第5話 敗者の帰趨

「池田じゃん」

 

 帰宅時、駅のホームを進もうとする京也を呼び止めたのは、知文だった。

 知文とは、6年生最後の組分けテストの日にこのホームで出会して以来である。


「おう、久しぶり…」


 声で彼と分かった京也は、−−愕然とした。

 知文の黒の学帽にあのペンと剣の校章を見たからである。

 そうでなくとも、今朝は青葉英朋に隣接する教駒に通う連中に駅のホームで囲まれたばかりである。

 

 目を疑った京也は、不覚にも、もう一度知文の学帽に目をやってしまった。

 すると、これに気づいた知文の視線が今度は京也のネイビーの学帽に向けられた。

 京也は身動きできず、この視線に耐える他なかった。


「お前、青英に入ったのか。こっからどのくらいかかる?」


「55分」


「結構遠いじゃん、えらい、えらい」


 京也は何とか笑みを浮かべ、その場を後にした。

 …進学教室のテストでは一度も負けたことはない。いや、6年になってからは同じテストすら受けていない、一度もCコースに上がれなかった奴が開栄なんて、俺だって絶対に入れた!


 京也は自分の学帽を投げ棄ててしまいたかった。こんなみっともない格好で外を歩くのはいやだ、そう叫びたかった。


 昨年の晦日と同じ気持ちに陥った京也は、改札口を見下ろす階段をとぼとぼと進んで行った。


 (未完)

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12歳の敗北 one minute life @enorofaet

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