第20話 全て白日の下に


 


 スホは父親の岸田雄介から芸能界入りを猛反対されていた。その為父の財力を全く当てにできない。まだ駆け出しの頃は、お金が無くて苦労したものだ。


 エンターテインメント・キングの養成所時代には、演技指導を徹底的に叩き込まれたが、その演技指導費用も相当なもので、月々30万円ほど掛かる。


 金持ちの父親雄介は頑としてお金を融通してくれない。


 それは……当たり前の事。


 お金に困り、いそいそと戻って来てくれる事を切に願っている。


 何といっても跡継ぎとして『キシマル』を継いで欲しいばかりなのだ。



 そんな窮地に立たされているスホの目の前に現れたのがロアだった。

 ファンを装い近づいて来たのが、母親以上も年の離れた女性ロアなのだ。


 スホが18歳の時からのスポンサーなので、かれこれ10年ぐらいの付き合い。


「スホ行かないでおくれ!あれだけお前には人脈もお金も使った。今更私を捨てると言うのかい……私が知らないとでも思っているのかい?あんなジアンとか言う娘のどこがそんなに良いんだい。只の財閥のお嬢様と言うだけじゃないか、お願いだ別れておくれ~!もし別れてくれさえすれば……私の遺産は全てスホに残す。遺言書に書いて置く。だから別れておくれ……お願い!さもないとあのジアンて娘に、私たちの事をバラすから……お願い。いかないで……抱いておくれ……」


 スホはジアンを愛しているが、今までのキャリアも失いたくない。当然ロアの力は絶大だ。

「💋.:*:・プチュ.:*:・'°☆💕👄あああ」

 

こんな……いつ終わるとも知れない偽りの関係に、辟易しながらもロアから逃れられないスホがいる。

 


 そして…スホは愛するジアンが居ながら、こんな高齢の女性との関係に何とか逃げ出さなくてはと、もがき苦しんでいる。


「アァ~!あの時は人脈を作る為に、何が何でも上り詰めたかった俺は、芸能界とも裏社会とも太いパイプのある、この大金持ちの女性を何としても者にしなくてはと必死だった。ああああ……バカだ、どうしたら良いんだ……何としても縁を切らなくては……もしジアンにこんな事がバレたら……もう完全にジアンは俺から離れるに決まっている。ああああ……どうしたら良いんだ?」


 一昔前は芸能界はやくざとは切っても切れない関係だった。


 それは今でも近からずも遠からず

 スホは困り果てて居る。


 もし、ジアンにこの関係が知れたら……?



 ◆▽◆


 ミレ自動車社長チュェ氏は、探偵にスホとその家族を徹底的に調べさせている。


 岸田コ-ポレーションの御曹司で本名岸田隼人。


 養子縁組届も提出されていて、事実上の親子関係だが、実はスホは北朝鮮に拉致された、今尚時の人、北朝鮮の裏の女帝と呼ばれる久美子と大蔵省のエリ-ト加藤雅之の子供ではないかとの情報を入手。


 更には、やり手の謎の女社長キム・ロアは、スホのマネージャー兼母親代わりと目されていたが、実際は金に物言わせてスホを名実共に支配している、女狐である事が分かって来た。


