第2話 1時間目

「やっべー、ハサミ忘れた」

 1時間目は図工だ。郁ちゃんは鞄の中をガサゴソとかき回している。

「おい、まに太!ハサミ貸せよ」

 まに太くんが返事をする間もなく、郁ちゃんは後ろの席から手を伸ばして、まに太くんのハサミを奪い取った。

「ひどいわ、郁ちゃん!」

 まに太くんの隣の席の弘子ちゃんが郁ちゃんをたしなめた。

「お前の物は俺の物だよ。な、まに太」

 郁ちゃんは自分のことを俺とかいう女子だった。


「おい!まに太!このハサミ切れねえぞ!」

「それ左利き用だから…」

「ほんとお前、使えねえな!」

 郁ちゃんは、まに太くんのハサミを窓から校庭へ向けてぶん投げた。

「渡邉くん、そういう態度は良くないよ」

 出来芝くんも郁ちゃんに注意をした。

「君は怒りっぽいところがあるようだね。そういうのはカルシウムが不足しているんだよ。君には土井善晴先生の『一汁一菜』をおすすめするよ。心と体を作るには、まず食から見直すべきだよ」

「う、うっせーよ、出来芝」

 郁ちゃんも出来芝くんの言っていることがよく分からなそうだったが、調子を狂わされたのか、まに太くんに絡むのをやめた。


「まに太さん、ハサミならいっぱい持っているから貸してあげるわ」

 弘子ちゃんは文具をいっぱい持っていた。

「コクヨとミドリとサンスターのがあるけど、どれがいい? 切れ味だとコクヨが一番ね。持ちやすさだとやっぱりミドリかな。地味だけどサンスターもいいのよ、私はこれが一番好き。あ、でも左利き用はないの、ごめんね」

「ど、どれでもいいよ」

「消しゴムも貸してあげる。みんなMONO消しゴムを使っているでしょう? 私はこれ、レーダー。珍しいでしょう。なんでみんなMONO消しゴムを使っていて、レーダー消しゴムを使っていないのかって不思議じゃない? そこには秘密があってね…」


「おーい。そこ静かにしろー」

 先生に注意されるまで、弘子ちゃんのおしゃべりは止まらなかった。

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