第8話

 ミユキの家からの帰り道。自宅近くまで来たところで違和感を覚える。


 暗がりの中、俺の家の前に誰かが立っている。


 遠目から見ても女とわかるシルエット。あれはたぶんミナミだろう。


 今から一本裏の道に移動して朝のように勝手口から家の中に入ればあいつと遭遇することはない。


 だが、そもそも何故俺があれから逃げるようにしないとならないのか?

 すべてのせめはミナミにあり、こちらには一切の瑕疵かしはない。


「堂々と家に帰ろう」


 なにか言われたらそのときはその時。最悪無視すれば済むこと。

 俺はそのまま歩を進めて門扉の前まで進む。


「あ、カズヒト。おかえり、今日は遅かったんだね」


 ミナミは何事もなかったように俺に話しかける。


「何のようだ? 俺はおまえになんか用事はない」


「そ、そんな事言わないでよ。ウチとカズヒトの仲じゃない? ね、部屋でしようよ?」


「おまえ自分が何をやったのか分かっているのか?」


「えっ? もしかしてダイスケのこと? あれはただの遊びだよ。本気なのはカズヒトだけだよ」


 遊びだったら何をしてもかまわないとでも言うのだろうか? ミユキの言葉を借りればな。


「っざけんな。遊びだろうとなんだろうと関係ない。おまえは俺を裏切った。一度ではなく何度もだ。おまえの過去の所業も全部聞いた」


「聞いたって何を? 誰に?」


「おまえには関係ない。昨日も言ったがおまえの小汚い顔は二度と見たくない。俺の前から消えろ」


 それだけ言うと俺は門扉を開けて家の中に入ってしまった。


 あいつは暫くうちの玄関のドアを叩きながらなにか騒いでいたが、母さんが向こうの母親に連絡をしたようで、一際大騒ぎしたあとに静かになった。


「ねえ、兄ちゃん大丈夫?」


「問題ない」


「今度あんな風に騒いだら警察を呼ぶって向こうの母親に通知したから二度とこんなことにはならないと思うわ」


 ヒトミは俺を心配してくれて、母は向こうの家に最後通告をしたようだった。


 ミナミの何も理解していない話しぶりには恐怖すら覚える。

 あいつは今日、学校を休んでいたがどう見ても体調が可怪しいようには見えなかった。ならば明日は確実に登校するだろう。


 学校での対処方法も考慮しないとならない。


 クラスが別なのは幸いだが、所詮はその程度。もし休み時間の度に押しかけられてはこちらとて保たない可能性も。


 ヨースケやミユキにも協力を求めたほうがいいのだろう。他のクラスメイトにも。


 そもそも浮気を繰り返すくせに俺に執着するのは何なのだ。

 いや、理由などどうでもいい。二度と関わらないという結果だけあれば良い。

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