第5話 行間

 「空気を読む」という言葉がある。

 

 正確には「場の空気を読む」であろう。

『場の空気とは、日本における、その場の様子や社会的雰囲気を表す言葉。とくにコミュニケーションの場において、対人関係や社会集団の状況における情緒的関係や力関係、利害関係など言語では明示的に表現されていない関係性の諸要素のことなどを示す』とWikipediaには記されている。


 しかし『行間を読む』とは聞き慣れない言葉ではないだろうか。

 

 私は過去に15年ほど、MMORPGというジャンルのゲームをしていた。

 昨今のVC(ボイスチャット)機能などが無い時代のオンラインゲームでは、コミュニケーション手段は当然チャットに限定されている。

 しかも私は「女性」としてゲームをしていた。俗にいう「ネカマ」というやつだ。


 どうして女性と偽っていたかというと、そのルーツはさらに遡る。

 以前、チェスを嗜んでいたという旨を明記したと思うが、日本においてチェスを現実で、しかもチェスボードと駒を使って対面で打てることなど皆無に等しかった。

 当時私はJCAに所属しており大会などは出ていたものの、それ以外で打つ機会というのがオンラインしかなかった。

 そこで注目したのがハンゲームである。


 某2ちゃんねるが最盛期のころであるが、ネットの世界はやはり男性利用者が圧倒的に多く、男性プロフィールで対戦申し込みをしてもなかなか対局できずにいた。

 そこで女性に変えたところ、連日入れ食い状態と化した。誠にけしからん。


 そこで身に付けたことがある。

 ネット男性というのは、頭脳明晰で少し気が強く、二割ほど優しさを見せる女性にとても弱い。そして強く惹かれる傾向にある。

 それが拍車をかけて「女性」だと思い込んでしまう。

『あまり夜更かしはよくないですよ。明日もお仕事ではないですか?ちなみにお仕事は何をされてるんですか?』などと興味を示したと思えば『別に興味ないですけどねw』と突き放しセットでイチコロである。

 

 さりげなく書いたが、これが行間を読むというものだ。


 文章には直接表現されていない筆者の真意をくみとる、汲み取らせる。

 チャットと小説とでは多少違うが、前者は「人間味を伝える」ことで、後者は「目に見えないことを紐解く」ことだと個人的には思っている。


 正直、これをチャットで書く側も、小説から読み取る側も高度な技術が必要だと思う。

 

 最近ではSNSの普及に伴い、中身の無いキャッチーな短文が妙にウケたりする。

 おそらくSNS最盛期の世代で育ったものは、行間を読むことができない。

 それどころか「書かれていないことを読む」人種まで現れる始末だ。これは行間を読むこととは全く違う。要点を抽出することと、蛇足を加えることは正反対だからだ。

 ネットリテラシーが問われているのはこれらも背景にあるだろう。


 YouTuberが度々炎上したり、著名人がモラルを追及されたりと動画界隈は何かと忙しない。

 彼(彼女)らに必要なのは読書であろう。

 言葉を変えればインプットとも言える。

 インプットの少ない人間がアウトプットばかりするから酸欠になり、さらには幼児後退して短絡的な言動ばかりする。


 それほどに「行間を読む力」というのは重要なのだ。

 この延長線上にはコミュニケーション能力も関わってくる。


 ネットの普及で、読解力や訓練を経ていなくても、誰もが自由にテキストと情報を発信できるようになった。そして同時に、流通するテキストと情報の質でいうと、それはそれは著しく低下したことは否めないだろう。

 これはカクヨムの小説界隈でも同じである。


 まずは経験を積む。失敗を積み重ね、糧とする。

 私たちは無から有を生み出すことはできない。

 言葉選びには人となりが出るものだ。

 

 私はこれを書きながら、少し喧嘩をしてしまった妻へのLINEをどう返すべきか悩んでいる。

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