第26話 『きゃっ(///)』

「それじゃ、乾杯ッ!」「乾杯ッ!」


 我が家のリビングにて。

 俺と芹沢さんはコーラの入ったグラスを合わせ、そのまま煽る。


「「くぅ~」」


 これが勝利の味。何という美味さであろうか。

……別に勝ってはいないんだけどさ、漫才を続けられる事になったし、勝利って事でいいよな?


「早く食べましょ! もう、お腹ぺっこぺこよ!」


 その意見には大賛成だ。

 俺はこの打ち上げのために注文しておいた宅配ピザの蓋を開いた。


「御開帳!」

「うっわ! 何なのこの美味しそうな食べ物!」


 湯気を上げるのは、四種類の味が楽しめるクォーターピザだ。


「いただきます!」


 芹沢さんは具材たっぷり、カロリーもたっぷりなテリヤキチキンのピザを頬張る。


「最高!」

「野菜も食べるんやで」


 ピザだけだと不健康なので、サラダは用意しましたです、はい。


「ほら、アンタも食べなさいよ!」

「では」


 シーフードのピザを食う。そして、コーラで流し込む。

 まじでこの組み合わせは悪魔的だわ。バカうめぇ。

 財布には大打撃だけど、その価値は十分あるんだよなぁ。


「いやぁ……それにしても」

「うん?」

「まじで大変だったなぁ。色々ありすぎた」


 出会ってからもそうだけど、決勝進出を決めてからはまじで激動の日々だった。

 ストリート漫才に、芹沢さんの転校騒ぎ、それからネタをパクられて……お父さんと対峙。一年分くらいのエネルギーは使ったかもしれない。


「芹沢さん、わんわん泣いちゃって大変だったわ」


 いたずらっぽく言うと、


「そ、その事は言わないでよっ!」

「あはは」

「全然面白くないっ! ばかっ!」


 照れた様子の芹沢さんがあまりに可愛くて。

 好きな子をイジメる小学生のように、


「あたし……やめたくないよぉ」と俺。ちなみに顔真似付きだ。

「ぎゃー! ホントにやめてぇ!」

「草」

「草じゃないっ!」


 そろそろ怒られそうなので、イジるのはこれくらいにしておこう。


「もうっ」


 ぷくっ、と頬を膨らませると、小さく「意地悪」と漏らす。

 その声も、仕草も……すべてが世界一、いや宇宙一可愛いな、と思う。

 ……実感する。

 好きになってしまったんだなぁ、と。

 どう考えても、俺と芹沢さんでは不釣り合いだ。

 相方の関係を超えて、彼氏彼女になんて……なれるとは思わない。

 好きにならないように必死だったのにさぁ?


「ま、まぁ……?」

「おん?」

「笑い話にできるのは……アンタのおかげだし」

「……そうか?」


 結局、俺は何にもしてないような気がするんだけど?

 そのまま口に出すと、芹沢さんは「そんな事ないわよ」と即答した。


「アンタがいなかったら、きっとあたしはステージに立てなかった。そしたら、お父さんは認めてくれなかったかも」

「まぁ、そうなの、かね?」

「とにかく。あたしは色々、全部まとめて、アンタには感謝してる」


 俺の目を真っ直ぐ見ると、芹沢さんは軽く頭を下げた。


「ありがとね」




 ピザを腹いっぱい詰め込んだ俺達は、お互いに腹部を摩りながら、三人掛けソファーの両隅に腰掛けた。


「あー、もう何も食えんっ」

「あたしも」

「「はふぅ」」


 背もたれに寄り掛かると、疲れからか、満腹からか……強烈な睡魔に襲われる。


「ふぁーあ」特大の欠伸が飛び出す。

「眠いの?」

「まぁ、それなりには」

「寝てもいいわよ」


 魅力的な提案だけど、芹沢さんを送っていかなければならない。


「いや、そーゆーわけには……ふぁ」体は正直である。

「ちょっとしたら起こしてあげるわよ」


 それはまさに天使の一声だった。一瞬にして白旗を揚げる事を決意。


「じゃあ……三十分だけ」

「おっけー」


 ゆっくりと目を閉じると、睡魔は二乗にも三乗にも膨れ上がっていく。

 あー、速攻で眠れそうだわぁ。


 ……。

 …………。


「……桜井? まだ起きてる?」


 意識が完全に落ちる寸前、俺の鼓膜が振動した。


「……なに?」


 何とか言葉を返すと、少しの間を開けて。


「……してあげよっか?」


 ん? 今なんて言ったんだ? 何かをしてくれるって?

 最初の方が上手く聞き取れなかったのだ。


「……なんて?」

「…………ひ、膝枕……してあげよっか?」

「……ほえ?」

「ふ、深い意味はないのよっ? ただっ、アンタには感謝してるし……」

「……ほぉ?」

「お、男の子って……す、好きなんでしょ? ひ、膝枕とかっ……」


 半分落ちている俺は、特に何も考えずに答える。


「……じゃあ、お願いしまする」

「りょ、りょおかい」


 カサカサッと、スカートとソファーが擦れる音が聞こえると、俺の後頭部は持ち上がり、柔らかい何かの上に着地する。

 あ~、何これぇ。すっげぇ心地いいんですけどぉ?


「か、勘違いはしないでよっ? べ、別に深い意味はないんだからっ……ねっ」

「……んー」


 そこで、俺の意識は途絶えた。

 だから、その先の事は……何も聞こえていない。

 ホントだよ?


「……桜井?」


「もう寝ちゃった?」


「……」


「はっや。よっぽど疲れていたのね」


「……はぁ」


「……まさか…………あたしの方が好きになっちゃうなんてね」


「……どうしよう」


「桜井はあたしみたいなタイプ……好きじゃないかな?」


「詩織ちゃんみたいな、女の子って感じの子の方が……?」


「……はぁ」


「……」


「…………」


「………………」


「涎たらしちゃって……かわいーなぁ」


「……………………」


 ——ちゅ。


「……きゃっ。や、やっちゃったっ」


「……で、でも。もっとすごい事したわよね、あたし……」


 ——ちゅ。


「きゃーっ」


「………………えへへ」


「好きよ、桜井」


「うぅん……伊織?」






●ご連絡

最後まで読んでくれてありがとうございます!

伊織と笑顔の物語は一旦、ここでおしまいになります。

少しでも楽しんでもらえたら、そんなに嬉しい事はありません。


……おしまいと言いつつ、もうちょっとおまけ的な事を書きたいなぁ。

未定ですけど、何かしらはあげると思います。


応援・作品のフォロー・☆評価等してくれると泣いちゃいますw

よろしくお願いします( ゚Д゚)

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『初めてだから、できるだけ優しくして欲しい』そう言った銀髪少女にツッコむ事を決めました。 鷺澤 いのり @sagisawa09

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