 更には10年近くも、夫婦同然の生活をしていた事も分かって来た。


 そして…朗報が飛び込んで来た。最近はあの母娘3人詩織とすみれに百合殺しは、警察関係者の話で分かった事だが、犯人は岸田雄介では絶対ないとの見解なのだ。


 その為、膠着状態だったチュェ氏とスホの2人にも、やっと融和ムードが続いていたそのさ中に、この様なロアとの事が分かってしまって、取り返しが付かない状態になった。


 チュェ氏は、その事実を娘のジアンに話す前に、スホを呼び出し全てを話した。

 スホは全てを知られてしまい返答のしようがない。只々謝るばかり。


 もうどうなっても良い。でも……このまま何もしないで、あれだけ愛したジアンを諦めるなんて出来ない。


(どんなに惨めな結果になろうが、恥をかこうが、やるだけの事はやって、それでもダメだったら諦めよう。それから本当の両親てどういう事?それも……北朝鮮の女帝久美子が本当の?俺の父は岸田コ-ポレーション社長の岸田雄介じゃないのか……?アアアア……あの……たま~に微かに現れる……夢なのか?幻なのか?ボヤ~ッと現れる女性は北朝鮮の裏の女帝久美子と言う女性に確かに……似ている様な……夢に現れる女性は何とも優しい聖母様のような女性だが、でも確かに……そう言えば……夢に現れる女性と久美子は非常によく似ている。ああああ……会いたい!夢にまで見た母が北朝鮮の裏の女帝久美子だとは……それでも会いたい。ああああ……会いたい!どんな事をしても……北朝鮮に行きたい。母親と目されている久美子に会わなくては……」


 一方の父のチュェ氏は一刻も早く娘が、こんなとんでもない男の事を忘れて欲しいばかりに、洗いざらい娘に話した。


 ジアンはショックの余り全てを忘れる為に、タイの首都バンコクに拠点を移した。


 何故バンコクかというと、ミレ自動車ベトナム工場が有りミレ自動車の社員達も多く住むこの町は、ジアンにしても第二の故郷。


 家族で度々短期で生活した事のある、この地に望郷の思いこそあれ、なんの躊躇が有ろうか。住むのならここしか考えられない。



(もうあんな男絶対許せない!スホと別れる為にも早く韓国から離れよう。このままズルズル韓国に居ても楽しかった思い出がオーバ-ラップして、苦しくて悲しくてやりきれない)


 そしてタイのバンコクに向かう前にスホと会って、最後の話し合いが持たれた。

 スホも全て白日の下に晒されて弁明の余地もない。


 だが、このままでジアンと別れてしまう等どうして出来よう。スホはジアンに、こんな事になった事情を詳しく説明している。


「本当に黙っていてゴメン!悪かった。こんなどうしようもない男の事なんか、絶対に許してくれないと思うけど……どうしようもなかったんだ。父親の岸田雄介から芸能界入りを猛反対されていたんだ。まだ駆け出しの頃はお金が無くて、本当に苦労したものだ。エンターテインメント・キングの養成所時代には演技指導を徹底的に叩き込まれるが、その演技指導費用も相当なもので月々30万円ほど掛かるんだ。だが宝の原石と目を付けられていた俺の場合は、事務所も金銭面では多少のバックアップはしてくれたんだが、それでも異国の地にやって来て、北朝鮮訛りを治す事や、生活習慣など学ぶことばかりで、お金は湯水のごとく出て行ったんだ。父親雄介は頑としてお金を融通してくれないし、そこにファンを装い近づいて来たのが、母親以上も年の離れたロアなんだよ。俺だって嫌だったさ!だけど有名になる為には、やはり人脈やお金はどんな事をしても必要なんだ。俺だって最初から芸能界に興味が有った訳じゃないんだ。でももう後戻りは出来ないし……俺、ロアとどんな事をしても別れるから、頼むからチャンスをくれ!」



「私を抱いておきながら、平然とそのロアおばさんを抱いていたなんて腹立たしくて

、考えただけでも身震いがするわ。絶対許せません!もう私の前に現れないで……」


「俺絶対ロアと別れる。だが?ジアンは失いたくない!別れるのは暫く冷却期間を置いてでも良いじゃないか?」


「じゃ~?半年間だけ様子を見る事にするわ。もし半年後に女の影がチラ付いていたら今度こそおしまいよ……」


 スホはジアンを失いたくない為に、ロアと別れるべく必死になっている。そして夢にまで見た瞼の母に何としても会いに行く決心をした。


 北朝鮮の久美子に会うべく色んな手続きを取っている。


 南北緊張が続いているが?近年は僅かに緩和されて旅行も出来るようになって来ている。日本にも北朝鮮旅行ツアーが有るらしい。


 現在はコロナ渦の時期だから、チョット無理だが……?





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