいんだ)


 コウは、心の中で自信を浮かべた。


 だが……


 「だから……それが、子供を作るのが難しいのが何なんだ?コウ…」


 オメガのアキ王子はそう言うと、アルファのコウを抱き締めた。

 しかし、アキ王子は抱き締めているようで、アキ王子からコウにすがりついているようでもあった。

 


 


 




 




 


 






 


 


 




 




 


 






 




 


 



 


 


 

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出来損ないアルファ公爵子息、父に無限エンカウント危険辺境領地に追放されたら、求婚してきた国王一番の愛息、スパダリ上級オメガ王子がついて来た! みゃー @ms7777

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